瞳の中の色は
無言の帰宅
その間ずっと腕を引かれていた
少し小走りをしなくてはならない速さだったがそれでも彼にとってはゆっくりだったに違いない
そんなことはぐだぐだ考えられるのに
なんでだろう
目の前にいる璃玖のことが考えられない。いや、考えても考えがまとまらな過ぎて、だから何も思えない
中途半端に酔っているのも原因かもしれない
家に着き鍵を開けた璃玖によって玄関に引き込まれる
そして閉じた扉に背を押し付けられながら鍵の閉まる音が聞こえた
慌てて彼を見ると璃玖も私を見ていた
なんだか怖くなって私は扉から背を離そうとした
それに気付いた璃玖は私が動けないように私の手を自分の手で顔の隣に固定されてしまった
何度か力を入れてみたが璃玖の力に扉から少しでも手を離すことすらできない
諦めた私は璃玖のことを見た
私より身長の高い彼を見るには軽く見上げるようにしなくてはいけない
そうやって見た彼は顔に何の表情も浮かべていなかった
しいて言うなら瞳が冷たかった
しばらく見つめ合ってやっと彼が口を開いた
「ねぇ……」
「……な、なに?」
「なんで……なんで今日は連絡しなかった」
「だって、連絡しなくても、いいと思ったから」
「なんで」
「……そんなに遅くまでいるつもりは……」
「……ふぅん、そう、なんだ」
温度の感じられない言葉を投げかけられ私は身が固まった
別に私は悪いことをしたわけではない
それに璃玖への連絡の重要性は低いと思ってる
……璃玖は私のことを心配するわけないから
結局はあってもなくても一緒だと思わざる得ないのは当たり前だ
「けど帰ってくるつもりなんてなかったんじゃないか」
「……は?」
「浪川と仲良さそうだったもんなぁ」
「っ……!」
耳元で囁かれびくっとしてしまった私
それに気づいた彼は喉の奥でクツクツ笑う
否定するタイミングを逃し何も言い返せなくなってしまった私は気まずくなって彼の顔から視線を外した
「ねぇ……俺が行くまで浪川と何話してた?自分のこと浪川にどこまで話した?」
「あんまり、覚えてないけど……自分のことは少ししか話してないよ。……璃玖のことも」
「そう……ならいい」
聞きたい言葉が聞けたからか
彼は何事もなかったかのように腕を退け、さっさと家に上がろうとしていた
私は驚きのあまりずれ落ちそうになる体を扉に腕をつき支えていた
結局彼は何に怒っていたのか
私には全く見当もつかなかった
私が連絡を入れていなかったことだけであんなに怒ったとは考えられないがそれくらいしか思い当たることがない
それか嫌っている私が彼の大学の友人と仲良く……なのか分からないが話してしまったこと?
とりあえず部屋に行こう。考えるのはそれからでも遅くはない
私は靴を脱いで上がろうとしたとき、体のバランスを崩してしまった
「きゃっ……!?」
床に倒れる
そう覚悟したはずなのに予想した衝撃は来なかった
「……」
「……あ、ありが、とう」
「大丈夫?」
「あーうん。ちょっとまだ酔ってたみたいで」
いつの間にかに彼が腰と腕を支えてくれたおかげで床に倒れ落ちることを免れたようだった
その事実に驚いて彼を見ると少し照れくさそうに顔を背けた
それを見て私も少し恥ずかしくなってしまいそのまま時が流れる
「あ、の……璃玖?」
「っ……何?」
「そろそろ手を離してほしいんだけど……」
「……」
手を離す素振りのない彼に声をかけた
声をかけてしばらく……これは無視されてるのかと思い始めたころやっと解放され家に上がることができた
冷たい水を飲みながらさっきのことを考える
璃玖はすでに自分の部屋に行っているためリビングにはいない
考える……どこから考えればいいのだろう
とりあえず璃玖は私が璃玖の関係者だと周りに知られたくないんだろう
だから今日も双子で同じ家に住んでいるのに他人で通した
ただそれだけ、なんだろう
そう考えると凹まざる得ない
なんで、どうしてと本人に問えたらどんなに気持ちいいか
ただ自分がそんな勇気を持ち合わせていないことにとうに気付いている
だからこんな関係が続いているのだ……彼と私は