破-2
「いってて……」
次の日、痛む身体に鞭を打って登校した。
鋭い痛みが身体を包んでいる。
特に右足首と背中が酷いなぁ……。
後はまあ全身。
「僕にあんなことが出来るとはなぁ……」
そして蘇るのは、あの時の記憶。
時間が巻き戻ったという事実。そして――――――。
「………………っ」
「どうしたよ、新」
「晴也……彼女放っておいていいの」
「別の高校ですよーだ」
ぶぅーと口を膨らませ、子供のように拗ねる親友。
いい加減もう少し大人になってもらいたいと思う気持ちは間違っているのだろうか。
「で、どうしたんだよ。お前が怪我なんて珍しいじゃないか」
「あ、バレた?」
あっさりと看破されたことに驚きながらも、俺は昨日の帰り道に何があったかを説明する。
ただ助けて怪我しただけなのだが。
「…………………………………………………………………………スゥーーーっ……」
「?」
「マジかぁ新……お前がそこまで無心な奴だとは思わなかったぜ。釈迦か仏にでもなったのかよ?」
「ならないよ、僕だって情緒やら感情やらはあるぞ」
「なら惚れろよ! 相手誰だか分かって言ってんの⁉ 白雪姫! 天使! ユーアーアンダースタンド⁉」
「文法もないね、彼女に聞かせてあげて」
「だまらっしゃい!」
そんな三流コントを繰り広げているうちに時間が経ち、授業のチャイムが鳴った。
そして退屈な数学が終わり、また休み時間が開始する。
「それじゃ、昨日の事故で白雪さんを助けたのって、新だったのか」
もう事故のことは広まってたのか。というか僕のことは知られてないって、何かあったのだろうか?
「まあ‥‥そういうこと」
「なるほどなー‥‥どうだったよ、白雪さん」
「…………確かに、みんなが言うように可愛かったよ。それは認める」
「ふーん‥‥珍しいな新がそんな風に女子を見るの」
「僕だって健全な男子だ。そういう目で見ても不思議じゃない」
「確かにそうだけど‥‥やっぱ無かったって、新の恋バナ」
「こっ、恋じゃない!」
「え? 俺は恋愛相談されてるんじゃなかったの?」
ニンヤリと笑う相手に少しムカッと……腹が立ってきたな。
「そんなわけないでしょ晴也のバカ! 頭お花畑!」
「そ、そこまで言うぅ?」
あ、結構ショックだったのか。言い過ぎたかも。
「ったく、そんな恋じゃない‥‥―――――――」
「やっぱお前、そういう目は馬鹿だよな」
「なっ‥‥馬鹿ってなんだよストレート馬鹿」
「お前はいい男だよ、きっとな」
ありがとう、って言うべきなのかと思案するが。
「彼女持ちでモテてるお前に言われたくない。からかってるの?」
という言葉が漏れてしまうのは仕方がないことだった。
「ぐふっ」
言葉の槍が突き刺さるのを確認し、次の授業準備を――――――なんだ?
「お、おい……あれ」
「本物だぜ、かわいいなぁ」
「いいな、お近付きになりたい!」
ざわざわと周囲が騒がしい。
廊下か。
何だ、と窓からひょっこり顔を出す。
「あ」
先程話題に出てきた少女、白雪さんが歩いていた。
学科が違うため彼女がこちら側に来ることは稀なのだが――――――。
というか、そこまでざわつく事なの?
確かに可愛いとは思うけど……ねぇ?
芸能人でもないし、ましてやアイドルでもないだろう。
「……分からん」
「何がだよ鈍感男っ」
「んー、白雪さんがここまで人気な理由」
「そりゃ可愛いから……ってのが一番だろうけど、あの人は成績トップしかも親が大企業社長のご令嬢なんだぜ?
モテない方がありえないだろう」
「あー、そういう…」
だから名家との結婚か。
「そういえばあの話どうなったの?」
「んー、今絶賛親子喧嘩中」
「へー」
「ぁ……」
「?」
一瞬視線が交差した。
直ぐに終わってしまったが、確かに一瞬こちらを見た。
自意識過剰とかではなく、確実に。
「ウーン……顔覚えられた?」
「そりゃ命の恩人だし当然じゃね?」
ごもっともなツッコミを受け、自分の机の戻る。
……恩人、か。
まあ助けられたことは喜ばしいのだが、それで面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁願いたい。
逃げたい。
「…………………?」
また、視線?
どこから――――――って、気のせいか。
ウンウン、きっとそうだよ。
わざわざ僕を見たい物好きなんていないよ、と自虐をかましながら授業を受けた。
自分で自分の傷抉るのって結構くるねェ。
「今日は部活休みかぁ、ゆっくり……出来ない」
「何か用事でもあるの?」
放課後の教室。晴也は少し暗い表情だ。
「いやぁ、今日ナナとデート何だけどさぁ……親にそろそろ怒られそうなんだよ、勉学に励めって。あの話もあるから尚更キツイ」
「聞いて損した……」
彼女持ちの悩みっていうのは贅沢なモンだな。
「帰る」
無理して来たせいか痛みが酷くなってきている。
早く帰って横になりたい。
そそくさと学校から立ち去り、最短距離で帰宅する。
(痛……)
着替えを速攻で済ませ、洗濯機の中にブチ込む。
あらゆる用を完了させたら一息―――つく前にベッドで熟睡していた。
数時間経った。
「今何時だ‥‥? うわ、六時半過ぎてる‥‥」
(寝すぎた‥‥)
けどまあ、身体もだいぶ‥‥良くなってない。
全然変わってなかった。というか足の痛みが鋭くなっている気がする‥‥。
「はぁ‥‥」
思わずついた溜息の音が消えた時。
ピンポーンという音が鳴った。
「?」
(……)
右足を引きずりながら玄関近くにあるインターホン受信機の元へ向かい、応答ボタンを押す。
「はーい、どちら様――――――――」
『こんにちは、音花さん』
「…………え?」
目の前にいたのは、白雪六花だった。
「えっ、なんで、どうして‥‥?」
どうして家を知っているの、という言葉は言えなかった。
それよりも。
「上がってもいいですか?」
「あ、うん……いいよ」
開錠ボタンを押すと、彼女の姿がエントランスから消える。
「………………どうしてこうなった?」
二分もしないうちに、彼女がエレベーターから出てきた。
僕はドアを開けて待っている状態だ。
「こんにちは音花さん‥‥それで、お怪我の方は?」
「えっ」
「まだ治っていないのでしょう。足、腫れてますよ」
(バレたか‥‥)
「今日も学校来てましたよね?」
「…………よく知ってるね」
「教室に行きましたので」
「…………」
一呼吸置き、彼女は、
「今日はお願いと提案があって来ました」
「え?」
動揺してしまって手が滑る。体重が乗って右足が痛み、前に倒れた。
「お‥‥」
「やはり、無理して立っていたのですね。失礼しますよ?」
「は‥‥ちょ、おい‥‥」
白雪は俺の肩を支えながら部屋に入る。
「なんでこんなこと‥‥?」
「言ったでしょう、礼と。私のせいでこうなってしまったのですから、責任を取るのは当然のことです」
俺はベッドに座らされる。
「思ったより部屋は綺麗なのですね」
「そりゃ、一人暮らしをしていれば自然にこうなる‥‥なに?」
「いえ、もう少しダメな人だと思っていたもので」
「どういうことそれ」
「…………」
(無視かよっ)
「…………包帯を巻きますね」
「あ、ありがとう‥‥」
「…………これで完成です」
(おお‥‥流石天使)
彼女にはいくつも異名がある。主に姫、天使等。
「あとは‥‥キッチンを借りても?」
「あ、ああ‥‥構わないよ」
白雪は部屋を出て料理を始めた。
「…………どうしてこうなった‥‥」
理由はもちろん昨日の事故なのだが、礼とはいえここまでするかぁ‥‥?
「…………悪い気はしないけど」
少し経つと、白雪が鍋を持ってきた。中身は一人分の雑炊。
「体が痛くても食べられるはずです」
「ああ、助かる‥‥頂きます」
(‥‥美味い)
「…………お口に合いますか?」
「ああ、美味しいよ。ありがとう」
「…………よかったです」
「こんな飯、毎日食えたらいいんだけど」
冗談交じりに言ったその言葉に、俺は自分が何を言ったのか遅れて理解する。
「あ、いやっ、これはその、言葉のあやといいますか‥‥!」
「構いませんよ」
「…………へっ?」
「寧ろ、ありがたいです」
「え、えーっと‥‥‥どういうこと?」
「先程、提案とお願いがあると言いましたよね?」
「…………?」
「食事や家事などは私がやります。ですから、私を此処に住まわせて下さい」
「――――――へっ?」
どゆこと?
「簡単に言えば……家出して来たので、此処に住んでもいいですか?」
「???」
(???)
「………………ゴメン、正気?」




