第12話 ナイスバディーの筋肉女子はいかが?
ムキッ!
わたしは鏡の前でポーズを決めた。
腕を曲げ、胸の位置で拳を作る。おっ☆いがプルルン♡
別のポーズを取る。
背中を向けて、頭の後ろで手を組む。お尻がプリリン♡
「はあ~」
わたしは溜息をついた。
最近は筋トレがブームと聞く。ナイスバディーには憧れる。
でも、わたしには向かないかな。筋トレ週間も続かないだろうし……。
どうすればマッスルになれるんだろう。
♢ ♢ ♢
今日は狩りの日。
ご主人様と森に行くと、例の薬屋のNPCおじさんがいた。惚れ薬をもらった人。
「いらっしゃい! 新しい薬が揃ってるよ!」
わたしはうろうろ。きょろきょろ。
(——おや?)
キラリと光る小瓶。ラベルは『マッスルドリンク』。
「あの~、この薬は……」
「お目が高いねお嬢さん。その薬は、飲んで運動すると、一時的に筋肉がついてムキムキになれる秘薬ですよ。100万はくだらない逸品ですがね、お客さんには安く提供させていただきやすよ。これを使えば、どんなモンスター相手でもメッタメタのズッタズタでっさ」
「買います!」
即決。
わたしは財布から小銭を出して、薬をゲット。
(ふふふ。これで憧れの筋肉女子になれそうだ。筋肉がつけば、ご主人様に体格差で負けることもなくなる! 完璧!)
♢ ♢ ♢
「ご主人様~! ジムに行きませんか~?」
わたしは紅茶を飲むご主人様に、にっこにこで提案した。
「ジム?」
「はい! 最近運動不足だし、たまには体を鍛えるのも良いかなって!」
「それはいいね!」
隣町のジムは、ダンベルなんかがずらりと揃った、立派な施設だった。
「わあ、すごい!」
ご主人様とわたしは、早速筋トレを開始する。ご主人様はタオルを肩にかけて、ベンチプレス。わたしはランニングマシン。
「いやあ! 久々にいい汗がかけるよ! ありがとう!」
ご主人様にこり。
胸板バーン。腕の筋肉デーン。前髪から汗ポタ。わたしにウインク。
「ぐほっ!」
あまりのイケメンっぷりに、鼻血が止まらない。〝水も滴るイイ男〟すぎだろ。
「大丈夫!? ダンジョンちゃん!?」
しっかりしろ! コイツは敵だ! 暗殺対象だ!
わたしはフラフラしつつ、運動を続けるのだった。
♢ ♢ ♢
暗殺ターイム♡
みなさんお待ちかねの暗殺タイムですわよ。
今日のテーマは筋肉! このさらっと飲みやすいマッスルドリンクで、張りのある筋肉を手に入れましょう!
(——ごくごく)
このように飲んでから筋トレをしますと、あら不思議、みるみるうちに、腕、腹、肩、太もも。ありとあらゆる場所に魅力的な筋肉がつきま~す!
なのに、ばばーん♡とおっ☆いのボリュームは変わらない!
今なら、一万でご提供させていただきます。奮ってお電話ください~!
(——って、通販番組かっ!)
わたしは自分にツッコむ。
みるみる筋肉がついていくわたしに、ご主人様が叫んだ。
「すごいよダンジョンちゃん! 筋トレの素質があるんじゃない?」
(うふふ、作戦通り!)
すたすた。
わたしは筋トレ中のご主人様に近づく。
「ご主人様~♡」
「ダンジョンちゃん!?」
ぐいっと押し倒す! わたしとご主人様は、ジムの柔らかいマットの上に転がった。
その上に覆いかぶさる。のしかかる。
「うふふ♡ ご主人様、筋肉質の女性はどうですか?」
わたしは自分の二の腕を見せつけた。
「ムキムキなのに、おっ☆いだけは大きい♡」
ぎゅっと胸を寄せる。谷間、強調。
力を緩める。
二つのメロンが、ゆっさゆっさ♡
ぽろり♡
ぽろり♡の先から汗が伝って、ご主人様の肌を濡らす。
ご主人様、真っ赤♡ 可愛い♡
そして——
ご主人様の手を取って、力任せに、谷間にぐいっと差し入れる。
「ほら♡ 柔らかいでしょ♡」
すりすり。ご主人様の手を挟む。もみもみ。ぷにぷに。
ご主人様の体温が伝わる。
「ダ、ダンジョンちゃん!?」
「えいっ!」
わたしはご主人様の腰に座る。とびっきりの甘い声でささやく。
「ねえご主人様~♡ わたし、ご主人様ともっともっと〝運動〟したいです~♡」
ぎしぎし。わたしが動いて、床がしなる。
リズムよく音を刻む。
たんたん♡ たんたん♡
リズムが激しくなる。
ちゅちゅ♡
「ご主人様、いい匂い♡ 汗の匂い♡」
首筋をぺろぺろ舐める。
「だめだよ! ダンジョンちゃん! ここジムだよ!」
「ジムだから興奮するんじゃないんですか? ほーら♡ わたしは準備万端なんですから♡ もっともっと〝運動〟しましょうよ~♡」
(——今だ!)
わたしはご主人様の首に手をかける。抱き♡
(ふっふっふ! 油断したな主人よ! ゴキッと締めあげれば、秒殺——)
「そういうことだったんだね!」
へっ?
ご主人様は目を輝かせた。
「気が付かなかったよ。ダンジョンちゃんがもっと〝運動〟したいだなんて。それじゃ、とりあえず腕相撲でもどうだい?」
——うえぇぇええええ!?
そっちの運動じゃねーよ! 文脈考えろよ! 夜の運動に決まってんだろうが!
ご主人様はサッと、
そう、
サッとわたしをどかして、
床に肘をすりつける。
「実はさ、力比べの相手が欲しかったんだけど、村の人たちはみんな弱くてね。実力を発揮できる挑戦者がいなかったんだよ。
ダンジョンちゃんの今の体形なら、僕の0.1パーセントくらいの力はあるだろうし、少し手加減しなくてもいいのかなって思って」
「はぁぁああああ!?」
0.1パーセント!? 0.1パーセントって言った!?
コイツどんだけ強いの?
(——待て待て。冷静になれ自分!)
わたしに殺されると踏んで、ハッタリかましてるだけだ。そうに決まってる。
冷や汗たらり。
「うううううう、う、腕相撲ですか! いいですね! まままま、まあ、わたしが勝つに決まってますが!」
「利き手はジャンケンで決めるってことかな? ダンジョンちゃんはジャンケン強いんだね!」
ちげーよ! 誰がジャンケンで勝つ話をしてんだよ!
(くっそ!)
舐められてる! 思い知らせてやる! マッスルドリンクの力を! すべてのモンスターを蹴散らす、カンストの魔力を!
「よーし、いくぞ! レディー、ゴ……」
だんっ!!!!
「はい、僕の勝ち~」
……。……。……。 ……。……。……。
……。……。……。 ……。……。……。
……。……。……。 ……。……。……。
一瞬だった。わたしの腕があっという間に倒された。
「どうしたのダンジョンちゃん! ごめん、本気でやるのかと思って。次は力をセーブするから……」
「ベーだ! ベーだ!」
わたしはご主人様に舌を出す。
「ご主人様なんてあっち行け! うわーん!」
わたしは泣きながらジムを飛び出したのだった。




