10 再会
「今、何て?」
衣装合わせの為に【アンジェリア】のデザインルームに呼ばれた私は、そこで雪村さんから聞かされた話に愕然とした。
「うん、だからね……今度、うちと【ディア】って雑誌……唯香は知ってるわよね。で、コラボ企画をするの。うちの服を【ディア】のモデルにも着てもらって、唯香とメイの2人と一緒に撮影に参加してもらうの。そして【ディア】の誌上でも特集を組むそうよ」
【ディア】? 偶然なの? ううん、絶対違う! おそらくリョウが絡んでる。
だってリョウがいる編集部が【ディア】なんだから。
何で、今頃? もう、放っておいてくれたらいいのに。
「唯香?」
私が黙り込んだ為に、心配そうに雪村さんが見つめている。
「あ、ごめんなさい。大丈夫です。ドレス今回はすごくラインが綺麗ですね? 何かウエディングドレスみたい……」
「そう、分かる? 【ディア】の撮影で5着準備するんだけど、1着は本格的なドレスを作りたくて……それなら【ブラン】は純白だからウェディングドレスっぽいのにしようかなって……」
「素敵です……」
私はそう言いながら、ドレスの滑らかな生地の感触を楽しんだ。
「唯香は……彼氏いるんでしょ?」
「え?」
「う、ん……今の唯香の表情、何か切ない感じがしたから……彼氏と何かあったのかな?って」
雪村さんは言いにくそうに、私を見た。
--- 鋭いな……雪村さん ---
私は心の中で、彼女の洞察力の凄さに感心しながらも平静を装った。
「今は……いませんよ。でも、好きな人はいます」
それぐらいは言っても良いよね? 私の好きな人……遼祐。
「そうなんだ……その人には告白は? 唯香なら世の男性はすぐにOKじゃない?」
「いいえ……彼は、他に好きな人がいるんです。だから、私の気持ちは言いません」
私の返事に、雪村さんは申しわけなさそうな表情を浮かべた。
「ごめんね……でも、唯香なら素敵な男性がすぐに現れるわよ」
元気づける様に雪村さんはそう言うと、にっこりとほほ笑んだ。その笑みに私もつい笑みを浮かべる。「そうだと…いいですけど」
本当に遼祐を忘れて、別の誰かを好きになれたらいいのに……
そんな事は絶対無理だと判ってはいるけど、私はそう願わずにはいられなかった。
【ディア】との撮影当日。
私は【ブラン】の服を着て早めにスタジオに入った。メイもいつもより早く来ていた。お互い緊張しているので、あまり言葉を交わさずに待つ。
「おはようございます」
スタジオに響く声に心臓が跳ねた。声の方を見るといつもの爽やかな笑顔を浮かべながらスタッフみんなに会釈をしているリョウがいた。その後から真帆と瑛が挨拶しながらスタジオに入って来た。
--- 2人まで一緒に連れてきたの? どういうつもり? ---
私がそんな事を思っていると、リョウはが私とメイの方へと近づいて来て手を差し出した。
「はじめまして、リョウです。2人と撮影一緒に出来て光栄だよ。今日はよろしく」
「あ、はじめまして。メイです。今日はよろしくお願いします」
メイは自己紹介をして握手を交わしている。
そんな彼女にリョウは笑いかけた。
次の瞬間、リョウが私の目を真っ直ぐに見て手を差し出してきたが、私はそれを無視してスタッフに声を掛けた。
「早く撮影を始めましょう。時間が勿体ないわ」
真帆と瑛の2人には心から申し訳ないと思いながら、リョウと同じ様に無視を決め込んだ。
おそらく周りから見たら、私はとても高飛車に見えるんだろう。でも、そうしなければ撮影なんて出来る気分じゃない。
遼祐は一体何を考えてるの? 何で放っておいてくれないの?
泣きたい気分のまま、私は撮影に入った。
私には真帆と瑛が一緒だった。その事にホッとしたけど、反面心のどこかでガッカリしている自分がいる事にも気づいていた。
撮影の間だけでも、リョウと一緒にいれるかも……そう思っていたのも事実。
だけど、リョウの相手はメイで2人は今にもキスをしそうな距離まで近づいている。
2人は恋人同士の様で、あまりにも似合いすぎていて悲しくなってきた。
やっぱり……私と遼祐じゃ釣り合わないんだ。
落ち込みそうな気持ちを無理やり引き立てて、そのまま5人で対談という形でインタビューが始まった。
だけど私は自分が何を言っているか判らないまま対談をして、終了後は次の仕事が入っていると嘘をついてそのままスタジオを出た。




