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~椎名 伸夫の場合~ 2




テロリスト達が教室に侵入してきてからどれほどの時間がたっただろう。 

彼らが何の目的でこの教室を占拠したのかも分からないまま、息の詰まるような時間がじりじりと過ぎていく。



――焦っては駄目だ、反撃のチャンスは必ずある。


伸夫は逸る気持ちを抑えて、自身に言い聞かせた。



さらに三十分ほどが経ったとき、突然テロリストのリーダーらしき男が伸夫の方に向かって歩いてきた。



――ついにチャンスが来た! 


伸夫は机の下でこぶしを固めた。

そして、自分が取るべき次の行動をイメージする。

まずは、リーダーの顔面を殴って戦闘不能にし、しかるのち羽交い絞めにして銃を突きつける。

そうすれば他のテロリスト達も銃を捨てて降参するだろう。



――さあ来い、一発ぶち込んでやる!



伸夫の研ぎ澄まされた精神が戦闘モードへと切り替わった。

大量のアドレナリンが伸夫の脳内を駆け巡る。

これは歴戦のソルジャーだけが成せる技である。



伸夫は攻撃に移るタイミングを見計らう。


――もうすこしだ。



だが、リーダーは伸夫の席の少し前で足を止めた。


――まさか、このおれの殺気に感づいたのか。

伸夫の額から一滴の汗が落ちた。



だが、リーダーの視線の先に居たのは伸夫ではなかった。



「おい、そこのお前」


「……えっ?」

そう言って顔を上げたのは、伸夫の斜め前の席に座っている長髪の美少女、篠原亜美だった。


「そうだ、お前だ。ちょっと一緒に来い」

リーダーは卑猥な笑みを浮かべ、亜美の腕をむんずと掴んで立たせた。

腕を掴まれた亜美は、「いやぁ! やめてぇ!」と泣いて抵抗したが、男は構わず亜美を引きずるようにして連れて行こうとする。


――亜美ちゃん!


伸夫は怒りで体中がカッと熱くなり、思わず立ち上がっていた。

それに気づいたリーダーは、伸夫の方に銃を向け発砲しようとした。

だが、伸夫の方が一瞬早く、電光石火如きスピードで男に飛びかかり銃を掴んだ。


「て、てめえ! 何しやがる!」

伸夫とリーダーは銃をめぐっての激しいもみあいになった。

教室に居た他のテロリスト二人も慌てて銃を構えるが、二人がもみ合い状態のため引き金を引けずにオロオロしている。



テロリストのリーダーにとって最も不幸だったのは、伸夫がCQCの天才であったことだろう。



リーダーが銃を相手に渡すまいと力を込めて引っ張った瞬間、伸夫は銃を掴んでいた力を緩めた。

リーダーは一瞬バランスを崩した。

伸夫はその隙を見逃さず、相手の腕を掴むと思いっきり捻り上げた。


「ぐわああああああ!」


リーダーの絶叫が教室に響き渡った。

悲鳴を聞きつけた歩哨の二人も慌てて教室の中に駆けつけてくる。

伸夫はリーダーが床に落とした銃を素早く拾うと、腕を押さえて痛がっているリーダーを羽交い絞めにし、銃口を突きつけて叫んだ。


「動くな!!」


テロリスト四人は銃を伸夫の方に向けたままで固まった。


「銃を捨てろ!」


四人は、なおも銃口を伸夫の方へ向けたまま動かない。


「銃を捨てろと言っている!」


伸夫はもう一度警告して、引き金に掛けた指に少しだけ力を込める。



「ま、待て。……じゅ、銃を下ろせ」


羽交い絞めにされたリーダーは呻くような声で言った。

四人は、憎々しげに伸夫を睨みながら、ゆっくりとした動作で銃を足元へ置いた。


「よし、そのまま下がるんだ」


伸夫がそう言葉を発したとき、



「ひぃやぁあああぁ!!」

と悲鳴を上げて、廊下側最前列の席の河戸隆二という男が廊下へと飛び出し、一目散に逃げ出した。




余談になるが、この河戸隆二という男、中学生の癖に髪を染めたりなんかして悪ぶってみたり、やたらと自分はすごい男であるとクラスメートに威張り散らしてたりするものの、実は小心者の小物でしかないことはクラスの誰もが知っていた。

また、『俺は女とヤッたことがある』などとクラスの男子に卑猥な自慢をしたりしているが、本当は童貞であることも皆知っている。

閑話休題。




……ともあれ、その隆二の愚かな行動は、伸夫に一瞬の油断を生じさせた。

そして、リーダーはその隙を見逃さなかった。

リーダーは思い切り頭を後ろへと振り後頭部で伸夫の顔に頭突きをした。

「ぐっ!」

衝撃に伸夫は大きく仰け反る。

床に伸夫の鼻血が滴り落ちた。


伸夫の羽交い絞めを逃れたリーダーは素早く配膳台の裏に身を隠すと、「殺せ! そいつをぶっ殺せ!」と号令を発した。

テロリストの部下四人は足元のAK47を拾うと、伸夫に照準を合わせる。

伸夫は素早く身を翻すと教師の机の裏へと滑り込んだ。

テロリスト達のAK47が一斉に火を噴く。

伸夫の隠れた机は一瞬にして蜂の巣となり、机の上に置かれていた花瓶が割れてチューリップが伸夫の頭の上に落ちてきた。



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