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鐘の音は深夜響く  作者: あさひ
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歯車が動き出す

バタンと扉が閉まる音が聞こえた

玄関の扉を閉じる音を聞こえさせない彼は何を思って自分の部屋の扉を音を起てて閉じているのか


私は彼がわからない


彼は何時も私が部屋に篭るころ帰ってくる

私が部屋を篭るとき、大抵は12時を回っている


同じ家に住んでいるはずなのに私に姿を見せることなく部屋に入る彼


隣の部屋が開く音が聞こえなければ私はこんなにも悩んではいなかったのに




朝眩しさを感じて目が覚めた


目を開けると目の前に彼がいた

夜、姿を見せようとしない彼は毎朝私を起こしにくる


「…おはよ、う」

「……おはよう。ごはんできてる」

「…うん」


私が目を開けるとき毎回彼が目の前にいる

一寸も微笑んでいない、真顔の彼

目を開けたばかりの私と眼が遭う

私が彼に朝の挨拶をすると返してるれる

朝は誰もが忙しいはずなのに私の分まで朝食を準備してくれている


だからだろうか

私は彼に避けられているのかそうでないのかわからない

彼が私のことを嫌っているのかそうでないのかわからない


それともただの義務感が彼にそうさせているのか




先に家を出た彼のことを考えながら身支度をする


彼は朝にシャワーを浴びたのか。それとも夜何処かで浴びてきたのか


そう考えながらも女の子といたんだろうと何処か確信めいたものが自分の中にあった

きっとそこで済ませてきたんだろう、と


「そうならそうと言ってくれればいのに」


最後のボタンを止めながら思わず呟いてしまった




「え、今日?」

「急にゴメン!なんか相手方が1人増えたからこっちもよろしくなんて言ってきてさ。そっちの都合なんだから1人ぐらい足りなくてもいいじゃんって言ったんだけど、どうしてもって言うもんだから…」

「それは急だね。でもなんで私?私、合コンなんて行ったことないからもたもたして邪魔になっちゃうよ?」


大学の講義も終わり、近くのカフェに友人と立ち寄った

友人が私には頼み事があるというので落ち着いて話せるところに行こうということになったからだ

話を聞いてみれば合コンの誘い、ただそれだけだった


「大丈夫だって。今日の相手は名門大学だからいつもよりは落ち着いた会になると思うんだよね。だからこそ誘ったんだけど?」

「……なるほど。でもどうしようかな」


普段あまり用事がない私は大学が終わるとすぐ家に帰る

朝以外彼はいないからほぼ独り暮らしと同等だった

だから何時もより帰宅時間が遅くても何か言ってくる人はいない


「家にいても暇じゃない?ねぇ、行こうよ」

「うーん……」


「彼氏もいないんだしさ。この辺で作っておいた方がいいって。今日なんか絶好の機会だと思うけどな!」


「彼氏、ねぇ……」


そんなに私を行かせたいのか早口で言ってくる友人

相当熱が入ってるのか身を乗り出して熱弁している

そして私が行く方に傾きかけてるのを察した友人はさらに言葉を繋げる


「そうだよ!いた方がいいって!だって大学入ってから1人もいないでしょ、彼氏」

「まぁそうだけど…」

「なんでそんな余裕なの!ね、行こうよ!たまには深夜帰りになっても大丈夫でしょ!」


深夜帰りと聞いてふと彼のことを思い描いた

言われてみると彼はいつも深夜帰りだが私は深夜に帰宅なんとことしたことがない

私は密かに反抗心が沸き上がるのに気付いた


今日は私が遅く帰ってやる


そんなことをしたところで彼は何も思わないだろうけれど

連絡も入れないでいい

大学にいて帰宅するのが遅くなったときは一応メールで一言伝えていた

けどもういい


「……行く。どこでやるの?」

「ホント!よかったー。あ、お店はこの近くだから。私たちも行ったことあるとこ!」




「じゃ、1人まだ来てないけど始めますか。かんぱーい」


男性側の幹事が開始を告げた

机には前もって注文していた料理がたくさん置かれている


私は一番端の席、隣には友人が座っている

とりあえず向かい合わせのまま始めるようだ

そして私の前にはまだ来ていない人の席がある



「あー緊張するなぁ。…えー法学部に所属?してる浪川辰巳で今回は目の前に座ってる女に脅されてセッティングしましたー…ってテーブルの下で蹴ってくんな、お前」


各々印象が残るようなアピールもとい自己紹介ががが始まった


どうやら男性陣は法学部に在籍してるらしい

女性陣はみんな文学部で同じ専攻を取ってるメンバーである


「神崎澪でーす。同じく文学部の2回生。目の前の男にもう1人増やせと泣きながらせがまれた神崎澪です。以後お見知りおきを!」


私をここに誘った友人、神崎澪の紹介が終わり次は私の番になった

みんなの視線が私に集まるのを感じた


「あの……文学部2年、瀬川由理です」

「……え、ゆうりちゃんて苗字瀬川なの?」

「え、そうですけど?」


名前を名乗っただけの私を訝しげな視線をやってきた浪川さん

聞き返すほどの何かがあったらしく私の返答に納得がいってないようだった

一瞬場の雰囲気が固くなったがそれもすぐなくなった



しばらくすると私、澪、浪川さんてそれ以外の4人に分かれていた


「ちょっと辰巳!もう1人どうしたのよ!」

「ん?ちょっと用事があるんだってさ。…遅れるぐらい多目に見ろよ。俺、相当無理矢理誘ったんだかんな」

「彼に会うために準備したのに!私だってゆーりを無理矢理誘ったわよ」

「だって前断られたのに今日ダメ元で誘ったら行ってもいいっていうんだから…寧ろダメ元で再び誘った俺に感謝しろ」


澪はまだ来ていない人目当てで急遽その人数合わせに私を呼んだと

いや、それはいいんだけど澪にお目当てな男性がいたことに驚いた

私がそのやり取りを聞いて驚いてるのに気付いた浪川さんは私に説明をしてくれた



「いや、なんかね、こいつがうちの大学の人に目を着けちゃってね。偶然にも同期だったから今に至る、みたいな?」

「だって女子大の構内を歩いてたから目立ってたのよ。顔もいいし性格も良さそうだったなぁ」

「性格ねぇ。悪くはないし、どちらかと言えばいい方だよ。けどな少し不器用だよ、アイツは。今日は一応お前んとこの大学の文学部って言ったら興味を示してね」

「え、そうなの!?誰かいるのかな!?」

「さぁ、どうだろうかねぇ」

「もしかしたら私だったりして!?話しかけられたとき一応学部だけは言ったんだよね。覚えてくれてるのかも」


恋愛体質な澪は妄想やら想像やらで赤くなっていた

本人もまだ来ていないと言うのにそれに呆れた浪川さんは


「バカかお前。そんな都合のいいことがあるか。寝てから言え」

「バカって何!?そりゃ東大学の法学部なんて偏差値高くて無理だけどバカじゃないわよ!」


「ひ、東大学の法学部っ!?」


「ど、どうしたのゆーり?あ、東大学で驚いてる?」

「なんだ知らなかったの?東大学法学部浪川でーす」


浪川さんたちの大学名を聞いて私は驚いた

驚いたと同時に後悔した

東大学法学部なら来なかったのに…

浪川さんはそんな私を意地の悪そうな笑みで見ていた

浪川さんはある程度目星を付けていたんだ


私と彼の繋がりに


けどどういう繋がりかは知らないらしい

だから苗字を聞いて驚いていたんだろう


彼は東大学法学部、学年も浪川さんたちと一緒だ



「はいもしもし……あ、着いた?…なんだもうちょっとか。じゃ、待ってるからはやく来いよー。……もうちょっとで着くって。よかったねー神崎ちゃん。」

「ホント!?じゃあお化粧直してこよー」


浪川さんが携帯を取り出すと誰かと話始めた

やっともう1人来るらしい

澪が化粧直しに行ってしまったため私は浪川さんと2人になった

浪川は空いていた私の前の席に移動して腰を下ろした

そして私を見据えて言った


「ゆうりちゃんはさ、アイツ…璃玖のなに?」

「な、なにって…彼からなにも聞いてないんですか?え、じゃあなんで私のこと知ってるの?」

「んーそう聞かれると悩むな。ゆうりちゃんのことを知ったのはたまたまなんだけど…あ、名前とかじゃなくて顔ね。」


「はぁ…」


「それでとりあえず璃玖の関係者ってことは知ってた。で神崎と会ったとき無理矢理大学の写真を見せられて、それにゆうりちゃんが写ってた。ちょうどその前に神崎の一目惚れの男の話が出ててお互い連れてこようってね」

「だからいきなり今日誘われたんだ」

「うん、神崎のワガママでね。彼を連れてこれなきゃ君も連れてこないって言うもんだから…まぁ俺のワガママでもあるけど」


私とこれから来る彼は澪と浪川の交換条件の材料で利害の一致により呼ばれた面子である

利用されたのは事実だか怒りとかはない

1人で家にいてごちゃごちゃ考えてるよりもこうして適度に緊張してるほうが気は楽である


「や、家にいるより楽しいからよかったかも。でもそんなかっこいい彼と私が条件なんて釣り合ってない気がするけど」

「えーそんなことないよ。俺的にはアイツとゆうりちゃん会わせてみたいとも思ったし」

「え?それってどういう…」


「ところでさ、ゆうりちゃん指輪なんかしてたりする?」


不審に思ったことを聞き返そうとした私の言葉を遮られ話を代えられてしまった

明らかに不自然に反られた話題

驚いて彼の顔を凝視しても顔色ひとつ変えない

私は諦めてた

こんな裏のありそうな人に聞いてもはぐらかされるだけだろう

なぜ指輪、そう思いながらとっさに左手を眺めた


「指輪してないです。っていうかしたことないかも」

「え、そーなの。もらったこととかないの?」

「えーどうだったかなぁ。ない気がする。指輪のサイズもよくわからない気がする」


染々と左手を見ながら話していたらいきなり手を引っ張られた

とっさに右手をテーブルについて軽く前傾姿勢になった上半身を支えた


何事かと引っ張った張本人を見るとまた笑顔で


「指輪のサイズ、測ってあげる」


て言って指の付け根を触り始めた


「さわってわかるものなの?」

「なんとなくだけど。むむ、この細さは3人ほど前の彼女と同じだから…」

「っ…!?」


今度は真剣に話を聞いてるときにさらに手を、いや今度は手首を引かれて腰を軽くあげた状態になった


彼も身を乗り出して耳許で言う


ごめん、怒らせちゃった


なんのことだ

問おうとした私はある声を聞いて体を硬直させた



「お、やっときたな」

「何してるんだ……辰巳」

「何してると思う、璃玖?」


私は店の入口に背を向けているから誰が立っているか見えない

見えないがこの声は毎朝聞いている声と同じだった

ただ普段より声を圧し殺してるようだった


「なんだよー機嫌悪くすんなよ。ささ座って」


ひとり陽気な浪川さんは璃玖を自分が座っていた席に座らせた

浪川さんはこのまま私の目の前に座るらしい


手を離されたわたしはきちんと座り直した

けど璃玖とは目が合わせられなかった

璃玖は静かに私の方を向いていた


「あ、璃玖、皿が逆だ。それ俺の皿」


あえて空気を読んでいないのか、浪川さんのやけに明るい声が遠くに聞こえた

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