第5話 みんなを助けること(2)
アルは言っていた通り、約束した日に顔を出した。戦う準備をしている生徒たちを見て、感心したように息を吐いた。
「本当に戦うんだな」
「ああ。デイジーは応急措置要員だがな」
そう答えると、アルはミアの方を見た。
「君は武器を持たないのか?」
「ダンとコリンが活躍してくれる。必要ならば、私も手を貸そう」
アルは納得していない様子だったが、ひとまずその言葉を信じることにしたらしい。
彼について村の外に出ると、騎士が五人ほどいた。たしかに派遣される騎士にしては人数が少ない。
「団長、その者たちですか?」
その言葉で、アルは団長であることがわかった。どうりで決定権があると思った。
「ああ。手を貸してくれる」
騎士たちは疑わしそうにこちらを見ていた。こんな子どもと女だけを連れて来て、どうするつもりだと言いたいのだろう。だが、団長の決定だからか、文句を言う者は現れない。
「現地には馬に乗っていく。子どもたちを乗せてやってくれ」
騎士たちは指示通り、生徒たちを馬に乗せてやる。ミアの方にアルが手を差しだした。
「馬に乗ったことは?」
「一人でも乗れるくらいだ」
ミアの言葉にアルなニッと笑う。
「そうか」
アルの馬に乗せてもらうと、彼は団員に指示した。
「ここから東の森だ。行くぞ」
討伐に向かうのはトロア村の近くにある森のようだ。やはり、そこは魔獣が多いのだろう。
森に着くと騎士たちは馬を降りた。いつでも戦えるようにするためだ。
森に入るとすぐに魔獣が現れた。ツノが一つのイノシシの魔獣だ。
「コリン!」
ダンが剣を抜いて、魔獣に駆け寄る。コリンは弓を構えて、矢を射る。コリンの矢が魔獣の目に刺さった。混乱して暴れだす魔獣の首を突き刺すように、ダンが剣を振るった。
「はぁっ!」
喉を刺された魔獣は動きを止め、ゆっくりと倒れる。ダンが剣を引き抜くと、騎士たちから「おぉ」と声が上がった。
「やるじゃないか」
アルがダンたちを褒める。どうやら、本当に使えるか試していたらしい。
「ダンもコリンも魔獣狩りに何度も参加している。イノシシの魔獣ならツノ二つまで。ツノ三つの魔獣は二人で協力してなら、倒すことができるだろう」
普通の村人だったら、ツノ一つの魔獣までしか倒せない。だが、二人はそれ以上の魔獣を倒すことができる。
「へぇ、やるじゃないか」
アルは二人の髪をわしゃわしゃと撫でる。コリンは嬉しそうにしていたが、ダンは嫌そうに顔をしかめた。
「先生……」
隣にいたデイジーが不安そうにミアの服を握る。デイジーは魔獣が怖いようで、魔獣狩りに参加したことがない。きっとこの光景も慣れないのだろう。
「大丈夫だ。何かあっても、騎士やダンとコリンが守ってくれるさ」
そう言って、ミアはウインクする。
「それに誰より強い私がいる」
そう言うと、デイジーはほっと顔を緩めた。
魔獣を倒しながら、森の奥に進んでいく。森には想定していた以上に魔獣がいた。それも強いものばかりだった。
「群れで現れたぞ!」
途中、ツノが二つある魔獣の群れが現れたが、騎士たちが力を合わせて倒していく。こういった姿を見ると、やはり専門として戦っている者たちは村人よりもずっと強い。
「はぁぁっ!!!」
ダンやコリンも負けていなかった。ダンが剣を振るい、コリンがサポートするように矢を放つ。コリンはダンほど魔獣狩りに出ていなかったが、感覚はなまっていないようだった。
デイジーは変わらずミアの隣にいた。持ってきた荷物をぎゅっと握り締め、小さく呟く。
「コリンはすごいな。私はお姉ちゃんなのに、何もできない」
デイジーにも戦い方を教えておくべきだったか、とミアは考えた。だが、人には適材適所がある。デイジーが活躍するのはこれからだ。
「今日はここまでにする! 引き返すぞ!」
十分魔獣を倒したのだろう。アルが声をかけると、騎士たちは剣をおさめた。楽々戦っているように見えた騎士たちも、中には怪我をしているものも多くいた。
「デイジー」
ミアはデイジーの背中を押す。
「君の出番だ」
デイジーは目を瞬かせると、ハッとしてうなずく。彼女は騎士の方を見ると、大きな声を出した。
「怪我をしている人は治療します! こちらに来てください!」
デイジーはそう言ってから、カバンの中から包帯がガーゼ、薬品を取り出す。
騎士たちは驚いている様子だった。どうしたものかとお互いに顔を見合わせる。最初にデイジーのもとに来たのはダンだった。
「デイジー。お願いできるか?」
「うん!」
デイジーは手際よくダンの腕に薬品を塗ってガーゼを貼る。その様子を見ていた騎士たちもデイジーの前に列を作った。
「私も手伝おう。一部はこちらに来るように」
ミアも治療に参加する。騎士は五人しかいなかったから、時間はかからなかった。
「すごいな。あの子もやれることがあるのか」
アルの言葉にミアは笑う。
「ああ。私の生徒はすごいだろう?」
治療の途中、褒められたのだろうか。デイジーは嬉しそうに笑っていた。
彼女も守られているだけではない。ちゃんと役立つことができる。それを実感できればいいと思っていた。
「魔獣が現れたぞ!」
騎士の一人が声を上げた。目を向ければ、そこには今までよりも大きなイノシシの魔獣がいる。
「ツノが……四つ!?」
ツノが四つある魔獣は聞いたことがなかった。おそらくここにいる者たちみんな、初めて見るだろう。
「全員、剣をかまえろ!」
相手の強さは予測できない。だが、応戦することに決めたようだ。おそらく、逃げるにもある程度弱らせておく必要があるのだろう。
日が傾きはじめている。撤退するならば、早い方がいいだろう。
騎士たちは全員でその魔獣に攻撃をはじめた。