その瞬間に悟った
出会った瞬間に悟った。
とはいえ、君は気づいていなかったけれど。
だからこそ、確信した。
君に私の存在を認識されてはいけないと。
だから、私は君から離れた。
幸いにも私は一人きりのつまらない人生を送っていた。
だから、引っ越しも容易かった。
新天地で君を忘れた頃。
君の妻を私は見つけた。
慌てて隠れた私はすぐに妻と一緒に歩く君を見つけた。
幸い気づかれなかった。
君にも、君の妻にも。
だから私は君から離れた。
今までよりずっと遠くに。
幸いにも私は相変わらず一人の人生だ。
引っ越しなんて容易かった。
終の棲家とするなら……そう考えていた場所で私は一人きりで過ごし続けた。
それから何年もして……。
君と君の妻子を見つけた。
君達は旅行で私の住んでいる地域に来たのだ。
君達は。
いや、君は。
事故に遭いそうになっていた。
より正確には君の子供が事故に遭いそうになっていた。
君の妻は悲鳴をあげて、君は慌てて子供を庇う。
突っ込んでくる車を君は見つめながら我が子をギュッと抱きしめていた。
その瞬間に悟った。
全てを悟った。
私の役目を。
「あぶない!」
そう言って私は君を突き飛ばす。
君と、君の抱く君の子どもを。
君は私を見て驚愕の表情を浮かべる。
けれど、君はきっとすぐに私なんか忘れるだろう。
その方が良いんだ。
そして、君の子供。
君によく似た、君の子供は。
私を見て確かに言った。
「おとうさん?」
少しだけ笑う。
笑う時間だってあるはずないのに。
それなのに私は確かに笑っていた。
何を馬鹿なことを。
君のお父さんは君をしっかり抱きしめているよ。
――だから、私は君のお父さんなんかじゃないよ。
直後。
私の体を車がはねた。
本来なら君が受け止めるべき痛みを受けながら、本来なら消えるはずだった君に代わり私は命を失う。
あぁ。
死ぬのなら、私が適任だよ。
ドッペルゲンガー。
出会った瞬間に死ぬと言われる怪異。
同じ姿であるにも関わらず、私より遥かに幸せそうに生きている君へ捧ぐ。
この命を。
もし、どちらかが偽物だというのなら、きっと偽物は――。




