第9話 ミルクがなければ、絞ればいいんですよ♡
「そりゃあ、もう、びゅっびゅっ♡です」
「びゅっびゅっ、ですか」
「びゅるびゅるう~♡ びゅびゅびゅううぅう♡です」
「エッチですね」
「何がですか?」
魔道具店のマドーグさん。
新しく入った、ミルクの出やすい搾乳機を紹介してくれた。
「これ、いただきます」
「ありがとうございます」
わたしはマシンを買って帰る。牛用の魔道具が壊れてしまった。新しく買い換えるのだ。
牛舎にいる牛に取り付けると、
お乳が出るわ出るわ。
完璧じゃないか!
これでチーズができそうだ。
♢ ♢ ♢
牛乳の樽を抱えていると、向こうからメイドさんが現われた。褐色の肌。赤い目。西のダンジョンちゃんだ。
「お主と新しい勝負がしたい!」
「勝負?」
西のダンジョンちゃんは、ことあるごとに勝負を挑んでくるようになった。
「題して、メイド喫茶でご主人様を満足させられた方の勝ち!ゲーム!」
「メイド喫茶か……」
変わった勝負だ。だが、ご主人様は紅茶好き。一週間に一度、喫茶店に行くのが趣味だ。なら、その日にわたしたちでメイド喫茶をしてみるのも悪くない。マンネリ化した日常に刺激が加わるかもしれない。
「負けないよ!」
「こちらこそじゃ!」
♢ ♢ ♢
ご主人様に目隠しをして、リビングに通す。
「いらっしゃいませ♡ メイド喫茶、ダンジョンリフレへようこそ。自由にくつろぐと良いぞ」
フンッと鼻を鳴らして、ウエイトレス姿のダンジョンちゃん(西)がいる。
目隠しを外されたご主人様。わあ!と嬉しそう。
早速、手を繋いでテーブルへご案内。おっ☆いに腕を挟み込んであげる。これくらいはサービス。
(クソッ。早速仕掛けてきおったか!)
そんな表情でダンジョンちゃん(西)がわたしを見る。
西のダンジョンちゃんサイド:
(前回はコヤツ(←わたし)にお色気の術で一杯食わされたからな。ここは早速お色気攻撃といこうか)
ぷるるん♡
「ご主人様、ワシの乳☆、何色か当てるゲームをするのはどうじゃ? それともパンツの色を当てる遊びはどうじゃ?」
妖艶に。瞳パチパチ。くねくね。胸を掴む。
「おやつの時間だし、ケーキと紅茶がいただきたいな」
「ガガーーン!」
(ご主人様の性欲は死んでおるのか!?)※脇フェチなだけです
くずおれる。女としてのプライドが瓦解する。
くっそ!
「ほれ! ご主人様! イチゴのパンケーキじゃ!」
「ありがとう!」
「おいしくな~れ♡ おいしくな~れ♡ 萌え萌えきゅ……」
「ぱく! うん、最高だよ!」
呪文を最後まで聞けよ!
見ると、東のダンジョン(←わたし)が、腹を抱えてケラケラ笑っておるではないか。この屋敷のご主人様は、本当に空気が読めん奴よ。
(ワシんとこの、厳しいご主人様とは、えらい違い……)
「ねえ、西のダンジョンちゃん。紅茶に砂糖とミルクが入ってないよ」
「うえぇえええ!?」
ミルクじゃと?
慌てて走り回る。足に何かがぶつかって、倒れる。割れる。白い液体が、床にぶちまけられる。
(え?)
これって、牛乳——!
♢ ♢ ♢
ダンジョンちゃんサイド:
「あらあら、牛乳がなくなってしまいましたわね」
ニヤリ。
ご主人様は紅茶にうるさい。砂糖とミルクで飲みたいと言ったら、言うことをきかないのだ。
わたしは、狼狽する西のダンジョンを落ち着かせ、床を拭き、
「ご主人様、ちょっとお待ちください」
一礼してからその場を去る。
戻ってきて、
手には、もちろん、
搾乳機!(ババーン!)
「はっ? それは牛用の搾乳機ではないか……。まさかお主……」
西のダンジョンちゃんは、汗ダラリ。震えてる。かわいいな。
にっこり。
わたしは彼女ににじり寄る。
「さあ、出番です♡」
「う、牛につければいいだろう」
「残念ですけど、牛さんは本日のミルクを出し切ってしまったのです」
「やめろやめろ。そもそもワシは乳は出ぬぞ!」
「大丈夫ですよ。これは魔道具。何でもありです」
「なぜワシなのじゃ!」
「牛乳こぼした罰ですよ。これじゃあチーズが作れません。それに、乳☆の色当てクイズを提案してたのは、あなたじゃないですか」
ばるるん♡
わたしは西のダンジョンちゃんを押し倒す。
「やめろ、やめんか!」
「おとなしくしてください♡」
カチッ。ポチッ。
びゅるるるぅぅぅうう♡
「ぎゃああああ!」
♢ ♢ ♢
「見ておれー! 次こそはギタギタのズタズタにしてやるからなぁあー!」
西のダンジョンちゃんは、涙目になって屋敷から出て行った。
ふははは! ナンバーワンのメイドはこのわたしだ!
「ダンジョンちゃーん?」
「なんですか? ご主人様」
「だれがメイドさんのミルクを入れてって言った?」
「うえ?」
「母乳は脂質が多い上に糖分が高いから、紅茶の渋味が残るんだよ」
ご主人様が怒ってる。やばい。
わたしはブルブルと震えた。
「す、すみませーん!」
西のダンジョンちゃんを追って、わたしも屋敷から飛び出したのだった。




