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第7話 みんなに教えること(1)

 愛していた恋人を亡くし、恩師とともに旅を出たとき、ミアは自分の知っていた世界がこんなにも狭かったと実感した。

 知らない習慣、食べたことのないもの、土地によって異なる人々の考え方。雨がたくさん降る土地もあれば、寒さを知らない土地もあった。

 あの小さな村でずっと過ごしていたら、こんなにも世界が広いと気づけなかっただろう。


「ミアは知識をどう考える?」


 恩師に問われ、ミアはすぐに答えることができなかった。


「……楽しいもの?」

「ああ、知らなかったものを知れば、景色は変わり、面白さも出てくる。だが、それだけではない。知識は道具だ」


 恩師はトントンと指で頭を叩く。


「知っていれば使えるし、知らなければ使えない。そして、上手く使う方法を知らなければ、何かをなすこともできない。知っていれば、それだけやれることが増えるんだ」


 ミアは自分に身に着いた知識を思い出す。それらのおかげで助かったときもあり、周りの役に立ったこともある。

 学ぶことができるのは幸せなことだ。もっといろんな人が学べる環境を持てたらいいのに、とも思う。だが、それが難しいことだとミアはわかっていた。





「ミア、いるか?」


 アルはあの魔獣狩り以降、本当に頻繁に顔を出すようになった。遠方での討伐がない限り、月に何回も店に来ている。


「今日は何の用だ?」


 ミアは呆れるしかなかった。だが、彼からは高額の依頼が舞い込む。そう無下にはできない。

 デイジーとコリンはきらきらした目でアルを見ており、ダンはムスっとした表情で睨んでいた。

 その日は生徒たちに勉強を教える日だった。全員が居間に集まって、話を聞く準備をしている。


「ああ。今日は話が聞きたくてな」

「話? 何の話だ」

「ミアは子どもたちのことを生徒と呼んだだろ? だから、この子たちにいろんなことを教えているのはお前だと思ったんだ」


 アルの考えは正しい。文字や計算などの簡単なことから、戦い方、調合、家事などさまざまなことをミアが教えている。


「そうだ。だから、何だ?」

「村の子どもたちには教えないのか?」


 その言葉にミアは目を瞬かせた。そして、小さく笑う。


「難しいだろうな。子どもたちはいずれ村で働くことになる。そのための知識さえあればいい。文字や計算は必要ないと考えるだろう」


 知識があれば、何かあったときに対処ができる。そういった意味では勉強が必要だ。だが、今まで必要のなかったものを親がわざわざ子どもに勉強させるだろうか。


「本当は村の子どもたちにもいろんなことを知ってほしい。だが、彼らの親が許すかわからない」

「そうか。村の子どもも知識を得られれば、様々なことができると思ったんだけどな」


 アルの言いたいことはわかる。だが、それは理想でしかない。


「仕方ないさ。私は自分の手の届く範囲で面倒を見れればいい」


 そう言って生徒たちの方に目を向けると、コリンが真剣な表情でこちらを見ていた。


「コリン、どうしたんだ?」

「先生は、みんなに学んでもらいたい?」


 その問いに、ミアはうなずく。


「そうだな。みんなが思い思いに学べる場所があればいいと思うよ」

「そっか」


 コリンはそう言うと、何か考えるように腕を組んでいた。





 次の日、ミアはデイジーとコリンを連れて森に行く予定だった。森に生えている薬草を探しに行くためだ。

 ダンは村人に魔獣狩りへ連れ出され、留守にしている。


「じゃあ、行こうか」


 それぞれ籠を持って森に向かう。村人たちはあまり森に寄り付かない。魔獣が出るからだ。だからか、森には豊富に植物が生えている。

 デイジーとコリンは薬草の知識がちゃんと身についているようで、自分たちで薬草を見つけてしまう。わからないものはミアに聞いて確認を取っていた。

 三人で集めてしまえば、すぐに薬草は籠いっぱいになった。


「これでまた調合ができるわね!」


 薬を作るのが好きなミアはホクホクした様子で森を出る。

 三人で薬草の入った籠を持って村を歩いていると、遊んでいた子どもたちが不思議そうにこちらを見ていた。


「どこかに行ってたの?」


 子どもの問いかけに、デイジーが胸を張って答える。


「森に薬草を取りに行ってたのよ。ほら!」


 デイジーは籠に入っている薬草を見せた。子どもたちは興味深そうに籠の中を見ている。


「薬草? これ、草だよね?」

「草だけど、体にとっても良い草なの。薬になるんだから!」


 ほかの子どもたちは興味を持ったのか、こちらにやってきた。


「これは何?」

「それは風邪薬になる薬草よ」

「これは?」

「それは怪我にいいの!」


 子どもたちの質問に、デイジーが堂々とした様子で答えていく。ずいぶんと知識がついたものだなと感心していると、子どもの一人が興味津々といった様子で質問をした。


「森ってどんなところ?」

「いろんな植物があるわ! 薬草だけじゃなくて、果実もなっているの!」

「へえ!」


 子どもたちと話すデイジーに対し、コリンはじっと静かにその様子を見ている。

 話が長くなりそうだ。コリンと二人で帰ろうかとデイジーに声をかける。


「デイジー。私たちは家に戻るよ。君はどうする?」

「私も帰るわ。みんな、またね」


 デイジーが元気に手を振って子どもたちと別れる。


「いろんな薬が作れるの、楽しみね!」

「ああ、そうだね」


 楽しそうにしているデイジーに返事をしながら、そっと村の子どもたちの方に目を向ける。彼らは遊ぶこともせず、じっとこちらを見ていた。





「ミア、子どもたちを見ていないか?」


 店でコリンと掃除をしていると、村人が焦った様子で顔を出した。


「村の子たちか? 見ていないな」


 そう伝えると、村人は「そうか」と眉を下げた。


「子どもたちがどうしたんだ?」

「みんないなくなっちまって……いつも遊んでいる場所にいないんだ」


 村の子どもたちは十二歳になるまで、村の仕事を手伝わない。そのため、一つの場所に集められて遊んでいる。


「面倒を見ている親はいなかったのか?」

「年長の子どもが面倒を見てくれてたからな。大人は自分たちの仕事をしていた」


 どうやら、大人は子どもの面倒を見ていなかったらしい。


「探すなら私も手伝うが……」


 すると、コリンがミアの服を引いた。


「どうした?」

「森に、いるかも」

「森?」

「みんな、興味深そうにしてた」


 たしかに、子どもたちはデイジーの話を聞いて、森に興味を持った様子だった。コリンの言う通り、森に向かった可能性はある。


「魔獣狩りに参加している村人を呼んでくれ。森に向かう」

「森? そんな危ないところ、どうして……」

「説明はあとだ。探しに行くぞ」


 ミアが剣を手にすると、コリンも弓を手に取った。店を出るミアを見て、村人も慌てて人を呼びに行った。

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