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伝わらない想い  作者: ミサ
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8 離別宣言後、そして…新しい私

 --- 遼祐に許嫁? ---

 家に帰ってリビングで放心状態でいると、インターフォンが鳴った。

 ノロノロと立ち上がり、玄関まで行く。

「…はい?」

「結唯子、良かった! 帰ってたんだ」

 遼祐---何で?

「何か用?」

 扉越しに訊ねる。今は彼の顔を見たくない。

「仕事が早く終わったから…携帯に電話しても出ないから、直接ここに来たんだ。結唯子の顔が見たくて」

「…ごめん、今日は……帰って」

「どうした? 気分が悪いのか?」

 心配そうに聞く彼の声に、涙が出そうになる。

「うん、少し熱があるみたいなの。だから早く眠りたい」

「そうか、何か欲しいの無いか? 買って来るけど」

「ううん、眠れば治ると思うから」

 私の嘘を信じた彼は『判った。ゆっくり休めよ』と言って、帰って行った。

 私は玄関に座り込んでしばらく泣いた。

 何で? 私に家の事とか許婚の事とか、何も言わなかったの? やっぱり、遊びだから……私には関係ないって思ってるの?

 本当の事を教えてくれなかったという事実に私は胸が痛んだ。

 もう……リョウとは付き合えない。御曹司なんて知らなかったから……私なんて彼に相応しくない。

 そして---数日後、心を決めた私はリョウに離別宣言をした。



 別れを切り出してからの私の行動は素早かった。

 携帯を買い替え、長年住んでいたマンションを引っ越した。

 全て、リョウとの関係を断ち切りたい一心だった。

 ただ、愛華さんはリョウの実姉だから、どうしようもない。まさか事務所まで辞めるなんて出来ない。

 だから彼女には【離別宣言】をした事を告げ、リョウが会いに来ても追い返してくれる様に頼んだ。勿論、住んでいる場所も教えない様にと口止めをした。

 そして私は別れた辛さを忘れる為に、【アンジェリア】のモデルという新しい仕事を引き受けた。



 【アンジェリア】は最近出来たブランドだった。少し前からそこの責任者である、吉澤さんという人が何度も事務所へ来て私にイメージモデルになって欲しいと頼んだ。

 最初は忙しくなり過ぎると、リョウとの時間が取れなくなると思って渋っていた。

 だけど、別れてしまったのだからそんな杞憂は必要ない。

「愛華さん、私【アンジェリア】の仕事受けます」

 気づけばそう告げていた。



「え? 私が【ブラン】ですか?」

 意外な提案に思わず言葉が詰まった。

「そうなんだ。会議で決まった。【ブラン】を唯香、【ルージュ】をメイが着るんだ。その意外性が受けると俺は踏んでいる」

 吉澤さんはそう言って、私を見た。

 私が【ブラン】?

 【ブラン】と【ルージュ】は【アンジェリア】のチーフデザイナーである、雪村さんが私達のイメージで作った服。

 【ブラン】は純白、清楚---メイのイメージ。

 【ルージュ】は真紅、艶やかさ---私のイメージ。

 【ブラン】など最近の私には無いイメージだと思う。どちらかと言うと、艶めきの【ルージュ】が一般の私のイメージではないだろうか?

「大丈夫、唯香なら絶対着こなしてくれるよ」

 吉澤さんは優しい笑顔で私を励ましてくれた。



「え? これが私?」

 最初の撮影の時、真っ白なドレスを来て鏡の前に立った私は、鏡の中に映る自分に驚いた。

 いつもの私の雰囲気とは違い、清楚で儚い女の子が目の前にいた。

「どうですか?……唯香さん」

 メイク担当の石原さんが、鏡越しに訊ねてきた。

「……すごい、石原さん。別人みたい」

 私は思った事を正直に伝えた。

 すると石原さんはニッコリと笑った。

「唯香さんの素材がいいんですよ。私はそんなに手を掛けてません。唯香さん、素顔はとても幼い感じですよね? それを活かしただけですよ」

「……そ、そうなの?」

「はい、普段は大人っぽいメイクをしているから、あまり判らないですけど……唯香さんってメイク映えする顔ですね」

 褒められてるのかしら?

「それって…良い事なのかな?」

 私が訊ねると、石原さんは頷いた。

「良いと思いますよ。だって、メイクだけでこんなに印象が変わるなんて、モデルとしては幅が広がるんじゃないですか? あ、生意気言ってすみません」

 石原さんは慌てて頭を下げた。

「ううん、私も勉強になったから……いつもメイクは大人っぽいのを心掛けてて、こういうナチュラルなメイクは似合わないって思い込んでた」

「唯香さんは、顔の造作も肌も綺麗ですから、いろんなメイクが出来ると思います。服に合わせてメイクを変えてみるのも良いですよ」

 石原さんはニッコリと笑いながらそう言った。

「あの…石原さん……もし、迷惑でないなら、私にメイクの仕方教えて貰えませんか?」

「え?」

「私、あまり自分の顔に似合うメイクとか判らなくて、だから……」

 そう言って黙った私に、石原さんは微笑んだまま頷いた。

「いいですよ。私も唯香さんにメイクするの楽しいですし、唯香さんだったらすぐにマスターできると思います」

「あ、ありがとう」

 私は鏡越しに映る石原さんにお礼を言った。


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