11 失恋と後悔
これで、もう彼に会うことも無いと思っていたのに。
それから数週間後、再び撮影で顔を合わす事になってしまった。
何でも前回の【ディア】での特集は好評だった様で、今回は3か月連続での特集記事を載せるというものだった。
撮影当日、スタジオ内は【ディア】のスタッフ、【アンジェリア】のスタッフが、撮影の段取りを確認したりして慌ただしい雰囲気だった。
私は早めに来てメイクと衣装を着替えていたので、スタジオへ入るとみんなの仕事の様子を眺めていた。
メイがスタジオ入りして来た。
「唯香さん……おはようございます」
私の方へやって来ると、メイは挨拶をした。
「おはよう、メイ。今日はあなたがメインね? 頑張って」
励ますように言うと、メイは嬉しそうに頭を下げた。
「はい、よろしくお願いします」
私は微笑むと、メイクの石原さんと一緒にスタジオの隅に行き椅子へと腰かけた。
メイは朝倉さんに促がされて、着替える為に控室へと消えていった。
「お早うございます! 今日はよろしくお願いします」
そう言って、リョウがスタジオへと入って来た。相変わらず人懐っこい笑顔でスタッフ皆に挨拶している。
思わず身体が強張る。
だけどリョウは私には近づく事は無くて、着替えを済ませてスタジオへ戻って来たメイを見つけると、嬉しそうに彼女の方へと近づいて行った。メイはそんな彼に笑顔で挨拶を返す。
「メイ、今日はよろしく」
満面の笑みを浮かべながら、リョウがメイの手を握り締めている。
その光景に胸が痛んだ。
嫉妬なんかじゃない!
自分に言い聞かせながらも、見ていられなくて思わず俯く。
「それじゃぁ、撮影始めるか!」
誰かの掛け声を合図に撮影が始まった。
撮影はスムーズに進み、思ったよりも早く終わった。
私はその事に安堵の溜息を洩らした。
その時、私の耳にリョウの声が届いた。
「メイ、俺が送るよ! 着替えておいで」
「え? でもリョウさん、今から社に戻るんじゃないんですか?」
リョウの言葉にメイが首を傾げている。そんな彼女にリョウがほほ笑んだ。
「いや、今日はそのまま解散だから、大丈夫。なんなら食事してから帰る?」
メイが頷いている。
「それじゃ、着替えてきますね」
「あぁ、待ってる」
リョウに微笑んでメイは控室に向かおうとして、途中で朝倉さんの方へ近づいて行く。
「朝倉く……さん、今日は私……リョウさんと帰るので、送ってもらわなくていいです。ごめんなさい」
メイは朝倉さんへそう告げると、彼の顔も見ずに急ぎ足で控室へ戻って行った。
何? 今のやり取り……あれって、まるで……
「……リョウ、メイちゃんと随分仲がいいみたいだけど?……」
雪村さんがリョウに訊ねている。
するとリョウは雪村さんの方を向き、にっこりとほほ笑みながら返事をした。
「はい…実はつい数日前から俺とメイは付き合ってます」
おそらくその場にいた全員が驚きの余り、言葉を失っていたと思う。
私も一瞬、彼の言葉の意味が呑み込めなかった。
メイと……付き合ってる? 遼祐が?
頭で理解した途端、胸が痛んだ。
何で? 遼祐には婚約者がいるじゃない! なのに何でメイと付き合ってるの? 遊び?
私は心の中で疑問を繰り返していた。本人に聞きたいけど、そんな事出来る訳がない。
そんな事をしてる間に、メイが着替えて戻って来た。
するとリョウは微笑みながら彼女の腕に手を添えて、みんなへ別れの挨拶をすると2人で帰って行った。
私は泣きたい気分のまま、スタジオを後にした。
その後、別の仕事を2つこなした。
仕事をしてても2人の姿が頭から離れず、涙が浮かびそうになっては慌てて気持ちを仕事へと向ける。
仕事が辛いなんて思ったのは初めてかもしれない。無理してほほ笑む自分が別の人の様に感じていた。
「……っ!」
家に帰って部屋の電気をつけた途端、私は堰を切った様に涙を流していた。
もう……遼祐にとって私は過去の人間なんだ……別れなければ良かった……そしたら、今そばにいるのは私だったのに……愛人でも構わないから遼祐の傍を離れるんじゃなかった。
そんな後悔が胸の中に渦巻いていた。
別れても遼祐が私を忘れる事はない……そう、心の中で思っていた。だけど現実には彼は他に好きな女性を見つけた。それがメイ。
それじゃ、由紀奈さんは? 彼女とは結婚するんじゃないの? それともメイは愛人でも構わないって思っているの?
私は答えが出ない疑問を抱えたまま、誰にも相談出来ずにいた。




