序幕 ルミナス戦線異常ナシ
・本編には過激な描写があります。
・ただそこまで頻繁に描写があるわけではない...はず。
・終盤に増える可能性大。
ルミナス立洲。
ここはこの辺りで最も大規模なターミナル駅である、
立洲駅の北口に位置する地上10階建ての百貨店だ。
服飾を中心に様々なテナントが入り、休日ともなれば
多くの買い物客で賑わう。
だが、今日のルミナス立洲は休日の昼間だというのに
重苦しい静寂に包まれ、フロアには人気がほとんどない。
「...冷えてきたな。」
俺はそんな物寂しい駅ビルの屋上駐車場外縁に陣取り、
冷たく吹き付ける外気にさらされながら暗く淀んだ空に
うろんげな視線を向け呟いた。
「こんな世界になっても、季節だけはバカ正直に廻るみたいだねぇ。」
なんとなく漏れた俺の呟きに、隣に座る見知った顔の
金髪美少年が使い込んだ迷彩服の襟元を締め直しながら
抜ける様な笑顔で答えた。
そんな彼が笑いながら覗くのは、大型の双眼鏡。
軍用に開発されたそれはレーザーによる測距機能まで
付いた代物で、線の細い彼が持つにはあまりに不釣り合いに
見えたが、双眼鏡を構える姿はまるでパック牛乳でも飲む
ように当然のようで、様になっていた。
そして、俺の手元には実弾が装填されたライフル銃が一丁。
その上には冗談みたいに大きなスコープが乗っている。
「おっと...どうやらお客さんみたいだよ。」
双眼鏡を覗いていた金髪美少年が急に表情を堅くして言い、
俺も気持ちを切り替えてライフルを握りスコープを覗く。
倍率を上げていくと、不気味な姿形の集団が大通りを
向かってくるのが見えた。
「スナッチャー級が6。距離は1200。風は北北西から21ノット。」
「少し風が強いな...まぁ大丈夫だろう。周辺索敵を頼む。」
「りょ~かい。狙撃に集中していいよ。」
必要な情報を聞くと、俺はスコープの先に意識を集中する。
もう少しで有効射程に敵を捉えられる。そっと引き金に
人差し指を添え、風や距離による誤差を含んだ位置に狙いをつけた。
「距離600。風は北西から19ノット。」
「有効射程に入った。攻撃を開始する。」
じりじりと指先に力を込め、呼吸を止める。
ここだ。そう思ったタイミングで俺は撃鉄を落とし雷管を叩いた。
“タァァァァン...”
銃口から飛び出した鉛弾は放物線を描きながら飛翔し、一拍おいて
目標に突き刺さり、それは弾けて灰になって消える。素早くボルトを
引き排莢、戻して再装填。続けて5発。放たれた弾丸は寸分違わず
目標の急所を射抜き、無力化した。
「お見事。全目標の沈黙を確認、と。引き続き索敵を続行するよ。」
「ど~も。俺も索敵に入る。青葉通りから東は任せてくれ。」
吹き付ける風、硝煙の匂い、肩に残る痺れ。
見知った駅で、見知った友人と、淀んだ雲の下。
まるで昼休みに校舎の屋上で昼飯を食べるように...
俺は、戦争をしていた。