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僕たちはあの日、消えてしまいそうな恋をした。  作者: 乙川せつ


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序-2

「ボクと付き合って下さい!」


「お断りします」


「ぐふぅ」


 私の目の前で、私に告白してきた生徒が倒れた。


「よく頑張った! お前は立派だよ!」


「いったい誰ならいいと言うんだ!」


 地面に伏す男性に複数人が寄って慰めている。

 彼らの姿を見て、まるで自分がゲームに出てくる魔王ラスボスのようではないかと思った。


「恋人になることは出来ませんが、友達になりましょう?」


 そう言うと告白してきた男性が目を輝かせる。

 死の淵で希望を見たかのように。


「ほ、ホントかい⁉ ああ、ボクは君を振り向かせてみようじゃあないか!」


「ふふっ」


 笑顔を見せておく。可能性があるよ、という顔を。

 本当はこの人に興味もない。


 ただの同級生。


「…………ぁ」


 ふと近くの校舎を見上げると、見覚えのある顔があった。

 つい先日会った男子生徒。


 名前も知らない、誰か。


 買い物の帰り道であった男子生徒。


 私を見ても変に話しかけてくることが無かった人。

 彼の顔は平凡というか普通で、目も髪で隠れていてよく見えない。

 地味な人、それが第一印象だった。でも、


「少し、興味が出てきましたね……」


「え⁉」


 それは恋心でも何でもない「知ってる人」に対する興味。だけど、その感情がひどく心地よくて暖かかった。

 

 日常の中で、非常な感情が湧いていた。



 ◇◇◇



「…………ただいま」


 応答はない。


 放課後、六花は自宅へと帰った。

 そこには誰もおらず電気も全て消えていた。時計は14時半を示している。

 別に親が出張しているわけでもない。

 だが、六花は一人だ。


 一人に慣れてしまった彼女は何も考えず家事をこなしていく。

 彼女の親は六花を愛していない。

 だから邪魔な娘を突き放したのだ。それがどれだけ、六花の心を傷つけたのかは分からない。

 それでも六花は最初、信じていた。親が戻ってきてくれることを。

 もう一度、愛してくれることを。


 だが、それが叶うことはなかった。


 両親は自身の会社に全てを注いでいる。その心に六花という存在はいなかった。

 正直、六花はもう親に対し何も感じていない。

 愛してくれる人でもない。ただお金と家を与えてくれる他人。高校、大学を終えればもう関わることは無いだろうと。

 自立すればもう赤の他人になると。


 それが彼女にとっての幸せなのかは分からないが、そうなってしまうだろう。


「………………」


 彼女が家で言葉を発することはまずない。

 だって、誰もいないから。

 だって、何も考えないから。


 一人で生きていくしかなかった。だから料理も、勉学も、家事も全て習得した。

 両親は衣食住以外にも、二つの贈り物をくれた。


 それが才能と、容姿。


 六花も徐々にそれを自覚し、今ではそれを使いこなしている。

 時が経てばそれは更に成長していくだろう。

 

 人に愛される為の武器。それが彼女にとって容姿だった。


 金髪にも近いような甘栗色の髪と瞳。そして万人に愛されるだろう顔。

 ちょこんと小さな体格は守ってあげたいという心を誘う。

 人は彼女を「天使」や「姫」と呼ぶ。


 だが、彼女は人を愛せなかった。


 一方通行の想いというのは時に非情である。


 それ故、彼女が本当の意味で「愛」を見つけることはなかった。愛とは独り善がりなものではないのだから。

 彼女がどれだけ美しくても、可愛くても、天才でも――――――彼女が愛し、愛されることはない。


 告白を受けても、六花はその相手を知らない。

 その相手は、六花の「飢え」を知らない。

 

 人は彼女を好いているのではない。彼女を好きな自分を愛しているのだ。


 一方的で、独善的――――恋とは、身勝手だ。


「…………」


 天使というレッテルを貼られた人形は、今日も一人で眠りにつく。

 夢は見ない。

 想い出なんてないのだから。


 次の日、五時半に目覚ましで起床する。

 そして枕元にあったスマホを見ると、一通のメール。


 送り主は、父親。


「………………ぇ」


 少女は、家で久しぶりに声を発した。


 ◇◇◇


「あー」


「晴也、どうしたの?」


 中休みの教室。晴也はイライラしていた。

 新が声を掛けると、


「んー、いやちょっと考え事をな。……なあ、お前許嫁とか分かる?」


「はぁ? そりゃ存在は知ってるよ、親が決めた結婚でしょ? ……でも、この現代に許嫁なんて殆ど聞かないけどなぁ」


「だよな。……ったく、ふざけんなって話だよ」


 悪態をつく親友を見て、新は一つの結論にたどり着いた。

 有り得ない笑い話のような結論に。


「……………ねぇ、晴也。間違いなら否定して欲しいんだけど……もしかして、許嫁を紹介されたとか?」


「………………」


「晴也?」


「………………ご名答」


「え……ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ⁉」


 自分でも笑ってしまうような予想が肯定されたことで、新は驚きの声をあげる。


「ちょ、うっさいぞ。……新も知ってるだろ、俺の家」


「う、うん……」


 晴也の実家―――高橋家は、旧華族の名家。

 新も何度か家に招かれ、その大きさに驚愕したものだ。

 

 和風建築の大豪邸、その後継者が新の目の前にいる男だった。


「へーっ……え、でも彼女さんはどうなるの? 多重結婚はダメじゃない……?」


「だから怒ってんだ。親に決められた結婚なんてまっぴらだぜ、大正でもねぇのに」


(ここまで怒ってる晴也初めてみた……)


「……相手がどれだけ美人でいい人でもこれだけは譲れねぇ」


「ふーん、お相手どんな人?」


 新が何気なしに聞いてみると、晴也は溜息交じりに口を開いた。


「…………まあ、すっげー優良物件ってことだけは言える」


「なるほど……晴也は彼女さんと結婚したいんだよね?」


「当ったり前だろ! ―――でも、どうすればいいのか分からなくなってきた……くそっ」


 机をバン、と叩く親友を見て新は自分に何かできることはないだろうかと考える。

 

 ……でも、無かった。


(僕がどうにかできる問題じゃない……これは家の話だ……どうしようもない、か)


 冷静に状況を分析する新は自分の無力さを痛感する。

 予想外の事態であるため彼の頭も思考速度が低下していた、それ故唯一の解決策を失念している。


「クソがっ……」


 ◇◇◇


「うーん……」


 その日の晴也はずっとぼーっとしていた。

 帰路で別れるときもそうで、心此処にあらずと言ったかんじ。僕はそんな晴也を見てられなかった。


「どうすればいいんだろ……」


 ふと自販機で飲み物を買おうとしていると、一つだけ考えが浮かんだ。

 でもそれは非常に不味い考えだった。人としてというか倫理的に不味い。そういうのはナシで行こう。


「といってもなぁ……」


 やっぱり一高校生に出来ることは限られている。それが名家でもない普通の家出身なら尚更だろう。

 止められればいいけど、相手は古き良き名家なんだから伝統を大事にするだろうし。それを部外者がどうこう言ってやめてくれるものなのだろうか。

 それでやめるなら最初から自由恋愛を許しているだろうし、無理筋か。


 ガタン、と落ちてくる缶ココアを片手に帰り道を歩いていく。


 すると一本の橋が見えてくる。そこは下の河川敷に入れるようになっているのだが―――そこから泣いているようなちっちゃい声が聞こえた。

 女の子だろうか。

 心配になって降りてみると、


「………………?」


 膝を抱えて座り込む『少女』がそこにいた。

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