異世界の天才魔法科学者モーカリーと愉快とはいえない助手妖精アキの非日常
ハーハッハッハッハッハッハ
本がうず高く積まれた薄暗い部屋の中で高笑いする1人の男。彼の名前は……別にどうでもいい。というか、わからない人はタイトルをもう一度見直すことをお勧めする。緑の髪に鋭い目つき、ボロボロの白衣、そしてエプロン。髪の色はまあいい。光合成できそうな髪だが、別にそんな面白能力を持っているわけではない。そもそも彼の地毛は茶色。ようは染めているだけ。異世界人だからといって、髪の色まで期待されても困る。しかし、白衣にエプロンという組み合わせは正直ありえない。私の基準でも、あまりお近づきになりたくない人物だ。しかし、悲しいかな、そうもいってられない事情がある。なぜなら,あまり認めたくはないことではあるが、これが私のご主人様だから。
「なんですかマイマスター? そんな馬鹿笑いなんかして、近所迷惑です」
「ハッハッハ……ん? アキか。天才の私の笑いを指して『馬鹿笑い』とは、相変わらず失礼な虫ケラだな、お前は」
今日もマスターは絶好調のご様子。というわけで、ご都合主義的に私の名前をマスターが呼んでくれたで自己紹介することにしよう。『お前だってタイトルに名前が出てるじゃないか!』とかいう悪質なクレーマーの意見は受け付けない方向。
私の名前はアキ・ヘンナー。いわゆる普通の助手妖精である。ショートの黒髪で身長は150(ミリ)。3サイズは87・56・84(ミリ)。いわゆる、ボン・キュッ・ボンである。黒のワンピースに黒い羽。我ながら美しいと思いま(ぼそっ)……今「ゴキじゃねえか」とか言いませんでしたか? 命の使いどころをしらない人がいるようですね。フフフ
失礼。少々取り乱した。この美しい漆黒の羽を理解できない輩に何を言っても無駄なこと。私の美しい羽を皆様にお見せできないのがまことに残念である。いや、別に小説だから、見せられないといっているわけではない。現在の私は訳あって『省エネモード』中なのである。だから、この失礼な男以外には不可視の状態。一応断っておくが、『ゴ○』に間違われるから省エネモードというわけではない。
「誰が虫です。 マスターのほうがよっぽど失礼……今日はいつも異常に(誤字ではない)変です。ついに本格的におかしくなった?」
「フハハハハ、聞きたいか! 聞きたいのか!」
まったくもって鬱陶しい。本来なら完璧に無視する、もしくは火球の一発もお見舞いしてやるところだが、今は少々事情が違う。
「もしかして研究進んだ?」
「ザッツ ライト! なかなか鋭いではないか。アキ君」
なぜか私に指を突きつけるマイマスター。おい、やめろ。
「君付けキモい」
「フハハ、今日はアキの失礼な言動も気にならないな。この成果、やはり、私は天才だ。いや、いまさらだったな、フハハ」
もういいから、さっさと話を進めよう。ショートショートなのにもう1000字を超えてしまったではないか。本来なら、もうそろそろオチなはずであるのに、話が全然進んでいない。
「仕方ないな。では少し、助手に講義してやるとするか。まず、これを見てくれ給え」
そういうとマスターは、1冊のノートを取り出す。表紙にはマスターの手書きの文字。「相変わらず汚い字だ」とマスターを称えたいところだが、残念ながらそれは適わなかった。なぜなら、この文字は、異世界語、すなわち私の読めない言語で書かれているのだ。
ん?ちょっとわかりにくい? 私、アキにとっての異世界語ってこと。わかった?
「読めない」
「おっと、そうだったな。アキは異世界語を読めないんだったな。いや失礼、うっかりしていたよ。いや、『弘法も筆の誤り』といったところか。フハハハハ」
ワザとだ。明らかに「うっかり」とやらでははない。今の『コーボーもナンチャラ』とかいうのは、多分『ドートンの剣も折れた』という意味ではないかと推測されるが、ワザと異世界のことわざを使うところまで含めて腹立たしい。
「仕方ないな。私が読んでやろう。う~ん、どこから教えてやろうかな」
そういいながらペラペラとページをめくる。
「おっ、ここがいいかな。グループHについての考察。それでは(ゴホンゴホン)」
わざとらしい咳払い。それがマスターの講義の始まりだった。
「私がこの研究に取り組んで、すでに半年になった。天才の私には相応しくない退屈な仕事ではあるが、どんなことからも観察を続けていくとそれなりに興味深い事実が浮かび上がるものだ。今回アキ君に紹介するのはその一例。グループHに関する考察だ」
もうこの男、ノリノリである。
「Hは一定の周期、同じ時間帯にグループを作る。年齢、外見はほぼ同一であり、性別は95%雄である。その様子はマダガルの花に集まるパイポに似ているといえるだろう。上の花に集まるパイポは蜜を集めないが、下の花に集まるパイポは蜜を集める。Hもこれと同一の行動をとるのだ。また、夏季と冬季、その個体数が激減することもパイポとの類似点といえる。このふたつ目の特徴。これが今回の重要な点だ。周期的には6日後、Hはグループを形成するはずだが、私独自の調査結果、その個体数は激減すると予測できる。よって、私は対策が必要だと思うわけだが……この個体数激減の理由と対策法、アキ君はわかっているかね?」
得意げに私に質問しやがるマスター。しかし、私はそんな質問を真面目に考える気分にはなれそうもない。
「で、これは何の研究なのですか? マイマスター」
万が一ということもある。感情を抑えつつ、極めて冷静にマスターに最後の確認をする。私はまだ冷静だ。自分を褒めたいくらい冷静だ。しかし、私の冷静さも限界というものがある。
「少年ジャソプだよ」
えーっと、今、何か聞こえましたか? 私にはジャソプとか聞こえたのですが、最近ちょっと疲れているのかもしれません。ジャソプというと、ゴム海賊とか、ラーメン忍者の絵巻物で有名なあのジャソプでしょうか? それが故郷に戻るための研究となにか関係あるのでしょうか?
私の口はいつの間にか「電撃」の詠唱を始めていた。
◆◇◆◇◆◇
ここはある高校の近くにある古びた書店。近くにコンビニが少ないこともあり、ジャソプの発売日には多くの高校生がやってくる。ほとんど立ち読みの生徒だが、こういう客も客寄せ的にある意味必要である。もちろん普通に買う生徒だっているが、上のほうのジャソプは、立ち読みでヘタっていることが多いので、購入する生徒は雑誌の山の下から取り出す。
「と、これくらいのことを言うのに、回りくどい言い方しかできないのかい? 茂狩君。だいたい、このノート……客観察日誌って、君、仕事中にこんなことして!」
「はっはっは、そう褒めないでくれ店長」
「(クビにしたろうかな、コイツ)で、調査の結果ってなんだい?」
「いや、そこの高校、明日から夏休みらしい。」
「ああ、それならジャソプの発注数減らさないといけないねぇ」
今更言うまでもないがここは異世界である。実験中の事故で、異世界に飛ばされたモーカリーとアキ。人のいい老店長を雇われて、本屋のバイトとして日々を過ごす。彼らにとっての日常は、ある意味非日常。
今日も平和な一日だった。
こういう異世界ものって駄目ですか?
意外と書いてて、楽しいこの二人。講評だったら続編書きたいなと思ったり……