破-5
「すーっ、すーっ」
新が寝ている時、午前七時。
その頃、白雪はとっくに起きていた。目覚ましもつけずに。
手早く洗濯物を片付け、今日の朝食は何にしようかと思考を巡らせる。
(……音花さんの健康も考えて‥‥そうですね‥‥よし)
「そろそろ時間ですね」
体内時計で正確に時間を把握している白雪は、時計すら見ずに判断する。
(……まだ寝ているのでしょうか‥‥?)
彼女はふとドアに手をかけると、鍵が開いてることに気が付いた。
「不用心ですね‥‥まったく」
寝室を覗くと、静かに眠っている新が見えた。
(先に作っておきましょうか)
そう考え、白雪はキッチンで料理を始めた。
「あら‥‥?」
冷凍庫を覗くと、鮭が入っていた。
(音花さん、魚なんて使うんですね‥‥それではこれを焼きましょうか)
白米。レタスやトマト、紫玉ねぎ等が入ったサラダ。味噌汁。鮭の塩焼き。
それらの作業を手早く済ませ、もう一度寝室を覗く。
「すーっ、すーっ‥‥うぅん‥‥」
起きる気配はない。というかいつまでも寝ていそうだ。
(よっぽど疲れていたのですね‥‥)
白雪は寝室に入り、新の近くに寄る。
「起きてください音花さん、朝ですよ」
すやすやと眠っている新の肩を揺らすと、
「う、んん‥‥?」
新が体を起こした。少し寝ぼけていたようだが、
「…………白雪‥‥?」
「はい、おはようございます。音花さん」
「おはよう‥‥ふぁ‥‥ん、‥‥‥‥っ」
新の血の気が引いた。顔が真っ青だ。
「……白雪さん…なんで部屋にいるの‥‥?」
「ノックしても起きてこなかったので」
「あちゃ~‥‥」
寝過ぎた、と新は顔を手で覆う。
「鍵が開いてなかったら私はずっと待つしかなかったのですが」
「あ、そうか」
「…………もうご飯の準備は出来ていますよ」
「ありがとう、この匂いは‥‥鮭かな?」
「はい。‥‥音花さん、魚がお好きなんですか?」
「地元が対馬でね。あそこは魚が一番美味かったから‥‥」
「対馬というと‥‥長崎県のですか」
「よく知ってる‥‥もう島民は二万人ちょいしかいないけど」
「……漁業が盛んだと聞いております」
「確かに魚は。新鮮だし、種も多いから」
「そうですか‥‥」
「さ、食べようか」
「はい」
二人同じテーブルで朝食を食べる。
「あ、白雪さん」
「はい?」
「僕、来週の土曜練習試合なんだけどさ‥‥どうする?」
「この部屋で‥‥一人待っていても構いませんが」
「それじゃ暇でしょ‥‥‥‥試合見に来る? どうせそこの総合体育館だろうし」
「…………」
白雪は少し考えているようだ。
(……流石に駄目だよな‥‥ちょっと調子に乗っちまったかな‥‥)
「そうですね、観戦させて貰います」
「…………え⁉」
「……何ですか、言い出したのは貴方でしょう?」
「いや‥‥了承すると思ってなかったから‥‥」
「興味がありましたから」
(……ん? 何にだろう‥‥あっ、卓球にか? 珍しいな……)
しかし白雪が本当に興味を持っているのは‥‥。
(音花さんの頑張っている姿、少し観てみたいです‥‥)
◇◇◇
教室で僕は晴也に問い詰められている。
「なあ、新」
「……なんだよ」
「正直に言え、彼女できたろ」
「だーかーらー、彼女なんていないって。いたら晴也と教室の端で話してないよ‥‥」
「そらそうだけどよ‥‥あ、じゃあ女友達は⁉」
「女友達ぃ? ……あー‥‥うーん…………いない」
「なんだよ、今の迷った感じ」
「…………何でも」
(白雪さんは友達…………友達……?)
何て言うのだろう。僕達の関係。
(知人……にしては変だよな、いったい‥‥なんなんだろう)
「新? おーい」
「……考え事してた」
「ったく、お前はいつもそうやって‥‥お、授業始まるぞ」
「うん‥‥」
次の授業は‥‥学活。
「さて、もう五月‥‥六月にある体育大会の出場メンバーを決めたいと思う」
先生の一言で思い出した。
(あ、体育大会忘れてた‥‥)
「種目はクラス代表リレー、大玉転がし、綱引き、騎馬戦、借り物競争。そして最後の目玉‥‥団対抗代表リレーだ」
そして先生は俺と晴也を指さし
「高橋と音花はリレーな」
「ですよねー」
「…………はぁ」
(タイムが速いからって‥‥適当かよ‥‥)
まあ、この先生(担任)は、体育系ベテランなので‥‥多分大丈夫だろう。
帰宅後の夕食にて。
「白雪、おまえ体育大会の種目どうなった?」
「私は借り物競争に団代表リレーです」
「へー‥‥」
(ん? 団代表リレーって、参加生徒は確か‥‥クラスの五十M走上位三人…………速っ)
正に才色兼備。顔よし、勉学よし、運動よしとは。
「流石だな‥‥」
「そういう音花さんはどうなのですか?」
「僕は‥‥団代表リレーと騎馬戦‥‥」
「……音花さん、あなたの方が凄いではありませんか」
「平凡だよ」
「勉学で学年二百人中の二十位は平凡とは言いません」
「……あれ? なんで僕の順位知ってるの?」
「………………秘密です」
因みに俺の五十M走のタイムは六・七である(晴也は六・六)。
「出るのですね」
「う、うん‥‥」
「……無理はしないで下さいよ」
「一応敵なんだけど‥‥まあ、無理はしないよ‥‥もう看病されないように気を付ける」
「…………はい」
夕食を食べ終わり、白雪は皿を洗っている。
皿くらい自分でやると言ったのだが、片付けまでが料理ですから、と一蹴された。
どれだけ料理にこだわってるのとは思うが、してもらってる立場なので何も言えない。
「…………白雪さん」
リビングから声を掛ける。
「なんですか?」
「礼って言っても、ここまでしてくれる理由って何?」
気になっていた。聞いてみたかった。ただそれだけ。
すると白雪は、少し不満そうに言う。
「……心配なので」
「心配? 俺が?」
白雪は頷いて言葉を続けた。
「音花さん、すぐに無茶して危なっかしいですし、放っておけませんから」
「…………子供‥‥?」
「だいたいそんなイメージです」
「はぁ‥‥」
なんか期待していた自分に呆れてくる。




