イケメンに目移りしていたら悪役令嬢になりました。夫は強欲宰相です。
私が転生したのはグロリア・コリンズ公爵令嬢。
グロリアは悪役令嬢。
いずれ結ばれるヒロインのミルドレッド伯爵令嬢とヒーローのグリフィス王太子の政敵となる存在。
グリフィスは私の従弟でもあるのに。
彼等に断罪されるバッドエンドが待っている悲しい運命の令嬢。
回避するためには結婚相を変えなければいけない。
本来の結婚相手、ハーネスト・ヴァルド宰相以外を選ばないと。
ハーネストは強欲で地位と権力を手に入れるために私を利用する愛のない冷酷な男。
表向きは忠実な宰相として王やグリフィスの信頼を得ているけれど、裏では彼等を操り排除しようと企てていて。
私を女王にして夫の自分が実質的な国の支配者となるために、グリフィスを暗殺しようとしてバレて断罪される男。
一緒に転落人生なんて、ごめんですわ。
いくらハーネストが絶世のイケメンでもね。
そう――イケメンなら他にいくらでもいる。
美人でもあり公爵令嬢の私なら選びたい放題ですわ。
お父様もお母様も聡明な私に任せると言ってくださっているし。
ご安心くださいませ、私は間違いません。
本来は有能さで夫を選びますが今回は顔で選びますわ。
そのほうが案外いいんじゃなくて?
内面は顔にでるというし、優しい系や子犬系のイケメンなら間違いなし!
では、さっそく。
イケメン達を品定めに社交界に参りましょうか。
きらびやかなパーティー会場に相応しい美しい殿方が沢山。ドレスアップした姿も申し分ない、高貴なスタイルと優雅な身のこなしですわ。
私へ向ける視線や微笑みも上品で、会話や仕草も丁寧で弁えた素晴らしい方ばかり。
それに見た目もイケメンなのはもちろん。
髪や目の色も見たことがないほどカラフルで綺麗。
目移りしちゃう!
あら、グリフィスがいるわ。
彼は従兄だから除外して、隣のイケメン。
レイニー・ルビオ侯爵子息を品定めしましょう。
ふわふわしたピンク髪に、うるうるした水色の瞳の細身の青年ですわね。
子犬というか子鹿系のイケメン!
レイニーはグリフィスの親友で物語でも事あるごとに一緒にいたっけ。それでいて特に何かするわけでもなく独身のままエンドでしたわ。モブね、モブにしておくには勿体ないイケメン。
王太子の親友で侯爵子息で独身でイケメンとなれば私の結婚相手に一番相応しいけれど――
引っかかるのは、その存在そのものなのよね。
レイニーは終始グリフィスの隣で、私やハーネストを怖がってオドオド、やらかす事に驚いてビクビク。
こうして見ているぶんには可愛いですけれど。
夫にするには弱くて頼りない性格ですわね。
私、 結構しっかりした性格の公爵令嬢だし。
レイニーの妻になるには気が強すぎるんじゃないかしら?
しっかりしなさいよ! とか言って、背中をバシンと叩いたりした日にはモラハラDVをする悪妻として結局断罪されそう……
あぁ、ほら、レイニーが私の視線に気づいて、
「な、何ですか……?」
って言いたげにビクビクしてる。
結婚相手にするのは止めといてあげましょう。
可愛い子鹿キャラとして時々愛でるくらいがいいですわ。
そうとなれば、誰を結婚相手にすればいいかしら?
下品にならないように気をつけながらキョロキョロ。
あら、近づいてくる。
グリフィスが怖い顔で私を睨みながら。
なぜ? 私、何かやらかしたの?
「グロリア」
「な、何かしら? グリフィス」
「なぜ、ミルドレッドを無視するんだ?」
「え?」
ミルドレッド伯爵令嬢!?
どこ!?
あっ、ほぼ後ろに!
「ミルドレッドが君に挨拶をしようとしていたのに」
小さく縮こまるようにしてね。
レイニーと同じオドオドビクビクした性格。
グリフィスはそういう子鹿タイプが好きなんだわ。
優しく庇うように彼女の隣に立って。
私の非を責めるような目を向けてきた――
ミルドレッドの存在が薄くて声も小さいのが気付けなかった原因でしょうけど。
私もイケメンに気を取られていたし。
穏便にことを収めるためにも謝罪しましょう。
「気がつきませんでしたわ、ごめんあそばせ」
「わざと挨拶を無視したのではないのか?」
「ええ、もちろんですわ。私はただ……」
ここは面倒を長引かせないために、はっきり白状しておきましょうか。
「殿方のほうに少し、気を取られていたものですから」
「殿方?」
グリフィスは戸惑うように口籠り。
レイニーが隣でビクッてした。
それに気づいて、
「そういえば、レイニーを見ていたな」
庇うようにグリフィスは前に出た。
「まるで、獲物を狙うような目でレイニーを見ていた」
「えっ」
そんなギラギラした目してた!?
「私の大切な友人を何が目的で見ていたんだ? 何を考えていた?」
私はただ、結婚相手候補として。
イケメンだなって見てただけなのに――
グリフィスには厳しい目で見られて、レイニーもミルドレッドも怯えた目で見てくる。
グロリアという令嬢は、こうして、何をしても悪役令嬢になってしまうのね。
どうすればいいの?
「グリフィス殿下、グロリア様の目つきが獲物を狙っているようだなどと、ご従姉に対して少々冷酷な発言ではありませんか?」
あっ、ハーネスト。
鋭利な刃物のような銀髪と瞳、堂々とした態度。
彼の登場にグリフィスは狼狽えてますわ。
「冷酷などと、そんなつもりは。グロリアがミルドレッドやレイニーを怯えさせていたように見えたから注意しようとしたまでで」
「グロリア様は何もしておられませんよ。はっきりおっしゃっていたではありませんか。殿方に気を取られていたと」
「そ、そうだな」
ハーネストの優しく諭すような言葉と微笑みに。
グリフィスは大人しくなりましたわ。
宰相であるハーネストの言うことはよく聞くのよね。
そこをつけこまれて、暗殺されそうになるんだけど。
私もこのままでは利用されてしまう……
きっと、ハーネストは私に近づく好機と考えて割って入ったに違いない。
イケメンに気を取られて窮地に立った私を助けるなんて本来のストーリーには無い展開だけど。
出会いは出会いですわ。
このままハーネストのペースに巻き込まれたら断罪一直線よ。
だけど――
私を庇うためにグリフィスに意見したハーネストの横顔。
イケメン過ぎでしたわ……!
キュンとしてしまって胸に焼き付きましたわ。
目の前のハーネストから目が離せない。
私を見つめ返す鋭い目、これこそ、グリフィスの言う獲物を狙う目ではなくて?
私は狙われている、思う壺だわ。
それでも――
このまま見つめて、拝んでいたい。処刑で早死どころか、健康的に長生きできそう……
そのためなら、もうどうなってもいいですわ……
冷酷なイケメンと結婚する人生もまた良し!!
よし、話しかけましょう。
「ありがとうございます、ハーネスト。グリフィスに疑われてどうしようと悲しく思っていましたの」
「美しく繊細なグロリア様、貴女をお助けできて光栄です」
ハーネストは礼儀正しく胸に手を当て優しく微笑んだ。
なんてイケメン。この顔の裏に隠した本性が冷酷で極悪な笑みを浮かべていようとも、それもまた良し……
「すまなかった、グロリア」
「グリフィス……」
イケメン宰相に見とれてないで。
従弟にも顔を向けなきゃ。
「悲しませてしまうような、冷たいことを言ってしまった」
「もうご心配なく、私へのお叱りはレイニーとミルドレッドを想ってのこと。グリフィスの優しさからだとわかっています」
グリフィスも私に微笑んでくれた。
レイニーもミルドレッドもほっとしたように微笑んだ。
私達はハーネストのおかげで仲直りできた。
これからまた。
ハーネストのせいで仲が壊されるというのに。
それを止めるどころか身を任せる私を許してください。
私は悪役令嬢の道を行きますわ――
ごめんなさい、私がイケメン好きなばかりに……
ハーネストと無事結婚して数年が過ぎた。
結婚生活は平穏で幸せなものだわ。
どこからも一向に破滅の足音は聞こえてこない。
聞こえるのはハーネストと私の笑い声だけ。
良い夫じゃん、ハーネスト。
お陰様で健康的に長生きできそうですわよ。
実家のお父様もお母様も大事にしてくれて、良い結婚相手だと感謝感激してて、断罪に巻き込んでしまうのが心苦しいですわ。
最初は断罪までの幸せを大いに満喫しましょうと腹をくくっていたけど、幸せが長引くと失うのが辛くなるじゃない?
いつ、私に王位を継がせるためにグリフィス暗殺に動き出す冷酷無慈悲な夫になるの?
昨日、無事にグリフィスが王位継承してしまったよ?
今日も変わりない笑顔で、忙しさの合間を縫い私との時間を作り、今後の宰相としての仕事の予定なんか話したりしてる。
仕事も裏工作のために私を使うでもなく、私とグリフィスの仲も上手く取り持ってくれて、毎日真面目に働いて人々に感謝されて、信用させるための基盤作りにしては長くない?
一人で地下の魔法研究部屋に籠もってることもあるし、グリフィス暗殺のための魔法を作ってるのかも! ?
そろそろ出来た? 聞きたいけど、どうすれば。
「どうしたんだ、グロリア」
「えっ」
「眉根にシワが寄ってるよ、何か悩み事でも?」
「あら、いえ、私……」
正直に話すわけにはいかないから、さり気なく切り出してみましょうか。
「幸せ過ぎて……グリフィスも無事に王になり貴方も宰相として益々ご活躍のご様子。この幸せが壊れないか不安になってしまいましたの」
ハーネストは納得したようで微笑んだ。
「安心してくれ、君の幸せは私が守るよ」
「ありがとうございます」
「王となられたグリフィス様のことも、宰相として守っていかねばならないと思っている」
決意に満ちた眼差し――
カッコイイ横顔、私を助けてくれた時みたい。
こんなイケメンが嘘言ってるとは思えない。
「素晴らしい若き王の宰相となり、美しく優しい君の夫でいられる。私は国で最も幸せな男だよ」
「ハーネスト……」
今の自分の人生で、これで満足してるのね?
本当に?
「貴方なら、私を女王にして王のように国を支配できるとしても?」
「グロリア!? 何を言っているんだ?」
驚愕された!
「グロリア……女王になりたいのか?」
「あっ、いえ」
ハーネスト、真剣な顔になってしまった。
「君が望むなら、そうするよ」
「いえ、いいです! そんなことをしてはいけません!」
「いいのか?」
「はいっ、今のままで幸せに暮らしたいです!」
「そうか、そうだな」
穏やかに微笑んでくれた。
危ない、私が断罪ルートに導くところだった。
「今のままが一番幸せだな」
「はい、その通りですわ」
ほのぼのとした雰囲気になってきた、よしよし。
「しかし、私も時々不安になるよ」
「えっ」
ハーネストはまた鋭利な瞳を向けてきた。
なに? カッコイイけど怖いですわ……
「君が……」
「私が?」
「君が他の男に目移りしないか、それが不安でたまらない」
「へ?」
「君はどうやら、美男が好きなようだからね」
「あっ」
私のイケメン好きがバレていたなんて――
「君が他の男にいかないか、それだけが心配だ」
「そ、そんなこと」
「そう、そんなことだけは私が全身全霊をかけて、どんな手を使っても阻止するよ」
ハーネスト……
彼の冷酷で極悪な笑みをこんな形で見るなんて。
そういえば、社交界では私やイケメン達に鋭い瞳を向けてきていたっけ。
グリフィスのことはもう眼中になく、私が浮気しないかの監視に熱心になっていたのね?
「束縛魔法も色々と作っているところだよ、君が何処かに行ってしまわないようにね……」
束縛魔法って、束縛夫なの隠す気ゼロじゃん。
そんな魔法を地下に籠もって作っていたのね――
「あぁっ!?」
体が!長椅子に縛りつけられたように動けない!
「ハーネスト!?」
「この魔法の見えない糸は君を優しく縛るだけでなく、どこまでも伸びて私と君を繋いでいてくれるよ」
「ろ、ロマンチックな魔法ですわねっ……」
でも、ハーネストは絶対想像と違う使い方をしようとしてるよね? 怖いですわ!
「喜んでくれたか、君と私のための愛の魔法を」
愛!?
こんなヤバい愛の持ち主だったなんて。
愛がないよりマシなのかしら? イケメンにこんな束縛されて確かに喜びを感じてしまっていますわ、私。
ハーネストの強欲さは今や私だけに向けられている――
私がイケメン好きなばかりに、こんな展開に!?
「グロリア、私の幸せは君の手の中だ。君次第だよ」
私が他のイケメンに余所見しようものなら。
その瞬間に破滅断罪ルートが始まるとでもいうの?
「し、心配しないで、ハーネスト。私は貴方だけ。貴方が一番イケメ、美男だと思っていますわ!」
「嬉しいよ……」
美しいハーネストの顔が目の前に。
私が余所見しないか気が気じゃなくて目が離せず。
グリファス暗殺どころではない。
これは……
イケメンな夫からの執着溺愛ルート突入のようですわね!




