破‐8
「……さて」
僕は洗面台の前に立ち、自分の顔――というか、見える全身を見ていた。
これにはワケがある。
なかったらただのナルシストだしね、そこまで自意識過剰じゃないし。
「どうしようか」
そう、僕の迷いというのは服装のことである。
今まで女子と一緒に買い物……というかデートみたいなことをしたことがなかったせいで、僕の服は地味なものばっかりだ。
まあ、お洒落に興味がないからというのもあるが。
兎に角明日までにかっこいい服を揃えなければ!
「とは言え、どういう服がいいんだろ……あ、そうだ」
スマホを手に取り、電話をかける。
『もしもし?』
「あ、晴也。ちょっといいかな?」
『どうしたよ、珍しいな』
「いやー、明日女の子と一緒に買い物行くことになってさ。それで……」
『……え? ―――――えええええええええええええええええええええええええっ⁉』
「うわうるさっ」
鼓膜破れるかと思った。
『え、おまっ、だ、誰と⁉』
「言うわけないじゃん、相手に迷惑かかるでしょ」
『そ、それもそうか……そうだな。それで?』
「明日着ていく服が無くて、ちょっと手伝ってくれない?」
『いいぜ、やってやるよ!』
「ありがとう晴也!」
やっぱり持つものは友達だね。
これで課題はクリア。残る問題は僕自身なんだけど……それは後回しか。
「六花、ちょっと出てくる!」
「は、はい。分かりました」
急いでエレベーターに乗り込み下についたら直ぐに走り出す。
近くのショッピングモールへと急行し、晴也を待つ……つもりだったんだけど。
「おー、早かったな」
「え、もう居たの⁉」
「ダチの一大事だからな、かっ飛ばしてきたぜ!」
「あ、ありがとう……⁉」
これは凄いというだけで良いのだろうか。
僕の方がショッピングモールに近くて、急いできたっていうのに。まるで瞬間移動じゃないか。
「それで、お前に似合う服を見繕ってくれって話なんだよな」
「あ、うん……出来そう?」
「まっかせなさーい!」
ドヤ顔で親指をぐっと立てる親友に頼ってみることにした僕は、ショッピングモールの中へと足を向ける。
「なあ新、お前好きな色あるか?」
「好きな色? 強いて言えば……そうだね、白かな」
あんまり派手なのは好みじゃないし。
それにいろんな色で着飾っても、彼女には何でも見透かされてしまうような気がする。
「白、か……よし、ちょっとこっち来い」
「え、ちょっと」
晴也に手を引かれ、服屋に入る。そこにはいろんな種類の衣服が揃っていた。
普段来るような所じゃないから少し緊張してしまう。
手を引いている親友は彼女とこんな風にデートしているんだろう―――動きに迷いがない。
「まずは王道のジャケット!」
「なんか着られてる気がする」
「ええい次!」
それからどんどん服を着せられ、似合うものを探した。
「トップス!」
「何か違う」
「タンクトップ!」
「論外」
「……見つからねぇええええええ!!!!」
「お店だから静かにね。他の人ビックリしちゃってるよ」
「……コホン。――――諦めた方がいいんじゃね?」
降参宣言出てしまいました。
さて、どうしようか。
「うーん……何かいいのないかな」
「諦めろ、新」
「うっ……」
結果、成果なし。
僕たちは泣く泣く帰宅した。
「お帰りなさい、新さん」
「ただいま」
家に帰ると美少女がいる日常、これが凄く大切に思える。
僕は世界一の幸せ者だと断言できるほどに。
お金も、成績も、未来だってそこそこでいい。
僕の今は、ここにある。
「新さん、今日はどこに行っていたんですか?」
聞きながらお茶を出してくれる六花に僕はさらっと、
「いやぁ、晴也と服を買いに行ってたんだけど、いいのが見つからなくて」
「……」
言い終えると、六花の体が不自然に固まっていた。
少し震えているだろうか。
「ど、どうしたの六花……?」
「……それは、二人きりですか?」
「え、うん……二人だったけど……?」
「そう、ですか」
彼女は深呼吸をして、僕の方をまっすぐ見てきた。
待って、僕何かした?
怒らせちゃった?
「新さん……いえ、新くん」
「ハイっ⁉」
ちょっと待って怖い怖いコワイ!!!!
「そういうのは、私とだけにしてください」
「…………はい?」
僕の服を摘まむ彼女は、ぷくっと頬を膨らませた。
可愛い。
……っていけないいけない。
「えっと……うーんと……」
何か返答をしようと頑張ったが、駄目だった。こういう時中々言葉って出てこないものなんだね。
「……私と一緒に、選んでください」
「六花……?」
「そうじゃなきゃ、ちょっと……嫉妬、しちゃいます」
「う、ん……わ、分かった……」
「はいっ」
にっこりと笑う彼女を見て、小悪魔だなーと思うのであった。
ご機嫌になったようでよかったけど。
「新さん、明日は楽しみましょうね♪」
「……―――そうだね、六花」
僕も、笑うしかなかった。
笑えるんだ。




