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婚約破棄された聖女と王子は祈りを捧ぐ

作者: 小説の織部
掲載日:2026/11/03

 ロバート王太子は、婚約者聖女マリエールを婚約破棄した。マリエールは喜んで神殿に帰った。聖女結界はなくなり魔獣達が溢れ出した。

           1  婚約破棄


 「マリエール、お前との婚約を破棄する。」

社交会の会場にいた人々は、皆驚き呆れた。歴代の聖女の中でも最も聖女の力が強いことが認められて王宮に招かれた聖女との婚約を破棄することの意味が理解できない者は恐らく王太子ロバート殿下くらいのものだ。そのロバート殿下が聖女マリエールとの婚約を破棄する宣言をした。国の将来がどうなっても構わないのだろうか。この馬鹿殿下。

 一方婚約破棄された側の聖女マリエールは、えーと驚き、おやまあと呆れる。

「本当に婚約破棄して頂いてよろしいのでしょうか。」

と尋ねる。ロバート殿下は、

「ここにいるロザリア令嬢と結婚するためだ。いいに決まっている。」

マリエールは喜んだ。

「本当に王太子妃に成らなくてもいいのですね。神に感謝を。」

大量な祝福が飛び出した。ここ数年マリエールは王妃教育が課され歴史だの地理だの礼儀作法だのとうんざりしていた。勿論国を守るための祈りも欠かさない。

「私はこの大きな喜びを与えて下さったロバート王太子殿下とロザリア令嬢を祝福してお二人が永遠の幸せを得るための祈りを捧げます。二人に祝福を。」

とんでもない大きな祝福が飛び出した。続いて金色の光が空に舞い上がった。祝福という文字と祝ロバート殿下ロザリア令嬢結婚という文字が浮かんだ。ロバート殿下は、

「こんな祝福いらんがな。」

マリエールは、

「私が祈りました。」

すると女神が降臨して女神の声が聞こえた。

「確かに祈りは私に届いた。王太子ロバートとロザリアは何時如何なる時も一緒に居ることを条件として二人の周りには魔獣を寄せ付けない祝福をやろう。」

これは大きな祝福だ。マリエールは、

「これで私は自由なのですね。神殿に帰れるのですね。」

ロバート殿下は、

「勝手にしろ。」

と言った。金色の光がマリエールを包んで、舞い上がった。マリエールは、

「皆様、お達者で。」

金色の光はマリエールを運んだ。夢に見た神殿へ、待っていたのはこの神殿の教皇、優しいマリエールのおじいさまである。

「良く帰ってきたな。でも帰ってきても良かったのか。」

マリエールは、

「心配ありません。しっかり婚約破棄して頂きましたので。」

「でも魔獣がまた暴れるのではないか。」

「それも心配ありません。ロバート殿下とロザリア令嬢に女神様がしっかり祝福をお与えになられましたので。」

「それは何より。マリエールが帰ってきたお祝いだ。今日は祝宴だ。」

翌日から慣れた日課が始まった。王宮の毎日よりも慣れ親しんだ神殿の毎日の方がとっても親しみ易くてとってもいい。

 魔獣はマリエールが立ち去った翌日から国中で暴れ始めたらしい。聖女の結界が本当にあったのだと人々は驚いたそうだ。被害は王都にまで及び、怒った国王は王太子を廃嫡して最も被害の大きい辺境の地に追いやった。ロザリア令嬢も一緒だそうだ。マリエールは、

「そりゃー、一緒にいることが条件の魔獣防止の祝福ですもの。食事するのも仕事するのもいつも一緒じゃなければ住民の方々に迷惑というものですよね。」

おじいさまは、

「国王陛下も的を得た采配をなさる。王太子をそのままにしておけば内乱だろう。祝福受けたロバートとロザリアをおれば魔獣防止になる。正に適材適所だ。」

「ロザリア令嬢は王都に帰りたいと泣いてみえるそうです。ロバート様も王都への帰還要望したそうですが、国王陛下は頑として聞き入れなかったばかりか、永久にその地に留まるように王命を出されたそうです。あの方々が王都にいる理由はありませんもの。」

「正に適材適所だ。」

二週間経って一通の手紙が送られてきた。差し出し人は元王太子だ。祝福を解除して欲しいという内容だ。マリエールは、

「あの祝福、魔獣防止の祝福ですから解除するわけにはいきませんよね。何時までも一緒にいるのが嫌だから解除して欲しいっていう理由なんでしょうけど、何時如何なる時も一緒にいると誓って一緒になったのですから解除するなんて駄目に決まっていますよね。」

おじいさまは、

「お断りの手紙を出しておきなさい。」

と言った。

 一ヶ月が経って今度は国王陛下からの手紙がきた。マリエールは、

「何々、婚約破棄は元王太子が勝手に仕出かしたことだから、もう一度新しい王太子と婚約して王太子妃になって欲しいって、そりゃー駄目でしょう。一度婚約破棄しておいて違う王太子だからもう一度婚約して欲しいなんて駄目でしょう。聖女結界を疑ったから婚約破棄したのに効果があると判ったから王太子妃なれなんてプライドがあったら言えないセリフでしょう。国王たる者が言えたセリフじゃないでしょう。」

おじいさまは、

「お断りの手紙を出しておきなさい。」

と言った。

 三ヶ月後に国王陛下から、

「あっそうという感じかしら、王太子妃に迎えるのは諦めたそうよ。来賓としてお招きしたいというのは丁重ね。お招きした際には一週間ほど聖女結界を張って欲しいそうよ。意味があるのかしら。相応の礼金を出すというのは魅力があるかも知れないけどどうしたもんやら。」

おじいさまは、

「偶には受けなさい。」

と言った。

 受ける方向で、手紙を書いた。手紙を何度かやり取りして日時を決めた。送り迎えをしてくれるそうだ。迎えの馬車が来た時、マリエールは神殿業務をしていた。簡単なやり取りをしてマリエールは馬車に乗った。同乗したのは男の人と女の人だ。男の人は一行の責任者だそうで、日程やら目的やら説明してくれた。到着初日が忙しいらしい。何しろ聖女結界を張るのが初日だからだ。二日目以降は歓迎会があったり国王との謁見があったり、祈ったり各地を回って結界の穴を探したりする。以前と一緒だ。どうせ一週間後には消える結界の穴なんか探して何になるのだろうと思ったが、黙っていることにした。

 王宮に到着した日に早速結界を張ることになった。何も難しいことでない。ただ祈りを捧げるだけだ。女神に届くように。深く強い祈りをするように。強い願い込めて祈るだけだ。既に張ったことがある結界だ。同じように祈るだけでいい。四半刻祈った。反応があった。確かに祈りは女神に届いた。結界が形成された。後は固めて強めるだけ。半刻祈った。以前のような結界が形成された。結界が張れた。聖女結界が形成された。結界が張れたことを担当者に伝えた。部屋に戻るように言われた。夕食は責任者と食べた。翌日の日程を確認した。

 翌日午前中は、国王陛下との謁見である。国王陛下から、

「この度の息子の所業誠に痛み入る。許してくれとは言わないが、こうして来て貰えるだけでも気が晴れる。今回は結界を張るように頼んでこうして張って貰えてありがたい。今回は色々ありがとう。」

「特に恨みに思っているわけではありません。ただもう一度婚約しろというのはお断りします。」

「判っている。当然のことだ。ただ婚約破棄がなければこんな甚大な被害が起こらなかっただろうに思うだけだ。」

言ってもせんない話しをするだけだ。

 歓迎会は盛大だった。参加者殆どが顔見知り。マリエールは各テーブルを周り挨拶する。参加者から声をかけらる。

「今回のことで聖女結界がいかに偉大なものか良く判りました。あの馬鹿王太子のせいでかくも甚大な被害が出てしまいました。国民に申しわけがないと気持ちがあったら反省するしかないですよね。のうのうとそのまま生きているなんて信じられませんよ。マリエール様が新しい王太子殿下と婚約して頂くのが一番いいですが。そうもいきませんよね。婚約破棄されたのですから。新しい王太子殿下のことをマリエール様が気にいって頂ければいいのですが。」

マリエールは適当に相打ちしながら聞き流す。別のテーブルでは、

「新しい王太子はまだ決まってないそうよ。学者連中が魔王が出現を予測しているらしいの。国王陛下は、マリエール様を聖女に立て、第三王子のルイス殿下を勇者に立てて魔王を討伐させて、凱旋の後、ルイス殿下を王太子にして聖女マリエール様と婚約させる腹づもりらしいわ。それってどうなのかしら。王太子に婚約破棄された聖女マリエール様をまた別の王太子の婚約者にするなんて酷い仕打ちですわ。」

これは聞き捨てならない話しである。マリエールは、

「魔王出現って本当のことでしょうか。もしも本当のことなら国は本気で対策しているのでしょうか。神殿にいる私には何にも伝わっていません。魔王対策には神殿の協力が必要なはずでしょう。」

マリエールはやや興奮気味にまくし立てた。その話ししてくれた女性は、

「噂程度の話しなので、真偽のほどは判りませんわ。一部の学者が言っている程度かも知れませんわ。本当のことだとしたら神殿に協力を仰がないはずがないと思いますわ。まだはっきりしていないのかも知れませんわ。」

歓迎会が終わってマリエールは責任者に聞いた。

「確かに一部の学者が警鐘を鳴らしています。国も魔王城の監視を強める等の対策を進めています。しかし大半の学者はまだ先のことだろうと考えています。ここで国が魔王出現の可能性を認めたら国民は動揺します。確かな証拠が出るまで国は動けません。多く学者は魔王出現は三年後とみています。聖女マリエールに要請します。魔王討伐のご準備をして下さい。」

翌日マリエールには新メニューが加えられた。剣術の訓練、魔法の訓練だ。剣術は基礎から教えられた。筋がいいと誉められた。魔法は元々得意だ。回復魔法ばかりでなくマリエールには全魔法属性に適性ありというチートがある。訓練すればするほどマリエール魔法の能力は上がる。

 王宮の滞在期間は終わった。約束通り礼金が支払われた。マリエールは出来たばかりのアイテムボックスの中にしまった。国王陛下は、

「魔王のこと、騙すようになって心苦しい。確かな証拠を揃えてから神殿に話すつもりだった。まさか、君から言って来るとは思ってみなかった。君の責任者が君に魔王討伐の準備を要請するとは思わなかった。出来ることは協力する。何なりと言ってくれ。」

マリエールは王宮魔導師の元で魔法の訓練を積みたいと言った。神殿へ帰宅は伸びた。教皇へ手紙を書いた。聖女結界の期間も伸びた。予想通り王宮魔導師の元での魔法の訓練はマリエールの魔法の

能力を飛躍的に伸ばした。魔導師の元での訓練とはマリエールが魔導師の魔法を習うことだ。15名いる王宮魔導師の魔法をマリエールは半年足らずでマスターした。マリエールは訓練の最終日、王宮魔導師団長にお礼を言った。

「お陰様で自分の魔法に自信が持てました。聖女として必要な魔法も学べました。魔王討伐も自信を持って出かけられます。ありがとうございました。」

やっと神殿に帰れる。

 月日が流れた。魔王出現の報が伝わった。マリエールに出動要請が下った。マリエールそれに応じた。聖女はマリエール、勇者は第三王子ルイス殿下だ。王宮魔導師と近衛騎士も揃って出動した。マリエールはルイス殿下に作戦を伝えた。

「王宮魔導師と近衛騎士の方々に魔王の周りのオークを仕留めてもらいます。私達二人で魔王を仕留めます。私はフライで上空に上がって魔法で攻撃します。ルイス殿下は魔王の脚や胴を剣で攻撃して下さい。」

ルイス殿下は、穏やかな青年だ。親しみを感じさせる好青年だ。

「判りました。聖女マリエール。私はあなたを信頼します。私もあなたの信頼に応えましょう。」

魔王討伐部隊は魔王城に潜入した。オーク達は王宮魔導師と近衛騎士に討伐された。マリエールとルイス殿下は魔王に迫った。マリエールは魔王にアイシクルランスをみまう。ルイス殿下は魔王の脚に渾身の一撃をみまう。魔王の脚から鮮血はほとばしった。マリエールは貫通魔法を魔王の眉間に放った。魔王の眉間から鮮血がほとばしった。魔王はマリエールを目がけブレスを放った。マリエールは避けようとしたが、逃げ切れず吹っ飛ばされた。ルイス殿下は何度も脚を切りつける。もう少しで切り落とせると思った。切り落とせない。再生している。これでは幾ら切っても元の木阿弥。戻ってきたマリエールが、詠唱を始めた。

「火と風と闇の魔法を付与した貫通魔法を与え給え。」

貫通魔法が、魔王の眉間を貫いた。魔王が死んだのは確かだ。さらにマリエールは詠唱を唱えた。

「神聖魔法を付与した収納を与え給え。」

魔王はマリエールのアイテムボックスに収納された。神聖魔法を付与することで再生出来なくなるのだ。

 魔王を討伐した。凱旋だ。国中が魔王討伐で湧き上がる。ルイス殿下とマリエールの凱旋パレードだ。国王陛下からお言葉がある。

「ルイス王子を王太子とし、マリエールをルイス王太子の婚約者とする。」

その言葉に納得出来ないマリエールは、

「国王陛下のお言葉ですが、私は二度と王太子と婚約しないと国王陛下にもお認め頂いたはずですが。」

国王陛下は、

「ルイス、マリエールはこう言っている。お前が三ヶ月以内にマリエールを説得してみせよ。マリエールがお前の婚約者にならなければお前を王太子とは認めん。」

マリエール神殿に帰った。ルイス王子は後から追っかけた。ルイス王子はマリエールに何度も求婚して何度もふられた。それでも諦め切れないルイス王子は神殿のチャペルで祈りを捧げた。何刻も祈りを捧げ続けた。辞めるように教皇もマリエールも言った。それでもルイス王子は辞めなかった。遂に祈りで女神が降臨した。女神は、マリエールに、

「この祈りは本物だわ。ルイス王子は本当にマリエールことを愛しているわ。何も王太子になりたいがためじゃない。これが真実の愛という物だわ。マリエール、ルイス王子の求婚を受け入れなさい。」

マリエールはルイス王子の求婚を受け入れた。二人は婚約者同士になり、やがて結婚した。二人は王太子となり王太子妃になった。この国は聖女結界で守られた。王太子と王太子妃はやがて国王と王妃になった。子宝にも恵まれ、楽しい家族になった。国王ルイスは何時も子ども達に言う。

「お前達の母親、マリエール王妃は、この世で最高の聖女だ。」

国王ルイスは何時も、何時如何なる時も、永遠にマリエール王妃を愛し続ける。

 ルイス王子は神殿のチャペルで祈りを捧げた。何刻も捧げ続けた。祈りで女神は降臨し、マリエールに真実の愛だと告げた。

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