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第8話 教えること(2)

 ダンとコリンを連れて、ミアは森へと足を運んだ。ほかの村人たちも森を探してくれるらしい。


「子どもの足で行くんだ。そんなに遠くには行かないだろう」


 村人たちはそう言っていたが、子どもの体力は馬鹿にできない。森の入り口付近を探すのは村人に任せて、ミアたちは森の奥に向かうことにする。もちろん、いないのならそれでいい。


「子どもって何人いるんだ?」


 既に大人に交じって仕事をしているダンは、あまり子どもたちとかかわりがない。子どもが何人いるかも把握していなさそうだった。


「十人だよ。一番上の子は十歳」


 返事をしたのはコリンだった。彼は村の女性の家事を手伝うことが多い。その過程でよく子どもたちとも顔を合わせているようだ。

 コリンはまだ八歳だ。本当ならば、まだ仕事をしていい歳ではない。だが、身寄りがいないこと、何よりミアの何でも屋の一員として、村の大人たちに何とか受け入れられている。きっと彼の働きを見て、信用してくれているのだろう。

 しばらく歩いていると、コリンが足を止めた。


「どうしたんだ?」

「あっちから、声がする」


 コリンが指さした方へ、ミアは足を進める。歩いていくと、泣き声が聞こえた。それも複数だ。


「帰りたいなら、歩いてくれよ……」


 見れば、複数の子どもたちが座り込んで泣いている。それを困った様子で見ているのが年長の子なのだろう。


「君たち」


 ミアが声をかけると、子どもたちは顔を上げた。


「コリン……?」


 ミアやダンのことはわからなくても、コリンのことはわかったみたいだ。

 コリンは子どもたちの方に駆け寄る。


「みんな、大丈夫?」


 コリンが優しく声をかければ、子どもたちはふにゃりと泣きそうな顔になった。


「歩いてたら、転んじゃって」

「疲れた」

「お腹空いたよぉ……」


 子どもたちは口々に自分の思いを口にする。コリンはそれを聞いて、ふんふんとうなずいた。持っていたカバンを下ろすと、そこからお菓子を取り出す。


「お腹空いてるって、思ったんだ」


 お菓子を差し出され、子どもたちは目を輝かせた。さきほどまでの不満が一転し、機嫌良さそうにお菓子を食べはじめる。


「ありがとう、コリン」


 年長の子はホッとしたようにお礼を言った。


「ううん。これ、君の分」


 その子にもお菓子をあげる。緊張がほどけたのか、泣きそうな顔でお菓子を食べていた。


「それで、どうして森に来たんだ?」


 子どもたちに問いかけると、彼らは互いの顔を見合わせた。


「デイジーが森は楽しいところだって言ってたから」

「僕たちも行ってみたくて」


 昨日のデイジーの様子を見て、自分たちも興味を持ってしまったようだ。ミアは腰に手を当て、子どもたちに視線を合わせる。


「森は魔獣が出る危ないところなんだ。大人でもそんな簡単に来たりしないよ」

「そうなの?」

「そうだ。魔獣が来たら、君たちは倒せるかい?」

「……倒せない」


 倒せると言い出すかもしれないと思っていた。だが、村の大人たちでも魔獣狩りに苦戦しているのがわかっているようだ。


「じゃあ、森に来てはいけないことはわかるよね?」

「うん……」


 子どもたちは渋々うなずく。


「それじゃあ、帰ろうか」


 ミアが声をかければ、子どもたちは立ち上がって歩きはじめた。森の入り口に辿り着けば、村の大人たちが待っていてくれていた。


「もう森にいくんじゃないぞ」


 大人たちに注意され、子どもたちは落ち込んでいた。話はこれから誰が子どもたちの面倒を見るか、というものになった。

 村の人手は足りない。今まで誰も見ていなかった子どもの面倒のために、誰かを置くのは少し抵抗があったようだ。


「じゃあ、僕が見ようか?」


 議論している大人たちの中でコリンが手を挙げる。


「僕なら、みんなの顔を覚えてる。時間もあるし、魔獣とも戦えるよ」


 村人の男性は眉を寄せる。子どもが子どもの面倒を見るのは今までと変わらないと判断したのだろう。だが、女性たちの反応は違った。


「あら、コリンちゃんが面倒を見てくれるの?」

「コリンちゃんなら安心だわ」


 コリンは村の女性たちの家事を手伝いながら、顔を売っていたようだ。彼女たちからの信頼が厚い。


「だが、この子もまだ子どもだぞ」

「あら、コリンちゃんはしっかりしてるわよ」


 そーよそーよ、と女性たちがコリンの提案に賛成してくれる。それを見た男性たちは仕方なさそうにうなずいた。


「わかった。何か問題があったら、そのときは大人を置こう」


 その言葉でコリンの仕事は子どもたちの面倒を見ることに変わった。





 コリンが子どもたちの面倒を見るようになってから一か月が経った。夕方になれば帰ってきて、料理の支度を手伝ってくれるため、ミアとしては何も困っていない。


「今日は猫を見つけたよ」


 料理をしながら、コリンは今日一日あったことを話してくれる。彼の話から順調に子どもたちとの関係を築けているようだった。

 楽しそうに話していたコリンが、手を止めこちらを見上げる。


「先生。明日、僕と一緒に来てくれる?」

「あぁ、かまわないが。何かあるのか?」


 コリンはニコッと笑い、口元で人差し指を立てた。


「内緒」


 店はデイジーに任せ、ミアはコリンと共に、子どもたちの集まる広場に足を向けた。子どもたちはコリンの姿を見ると、元気に手を振ってくれる。


「コリン先生!」


 ……先生?

 その呼び方にミアは首をかしげた。だが、コリンは笑顔で手を振り返している。彼らのもとに近づけば、コリンがそう言われている理由がわかった。


「……文字を書いているのか?」


 見れば、子どもたちは地面に木の棒で文字を書いている。全員とはいかないが、年上の子たちがその文字を書き連ねていた。


「コリン先生が教えてくれたの!」


 コリンの方を見ると、彼は照れ臭そうに言った。


「みんなが知りたいって言ったから」

「みんなが?」

「デイジーが、いろんなこと知ってるの、羨ましかったんだって」


 コリンは子どもたちの方に目を向ける。彼らは文字を書いたり、読んだり、子どもによっては計算をしている子もいた。きっとコリンが教えたのだろう。


「どうして黙ってたんだ?」

「先生に、驚いてほしかったから」


 確かに驚いた。コリンは他の生徒たちよりもおっとりした性格をしていた。そんな子が率先して何かするとは思っていなかった。


「コリンちゃんは、子どもたちの面倒をしっかり見てくれてるわよ」


 話を聞いていたのか、村人が数人こちらに歩いてきた。その様子から察するに、コリンがしていたことを知っているようだ。


「最初は俺たちも、勉強なんて必要ないって思ってたんだ。だけど、コリンに言われてな」

「知ってても無駄にならないんだから、働かない子どものうちに学んでもいいんじゃない?って言われたのよ」


 コリンが大人に意見をした。彼らしからぬ行動だ。彼はミアを見ると、「だって」と口を開く。


「僕は、先生にいろんなことを、教えてもらった。知らないことを知れば、見えてなかったものが見えるようになった。それって、すごいこと」


 コリンはしゃがむと、道端に生えていた花に触れる。


「知らなければただの雑草だけど、知れば薬草になる。文字も、読めればもっといろんなことが知れる。世界が、見えてるものだけじゃないって、わかる」


 コリンはミアを見上げる。


「先生が教えてくれた。だから、僕もみんなに教えたかった。……先生みたいに」


 へにゃりとコリンが笑う。それを見て、ミアは胸の中に熱いものがこみ上げてきた。


 ミアは膝を地面について、コリンを抱きしめる。


「君はすごい子だな。……ありがとう、コリン」


 ミアでは村の子どもまで手を出すことができなかった。だが、コリンはそれを成し遂げてしまった。きっと、コリンが今までこの地で築いてきたものが実った結果なのだろう。


「私は君を尊敬するよ」


 そう言うと、コリンが嬉しそうに「ふふふっ」と笑った。

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