表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鐘の音は深夜響く  作者: あさひ
2/5

貴方の発した言葉がもう




璃玖の視線はすぐ外れ、彼は料理を食べ始めた

私は彼の目が他に移ったことに安堵する

ちらっと浪川さんを見ると案の定笑っていた、いや、にやけていた



「じゃあゆうりちゃん、いつ買いに行こうか」

「……何を?」



浪川さんは裏がありそうな笑みを一層深くして言った



「何って……指輪だよ、指輪。俺が買ってあげる」

「いえ……けっこうです」

「そんなこと言わずにさ!買ってあげるんだよ?もらうくらい良いんじゃないかな。あ、ほらほら璃玖もっと食べてくれないと新しいのが頼めない」


私と話しつつ、箸が止まっていた璃玖にもっと食べるよう催促をした浪川さん

そうとう器用だ。そして面倒見がよい

それなのになぜこんな性格なのだろう

まだ今日、しかも数時間しか会っていないのに裏を感じてしまう


そんな彼から指輪を買ってやる発言


なにか裏がある、そう思うのも無理はないわけで

そもそも指輪のサイズを測ってもらっただけでほしいとか買ってなどは言ってないのである


別に買ってもらってもやましいことはない

彼氏がいるわけでもないからだ


ただ……

璃玖がいるだけでどうしてこんなにもやましく思えてしまうのだろう

璃玖が着く前はこんな気持ちにはならなかった


どうにもできないもやもやした気持ちを持て余し、居心地が悪くなって飲み物を飲んだ


浪川さんがまた何かを言おうとする

今度は何を言われるのか、発言を止める勇気のない私は冷や冷やしながら言葉を待った



「……お!やっと戻ってきたな、神崎ちゃん」

「え?澪?」

「あーごめんごめん。ちょっと時間かかっちゃって」


浪川さんは化粧直しから戻ってきた澪に声をかける

私は澪が戻ってきたことに心強さを感じた

澪は浪川さんの座っている位置が変わってることに一瞬戸惑ったようだが、目の前に彼がいるのを見つけると嬉しそうに自分の自分の席に座った



「初めまして!私、神崎澪といいます!」

「おい、こら待て。まだ全体に紹介してないのに個人的にすんな。さーて、やっと全員そろったことだしもう一回やるか、紹介」




「瀬川璃玖。浪川たちと同じ法学部在籍。よろしく」


全員が最初よりも砕けた紹介をし、最後に彼の自己紹介になった

彼が目当てで来ていた澪は今までとは違う熱い視線を璃玖に送っている


それをどこか快く思わない自分がいる


複雑な心境で二度目となった自己紹介

私と璃玖各々の紹介で共通点が一つある

誰かがそれを指摘しないうちに雑談になってしまえ

心の中で願っていた私をよそにやはりあの男、浪川さんが口を開いた



「あ、そーいえばゆうりちゃんと璃玖って苗字、瀬川なんだな」


さも今気付いたというふうに言いのけた彼

やっぱり性格悪いこの男

私と彼の反応を見て楽しんでいるに違いない

悲しいことにびくんと肩を揺らしてしまった

しかし隣に座っていた澪が気付かない程度だったのでよかった


ククっと笑いをこらえている声が聞こえた

私は自分の使っているお皿を見ていたが浪川さんが笑っているんだろうと予想はついた

ちらっと璃玖を見ていると一瞬目があったような気がしたが気のせいだったのかもしれない

璃玖は目の前に置かれている料理を口に運んでいた

彼は何も言わないらしい

私も変にあることないことしゃべってしまいそうなので自分からは何も言わないことにした


そうなると必然的に会話を続けるのは澪しかないわけで



「あ、言われてみるとそうね。瀬川璃玖と瀬川由理……瀬川って結構いるものなんだね」

「ま、現に2人いるってことはそういうことだ。案外世間は狭いっていうし」

「そうよね……この合コンも世間の狭さから始まったし」


浪川さんは私と璃玖のことを澪は澪自信と璃玖のことを言っている

今回は世間の狭さを痛感した


もし浪川さんが私を知らなかったら

もし澪が彼と会っていなかったら

澪が写真を浪川さんに見せなかったら

私が、璃玖が今日の誘いを断っていたら


ここまでくると偶然では片づけられない……しかし必然かと聞かれるとそうでもない

それでも何かを感じずにはいられない



「え、りく君もこれと同じ法学部なのよね?」

「おい、お前。どさくさに紛れて俺のことをこれと呼ぶな。失礼にもほどがある!それに俺は璃玖と同じだって何回言えばわかるんだ?」

「うるさい!本人から聞きたいの」

「……」



辰巳・澪ペアの言い争いをよそに口に箸を運び続ける彼

しばらくすると喧嘩が終わり澪が璃玖に話しかけるようになった


私は浪川さんと軽く話しながら2人の様子を気にしていた

浪川さんもそれを承知で私が話をあまり聞いていなくても気にしないでくれる

……というか彼も2人の会話を気にしていたからだと思う


ただ私たち2人が耳を傾けているのに気付いているのかいないのか、璃玖の口数は少なかった

代わりに気付いていないだろう澪の問いかけ、自分の話が会話のほぼすべてを占めていた


すでに聞いたことのある澪の話を聞きながら飲み物をちびちびと飲んでいた私

グラスの半分以下になったのを気付いた浪川さんは私に一言言って注いでくれた



「ゆうりちゃんってお酒強いんだね」

「……?そう見えますか?……うーん、まだ酔うまで飲んだことないです」

「そう……じゃ、今日は酔うまで飲もう、うん。そうしよう!ほらほら飲んで。あ、イッキは危ないからね、適度にグビグビ飲んで」


急かされてグラスを開けると注いでくれる

さっきは急いで飲んでしまったが今度はさっきみたいにちびちび飲もう

そう思ったとき隣の2人の会話が耳に入った



「璃玖君って一人っ子?兄弟いるの?」

「兄弟は……いない」

「じゃあ、一人っ子なんだ!私と一緒ね!一人っ子だとさ……」



この質問ははっきりと答えた璃玖

なんで、あえてこれに答えたのか私にはわからなかった


澪は璃玖相手に一人っ子トークを展開しているし璃玖は相変わらず相手をしていないし浪川さんは何を考えているのか口をゆがませている


私は手元のグラスを一気にあける

そしてさっきよりも速いペースでグラスを開けていった


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ