私の部屋の幽霊は愉快な幽霊
私の部屋は、出る。
何が出るって、もうそろそろ夏になるであろう季節に「出る」と言われれば、私の中では二つの事柄しか出てこない。
一つは部屋の中に突如出現する黒い悪魔。
もう一つは金縛りとか怪奇現象とかいう、そっち系のアレだ。
私としてはどっちも遠慮して欲しいのだが、現実は無情なのだ。
私の部屋には二つとも、出る。
床を這っているところを時々見かける黒い悪魔さんはまだいいかもしれない。
いやもうホントマジでどうでもよくないんだけど、見るたびに泣きそうになってベッドの上に避難するんだけども、まだ良い方だと思う。
だって市販のゴキっとほいほい的な何かを設置してたらいいんだもの。
処理するとき嫌な汗が滝のように流れるのも、もう慣れたものだ。
まだ許せる。黒い悪魔はまだ。許したくないけども、許せる。
けど、金縛りとか怪奇現象を起こすアレはダメだ。
色々とダメだ。
小さい動物が無害な程度に私の部屋を駆け回っているとか、どうせだったらそこらへんのレベルにして欲しい。
決して明らかに成人男性であろうアレが部屋の中を漂ってるのは許せない。
おい、本気でやめてよ。
私これでも健全な大学生(女)なんですけど。
怪奇現象を起こすアレでも、流石に私ドン引きを越して悟りの境地に至りそうなんだけど。
あ、ダメだ悟りを開いたら何もかも許してしまうからダメだ。頑張れ私。悟りを開くな私!
さきほど私の部屋で黒い悪魔さんが出てきたので、私はベッドの上に避難中だ。今の私は避難民なんだ。
そんな避難民の私はベッドの上でうさぎのぬいぐるみを抱いて体育座りをして現実逃避をしている。
あぁあー、なんだよせっかく少し値が張る高級な罠を設置してやったのに、何アイツら何かいくぐってんの。別にかいくぐってもいいから私の部屋から出て行ってくんないかな、あぁちくしょう私の平穏と安眠をちくしょう、誰か約束してくれちくしょうちくしょう。
『直立不動壁抜け~』
!?
私はいきなり聞こえてきたその声にバッと部屋の壁を見る。
そこにはベルトコンベアよろしくな感じに流れてくる半透明な成人男性の姿が。
両手で胸のところにハートを作って「どや?」な顔をしている成人男性が流れてくる姿が、もうそろそろ慣れてきてしまっている私には恐怖よりも先に憤りが先に立つわけで、青筋を立ててびきびきしていると流れてきた成人男性が私を見て、
『あっ』
とか言って慌てて壁に戻っていくさまを見ているといっそアレを殺したくなる。
そんなことを考えている自分に「いやいやアレって元々死んでるから無理無理」と説得しても、やはりその衝動を収めることができなくて胸に抱いたうさぎを捻り潰す勢いで抱く。
必死に息を整えている間にも、黒い悪魔は私の部屋に備え付けられたテーブルの下で我が物顔で鎮座していて、私はベッドから降りれないでいた。
あぁあ~もう早く出てってよ黒い悪魔め~。
さらにびきびきさせている私の視界の端で、壁から顔を覗かせるアレの姿が映った。
なにやら私の機嫌を伺っているようなその表情に私はもうそろそろ自分はキレていいかな、と思えてきた。
大体なんで顔半分だけ壁から覗かせてんだよ怖ぇんだよちくしょうなんで私の部屋はちくしょう出てけお前ら出てけよお前らちくしょう!
『ファイト!』
中途半端に壁抜けしてるアレが私を励ますために、親指をグッと立てて良い笑顔で言ってきた。
私は立てていた青筋がキレる感覚に抱いていたうさぎの顔の形が変形するぐらいに強く握り締めた。
なんだか、違う方向で悟りが開けたような感じがする。
「殺す!」
『うわやっべ』
ベッドの枕元に置かれていた殺虫剤をその顔面向けて発射した。
その後の私の部屋の惨状は、筆におこさないでも大体分かると思う。
暑くなってきましたね。




