第6話 みんなを助けること(3)
魔獣との戦いは案の定苦戦していた。怪我を治療したばかりの騎士たちがまた怪我を増やしている。
「大丈夫かしら……」
デイジーは不安そうに戦いを見守っている。ミアはその頭をそっと撫でた。
「大丈夫。……必要なら、私が出るさ」
先ほどまで指示だけをしていたアルも剣を振るっていた。だが、魔獣が暴れるからか、近づくこともできない。コリンの矢も、魔獣の皮膚が硬いからか、傷一つ付けることができない。
「くそ……っ!」
アルが魔獣に近づき、剣を振るおうとした。
「団長……!!」
魔獣の目がアルの方に向いた。魔獣のツノがアルに襲い掛かる。
「……仕方ない」
ミアはそう呟くと、トンと地面を蹴って飛び上がった。空中からアルの前に飛び立ち、人差し指をすっと横に動かす。
「ぐがぁぁぉ!!」
魔獣がうめき声をあげる。胴体が大きく切り裂かれたのだ。
「君は丸焼きがお好みか?」
指を鳴らすと、指先から炎が噴き出る。その炎は魔獣を覆いつくした。
「これは……魔法か?」
アルの呟きにミアはニッと笑う。
「ああ、そうだ。魔法だよ。私の魔法が見れるなんて、君たちは運がいい」
見れば、騎士たちは怯えたように後ずさっていた。人のものとは思えぬ光景を見れば、当然だろう。
バレてしまえば、このまま村で生活するのは難しいだろう。さあ、次はどこで隠れて生活しようか。そんなことを考えていると、アルがミアの手を取った。
「お前、かっこいいな!」
「は?」
アルは顔を輝かせてこちらを見ている。想定していなかった反応に、戸惑う。
「強いだろうと噂は聞いていたが、ここまでとは思っていなかった! いやぁ、惚れちまうぜ!」
アルの反応に戸惑っているのはミアだけではなかった。
「団長。そいつ、魔女ですよ……?」
「どうして魔女がいるんだ……」
そんな騎士たちにアルは首をかしげる。
「強くてかっこいいやつに魔女か人間なんて関係あるか? それに、お前たちもその魔女に助けられただろう」
その言葉に騎士たちは何も言い返せない様子だった。アルは考えた様子を見せると、騎士たちに指示をする。
「ここで見たこと、魔女の存在については他に漏らすな」
「は、はいっ!」
騎士たちは敬礼する。それ見てうなずくと、アルはこちらを見た。
「ここにいるやつらは口が堅いやつばかりだ。安心してくれ」
その言葉が本当かどうかはわからなかったが、ミアは納得した振りをする。
「わかった。ありがとう」
もし漏れたのなら、ほかの場所で生活すればいいだけの話だ。大した問題ではないだろう。
再度、デイジーと治療を行い、馬のいるところまで戻ってきた。
行きと同じように馬に乗って村に戻る。村に着いたころには日が完全に傾いていた。
「今日はありがとう。助かったよ」
報酬をもらって、ミアはにんまり笑う。
「ああ、いつでも利用してくれ」
ミアがそうこたえると、アルは手を挙げた。
「ああ、また来る」
そう言って、騎士団は馬を走らせて、村を後にした。
また来る。そう言って去ったアルが店に訪れたのはすぐだった。
「よぉ、ミア」
アルは次の日に顔を出した。生徒たちと店を開く準備をしていたが、その手を止めて、彼の方を見る。
「昨日の今日でどうしたんだ。騎士様はそんなに暇な仕事なのか?」
「いや、仕事は忙しい。だから、仕事の合間を縫ってきたんだ」
仕事の合間を縫ってきたのは本当だろう。彼は鎧を身に着けていた。
「それで、お忙しい騎士様が何の用で?」
「また魔獣狩りが必要になったら、お前のところの子どもを貸してほしい」
どうやら、常連になってくれるようだ。この家も住人が増えたことで、生活費がカツカツだったため、その申し出はありがたい。
「それと……ミア。また会いに来てもいいか?」
「は?」
ミアが首をかしげると、アルが足元に跪いた。ミアの手を取り、こちらを見上げる。
「ミア。お前に惚れた。できれば、お前のことをもっと知りたいし、俺のことも知ってほしい」
デイジーの「きゃあっ」という声が聞こえた。これはミアも想定していなかったことだった。
「私は魔女だぞ。わかっているのか?」
「魔女だとか、人間だとか、そんなのもはどうでもいい。お前は強くてかっこいい。そこに惹かれたんだ」
ミアが魔女だと知っても態度を変えないことに感心していたが、どうやら想像していたよりも精神が図太いことがわかった。
ミアはふっと笑い、口端を上げる。
「私は百歳を超える魔女だ。それをわかっても好意を寄せれるか?」
「百歳だと? その見た目でか?」
年齢を聞けば、さすがに驚いた様子だった。だが、すぐに表情を元に戻す。
「俺は年上が好みだ」
どうにもブレないらしい。どうしたものかと考えていると、ダンがミアとアルの手を引き離した。そして、ミアを背で庇うようにして立つ。
「先生が迷惑しているのがわからないのか」
ダンは警戒した様子でアルを見ている。アルは目を瞬かせると、笑いながら立ち上がった。
「いい番犬だな。恋敵としては申し分ない」
そう言いながら、ダンの頭をわしゃわしゃと撫でる。ダンは嫌そうな顔をして「やめろ」とその手を退けた。
「この後は用事があるんだ。ミア、また来る」
アルは楽しそうに言いながら、店を出ていった。
「まるでおとぎ話のようだったわね!」
「王子様みたいだった」
デイジーとコリンは先ほどの光景のことを楽しそうに話していた。ダンはじとっとした目でこちらを見ている。
「ダン、ありがとう。助かったよ」
お礼を言うと、ダンはツンとそっぽを向いた。
「先生は俺たちの先生なんだ。……あいつには渡さないから」
どうやら、この半年でダンからの信頼は得られているらしい。それが嬉しくて、ダンの頭を優しく撫でる。
「ふふっ、頼りにしているよ」
ダンは恥ずかしいのか、顔を赤らめながらもミアの手を受け入れていた。