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僕たちはあの日、消えてしまいそうな恋をした。  作者: 乙川せつ


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破-7

 目が覚めると、目の前に彼女が居た。


(……夢、じゃなかったのか)


 正直、夢みたいな感覚だった。僕たちは出会って数日、同居なんて本来有り得ない。

 でも白雪さんは実際にここにいる。

 それがとても不思議で、嬉しかった。


 彼女との会話が噓じゃなくて、ホッとした。

 僕はきっと、惹かれているんだと思う。


「……ん……」


 白雪さんはまだ目覚めていない。

 その彼女を起こす気にはどうしてもなれなくて、このまま寝かせることにした。


 多分この人は、泣き疲れたんだ。

 誰かに自分の価値を認めてほしくて、大切にしてほしくて、愛してほしくて。

 そんな想いを抱えたまま、僕のところに来たんだよね。きっと、僕が想像できないくらい苦しくて、独りだったと思う。

 だから昨日あんなことを言ったんだ。


『貴方を、誰にも渡さない……』


 その時の表情が酷く印象的で、見惚れてしまった。

 誘惑とか、魅了とか、そういう魔力のようなものを感じたんだ。


「小悪魔さん……いでっ⁉」


 朝食の準備をしようと立ち上がる――――が、右手に痛みが走った。


「む……」


「え?」


 白雪さんが僕の人差し指を噛んでいた。

 どれだけ逃げられたくないんだよこの人。昨日は散々無敵だとか思ってたけど、全然逆だったね。

 弱いんだ。

 普通なんだ。


「大丈夫だから……ね」


 そっと指を引き抜いて、ふと彼女の顔を見る。

 とても心地よさそうな表情だ。これだけ見ると普通の女の子だが、普通の子がいきなりあんなことをするだろうか。


「さ、ご飯作ろうか」


(危ういな……)


 正直なところ、白雪さんの状況が良いとは言えない。

 むしろ悪化しているかもしれないな、あれでは僕以外の人間に心を開かなくなってしまうぞ。まさしく依存と言える状態であるため、最悪共依存になってそこで終わりだ。


 彼女は多分、愛し方を知らないんだと思う。

 依存して、相手にも依存させる。それはかなり危険な状態だ。これでは偶像とリアルの板挟みになってしまう。

 そうなってしまったら、本当に壊れる。


「僕に出来ることをやらなくちゃ……………」


 それが、僕のやるべきことだと思う。

 どうしてだろう、理由は僕自身にも良く分かっていない。それでも。

 それでも人を見捨てることが良いことだとはどうしても思えなくて、だから僕は彼女を支えるんだ。彼女が僕を必要とせずに過ごせるまで。


「……出来るかな?」


 自分で言っておいてなんだけど、かなり難易度が高い気がする。

 弱気になるのが良いことじゃないくらい分かっているけど、あまりにも挑戦する壁が高過ぎて。そもそも僕たちは恋人でも家族でもない。

 そんな人の関係を憂うなんて、自分が馬鹿なのは理解できた。

 

「……よし、できた」


 結局結論を出し切れないまま、調理を終えた。

 簡単に白米、目玉焼き、トマトとレタスのサラダ、玉ネギと人参のお味噌汁。作ったものをリビングのテーブルに並べる。

 すると、僕以外の足音がゆっくり近づいてきた。


「おはよう、白雪さん」


「お、おはよう、ございましゅ……」


(噛んだ。かわいい)


「あ、あの、音花さん……その、昨夜のことは……ごめんなさい」


「別にいいよ、気にしてないから。適度に甘えることは大切なことらしいからね」


「う……はい」


 そうは言っているが、内心メチャクチャ気にしてます。

 でも顔には出さない。いつか笑い話にできるくらい、軽く流そうと思う。


「音花さん……嫌じゃ、なかったですか?」


「え、まあ……。驚きはしたけど」


(あ、やべっ)


「………そうですか、よかった」


 心底安心した様子を見せる彼女だったが、僕は逆にかなり焦っていた。

 また同じことをされるかもしれない。


「…………白雪さん」


「六花」


「え?」


「六花って、呼んでください。新さん」


「……ふーっ」


 まあ、これから見守っていくしかないよなぁ。


「分かったよ、六花。その……よろしく」


「はい♪」


 何だか、手のひらの上で踊らされてる気がする。

 


 ◇◇◇



僕と六花が関わるようになって二週間ほど経った。


今の関係は隣人以上友達未満といったところだ。あれを除けば、だが。


「いただきます」


 その日もいつも通り、夕食を一緒に食べていた。


「新さん‥‥一つ聞いてもいいですか?」


「‥‥‥どうかした?」


 お分かりの通り六花は僕のことを【新さん】と呼ぶようになった。

あの日からずーっとこの調子である。


「前々から疑問に思っていたのですが、このお家の包丁は随分手入れされているようですね」


「包丁? ああ、あれは父さんが置いて行った包丁なんだ。砥石で手入れもしているし」


「砥石‥‥だいぶ高かったのでは‥‥?」


「あー、実家に前からあったやつだしな‥‥値段どうこうは分からない‥‥それがどうした?」


「いえ、道具を丁寧に扱うのは良いことだと思います。ただ、それでも綺麗だったので」


(綺麗‥‥か)


 ふと、キッチンにある包丁の刃を見つめた。


「多分あの包丁、爺ちゃんが使っていたものなんだ」


「お爺さまの?」


「ああ。親子三代の食生活が詰まってるんだろうさ、きっと」


「それで‥‥美しいはずです。‥‥親子愛、ですか‥‥」


「…………?」


 六花の顔が曇った。


親子、これはやはり、六花にとってあまりうれしい話題ではないようだ。


「‥‥君はあんまりそんな顔をしない方がいいよ」


 素直に思ったことを口に出した。


「え‥‥」


「せっかく美人なんだから、笑顔でいた方が周りも嬉しいと思う」


 六花は少し呆気に取られたような顔を見せて、その後笑い出した。


「‥‥なんですかそれ‥‥ふふっ」


「なんだよ‥‥変?」


「変ですよ‥‥そういうのに興味なさそうな貴方が美人とか、笑顔なんて‥‥」


 六花の笑顔は本当に可愛い。ただ、僕の言葉選びは変だったらしい。


「‥‥僕だって男子高校生だ。女子の顔くらい見てるさ」


「それでも、きっと貴方は顔より心で人を選ぶでしょう?」


 満面の笑みから放たれた言葉に核心を突かれたような気がした。


「心‥‥確かに。美しい地獄より、醜い天国の方が性に合ってる」


顔がいいクソ女より、可愛くない天使の方が何千倍も愛せる。


謎の自信でそれを確信できた。


「でしょう? そういう人なんですよ、貴方は。そこがいいところですけど」


「ありがと、六花」


「~~~~~っ!」


六花の顔が赤くなった。蒸気でも出そうだ。


「…………どうかした?」


「………同年代の人に呼ばれるのは慣れなくて‥‥」


「もう二週間経ったよ。というか言い出したのはそっち‥‥」


「それはそうなのですが‥‥まだ慣れません‥‥!」


「そっか。まあ、いつかは慣れるよ」


 包丁が砥石によって切れ味を保つように、今は六花の食事によって支えられている。


「………ねえ」


「……なんですか‥‥?」


「そろそろ僕にも礼をさせてくれ」


「礼‥‥?」


「いつも飯を作ってもらってるんだから。報酬が無いとバチが当たるでしょ?」


「そう、ですか‥‥?」


「何か欲しいものでもある?」


「欲しいもの‥‥そうですね‥‥それでは一緒にショッピング、などどうでしょう?」


「ショッピング‥‥」


 聞いたことがある。女子と行くショッピングは、何かヤバいらしい。

 対馬の友達との買い物でもかなり長かった。


(都会の女子はどうなるというんだ‥‥?)


「分かった、今週の土曜なら空いてるから」


「ではその日に」


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