第3話 「どこ掴んでんだッ!」バゴッ
わたしは、ブラフックを——ゆっくりと外していた。
ぽちっ、ぽちっ。
胸元。白い肌。汗で、テカテカ光ってる。湿ってる。
よっし、外れた!
ぽよん♡
「しっかし、体調悪いときって……、こんなに蒸れるんだな……」
汗まみれになったおっ☆いを、風にさらすと、ああ、なんて気持ちいいんだ。
わたしは現在半裸。昨日の毒で寝込んでる。
(まったく、とんだ凡ミスだったな。皿を出し間違えるなんて)
ベッドでごろごろ寝転ぶ。おっ☆いがふにゅんと潰れる。
「——そういえば、今日の料理や掃除は誰がやるんだ? まさかご主人様が一人で?」
ぴんぽーん♪
そんな心配をしていると、チャイムが鳴った。
「ボーケン、手伝いに来たわよー!」
女の声。高い声。美声。大人っぽい。
わたしはパジャマを着て、木戸からソッと様子をうかがう。
いる! 女。金髪。美人。ニットのセーター! 胸がぱつぱつ! 爆乳。わたしよりでかい!
骨格は細く、胸だけモンスターな女は、にっこりと立っていた。
ご主人様が迎えて、女が躓いて、そのままご主人様にダーイブ。
抱き♡
(ええ——!!)
「ヒーラじゃないか。どうしたんだ? パーティーは解散しただろ? 俺の顔なんて二度と見たくないって出て行って……」
「あら、そんなこと言ったしら?」
テヘペロ♡ コツン♡
(なんなんだ! あの女! ヒーラ? 誰だよ。ご主人様が有名になってお金持ちになったから、よりを戻そうってヤツか! けっ!)
——いやいや。冷静になれ、わたし。
(わたしはご主人様を殺そうとしてるんだ。どの女といちゃついてても、別にいいだろうが)
そう。別に。いい。問題ない。全然ない。ノープロブレム。
ノープロブレム。
ノープロブレム。
ノープロブレム。
ぽぽぽ、ちーん。
(うっるせぇえええ! 腹立つモンは腹立つんだよ! 理由なんているか! 胸デカすぎ! 香水臭い! 口紅濃い! ニット着こなしすぎ! 大人っぽすぎ! 全部むかつく!)
そうだよ、財宝を狙ってるなら許さん! あの財宝はご主人様のもの。もっといえばわたしのだ。あの女に渡す義理はない!
♢ ♢ ♢
それからというもの、ヒーラはご主人様の世話をし始めた。
料理。コーヒー。マッサージ。花の水やり。落ち葉かき。ご主人様の隣で、にこにこ。いい奥さんになるよアピール。まじウザイ。
そのあと、二人が並んで畑に行って野菜を収穫してる。笑い合っている。ヒーラが、トマトをご主人様の口に「あーん♡」してる。さり気なく谷間アピール。
(全力で男をおとす作戦か。ご主人様は下半身バカだからな……)
おとす?
「そーだ! 落とし穴を作ろう!」
わたしは手をポンと叩いた。
(うっひひ。見てろよ女! 玄関前に穴を掘って、農園から帰ってきたところ、女の背中を押して落とせばいいじゃん。完璧じゃん!)
——というわけで、
わたしは、せっせと穴を掘った。
体調不良? もう忘れた。
えっほ、えっほ、穴を掘る。掘ったら底にマキビシを詰める。キランと輝いている。草を敷き詰めて、わからなくする。
——ぐひひひ、ぐひひ。
わたしは玄関で待ち構えた。
しばらくして、
二人が帰って来た。例の女はなれなれしく、ご主人様と腕を組んでる。
きー!!
「ご主人様ー♡ お帰りなさいませー♡」
スキップ、スキップ。わたしは満面の笑みで近寄る。
「お、ダンジョンちゃん、体調は良くなったの?」
「はい! この通り、すっかり元気です!」
わたしは力こぶ。腕を振り上げると同時に、
ヒーラの背中に、さり気なく手を伸ばす。
(我ながら、なんて自然な演技! これで女は地獄行き!)
——次の瞬間、
「ねえ、ボーケンくん、これ、なんていう花なの?」
ヒーラが、ひらりと——
そう、ひらりと、
身を翻した。
「うえええええええええーー!?」
私の手は、
空を掴む。
そのまま、重力に引きずられて、
前のめりになって、
「——ダンジョンちゃん!!」
ズザザザーーー!!
「イテテテ……」
わたしは、穴に、——落ちた。
ギリギリでマキビシは回避。メイド服はボロボロ。スカート裂けて、パンティー丸見え。上着から乳☆がこんにちは。
「ダンジョンちゃん、大丈夫!?」
なんと、ご主人様も一緒に落ちていた。ていうか、ご主人様がわたしを抱える形になってる。両足で踏ん張って、底まで落ちないようにしてくれていた。
(なんてこった!)
わたしは子猫のように身震いした。
落とし穴掘ったのバレた。メイド服もオジャンにした。怒られる。ひっぱたかれる。
「え、あ、その、ごめんなさい。メイド服の修理代っていくらなんでしょうか」
「そんなこと、どうでもいいだろう! お前は大丈夫なのかって聞いてるんだよ!」
きゅうううううん♡
え? え? なにこのシチュ。コイツに心配された。心臓ばくばく。顔アツ。赤面。全然嬉しくなんて、ないんだからねッ!
「だだだ、大丈夫です」
わたしは咄嗟に体勢を立て直そうとする。動きたい、動け! 動け! ——動けない。
狭い空間に、ご主人様と密着してる。わたしのお尻に、ご主人様の何か硬いものが当たってる。
むにっ♡
(うわああああーー!! 事故だよ、事故だよ!)
手足バタバタ。側面の土、崩壊。
「危ない!」
——むぎゅ♡
ご主人様がさらにわたしを強く掴んだ。
(いやいや、待て待て、どこ掴んでんだよ。ひっぱたくぞ、この野郎。……いや、今のシチュならどっこいどっこいか)
「もっと寄って!」
ご主人様の真顔。
あわわわわわッ! 顔近い。離れろ離れろ。お前の鼻筋は整い過ぎてんだよ!
「ンッ……♡」
わたしの胸が、厚い胸板に押し付けられる。思わず変な声が出た。
強い力、守られてる。
「ダンジョンちゃん、僕が支えてるから、登れる?」
「やってみます」
もろい土壁を、登る。登る。登——れない。
わたしはご主人様の腰に、尻から落ちる。
「——うひゃ♡」
息が荒い。目がぐるぐる。なんだこのシチュ。
何度も挑戦してみるけど、やっぱり尻から落ちる。そのたびに、ご主人様がわたしを受け止めて、掴まなくてもいいところを掴まれたり、刺さらなくてもいいところに刺さったりして、
なにこれ、
あとでぶっ飛ばす♡
そんなこんなをしてると、
「ロープにつかまってー」
ヒーラさんが助け舟をよこした。
わたしたちはなんとか救出されたのだった。
♢ ♢ ♢
——バゴッ!
わたしは枕を叩いた。
「なんだよ! また失敗かよ! 明日こそは絶対に絶対に絶対に絶対に、殺す!」
わたしはオニューのメイド服を着て、ベッドにダイブ。両脚をばたつかせるのだった。




