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第4話 みんなを助けること(1)

 ミアが初めて恋をしたのは、十三歳のころ。幼なじみの男の子だった。

 彼はミアが魔女だと知りながらも優しくしてくれた。ミアはその男の子と付き合うことになった。

 付き合っている間はとても楽しかった。自分らしく振る舞うことのできる相手だった。いつか結婚するのだと疑っていなかった。だが、十六歳になったころ、彼は不慮の事故で亡くなってしまう。

 ミアは受け入れることができなかった。恩師が旅に出ようと誘ってくれなければ、一生悲しみに暮れて過ごすことになっただろう。

 ミアの心の中に彼はずっと残り続けた。

 次の恋をしたのは一国の第一王子だった。ライオネルはミアが魔女だと知ってもとても優しかった。その様子があの彼と重なった。

 ミアはライオネルの彼の話をした。話を聞いたライオネルは涙を流した。そして言ったのだ。


「どうしてだろう……。俺には君が懐かしくて仕方がないんだ」


 あの人の生まれ変わりを探していた。百年間ずっと。だから信じてしまった。

 それからミアはライオネルに好かれるように振る舞った。生まれ変わったからといって、彼が昔のように好いてくれるとは限らない。できるだけ清楚で穏やかな女性を演じた。


「ミア、君は優しい女性だ。きっと昔の俺もそういうところに惹かれたのだろう。……君のことが愛おしくて仕方がないよ」


 ライオネルはミアを受け入れてくれた。またあの人と結ばれる。そう信じていた。

 ……すべてが嘘だとわかったのは、ライオネルと出会って半年が経ったころだった。




 生徒たちと暮らすようになってから、半年が経った。

 ミアの店の扉が開く。それを見てミアはデイジーの方を見た。


「デイジーお客さんだよ」


 薬の棚の在庫管理をしていたデイジーが顔を出す。


「いらっしゃい!」


 店に入ってきたのは馴染みの村人だった。


「デイジーちゃん。子どもが熱を出したのよ。薬をもらえるかしら?」

「わかりました!」


 デイジーは踏み台を運んで、それに乗る。棚の高いところから解熱剤の入った瓶を取り出すと、村人の前へと歩いた。


「こちらになります!」


 そう言って渡すと、村人は表情を緩めた。


「まだ小さいのに、偉いわね。ありがとう」


 お礼を言われて、デイジーが胸を張る。


「勉強してますから!」


 村人は「ふふふっ」と笑うと、料金を払って店を出ていった。

 デイジーはそれを見届けると、ミアの方に駆け寄る。


「先生、次の薬草採取はいつ? 私、早く調合したい!」

「来週くらいだろうか。ミアは本当に薬が好きだね」

「みんなのためになるもの!」


 この半年、生徒たちは様々なことを学んだ。その中で、生徒たちはそれぞれ興味のある分野がはっきりしてきた。

 デイジーはもっぱら薬や薬草について楽しそうに学んでいる。


「先生、また野菜もらったよ」


 デイジーと話していると、コリンが店に顔を出した。彼の両手には籠いっぱいの野菜が入っていた。


「コリンはまた野菜の収穫の手伝いをしてきたのか?」

「うん。一緒に料理もした。あとでおすそ分けしてくれるって」


 コリンは作物や料理について詳しくなっていた。もっとも彼に関しては何にでも興味を示すので、デイジーと一緒に薬品の調合もしたりする。


「ダンは? そろそろ帰ってくるころだろうか」

「ダンは、さっき会ったよ。魔獣狩りと一緒に、ウサギとかも狩ってた。今、捌いてるところ」


 コリンがそう言うと、ちょうど扉が開いた。そこには捌かれた肉を持ったダンがいた。


「先生。お肉もらったよ。コリン、今日の夕食に使ってくれる?」


 ダンの言葉にコリンが目を輝かせてうなずく。今日はコリンが食事を作ってくれるようだ。

 コリンがホクホクした表情で野菜と肉をキッチンに運んでいくのを見届けてから、デイジーと一緒に店仕舞いをはじめる。

 すると、日が暮れてきたにもかかわらず、店の扉が開いた。


「まだやっているか?」


 店に現れたのは見たことのない男だった。二十歳くらいだろうか。黒い髪にグレーの瞳。筋の取った鼻に切れ目をしている。何とも顔立ちの整った男だった。身に着けているものからして騎士だろうか。


「そろそろ店仕舞いの時間だが、急ぎだろうか?」


 ミアの問いかけに男は驚いた顔をした。


「君がここの店主か?」

「そうだよ。気に入らないなら、ほかを当たってくれ」

「いや、仕事ができるなら問題ない。できるだけ急ぎの用だ。話を聞いてくれるか?」

「わかった。じゃあ、そこに座ってくれ」


 店に設置してある木でできた長椅子に座らせる。デイジーが奥からお茶を用意してきてくれた。


「ありがとう」


 騎士はお礼を言って微笑む。デイジーは顔を赤らめてミアの後ろに隠れる。

 ミアはそれを見てくすりと笑うと、男の方を向いた。


「それで、用事とは?」

「この村の近くで魔獣狩りに参加してもらいたい」


 その言葉に眉をひそめる。


「どうして?」

「最近、この国では魔獣が多く現れる。そのため、騎士団もあちこちに討伐に向かっているが、人手が足りない。だから、魔獣狩りに参加できる村人にも声をかけているんだ」


 ここは王の管理している土地の一部だ。トロア村が魔獣に襲われて、村人が亡くなってしまったのは半年前のこと。その話が騎士団の方にまで行って、討伐に来たのはわかる。だが、どうしてミアに声をかけるのだろうか。

 だが、ミアは何でも屋だ。できないことではなければ、断る理由はない。


「いいだろう。だが、条件がある」


 ミアはデイジーの方に目を向ける。


「デイジー。二人を呼んできてくれ」


 彼女はうなずくと、居間の方へと駆けていった。


「うちのは生徒がいてね。その子たちも魔獣狩りに参加させてほしい」


 デイジーに呼ばれ、ダンとコリンが顔を出す。三人を見て、男は眉間にしわを寄せた。


「まだ子どもじゃないか」

「ああ、子どもだ。だから、現地に赴いて体験をしてほしいんだ」


 男は三人をじっと見つめた。そして息を漏らすと首を横に振ろうとした。


「それでも――」

「ダメなら、仕事は引き受けない」


 大きく目を開く男に対して、ミアはニヤッと笑う。


「何の噂を聞いてここに来たのかわからないが、私の生徒たちは優秀だ。きっと君たちの助けになるだろう」


 男は品定めをするように生徒たちを見る。


「……足手まといにならないか?」

「大丈夫だ。私が保証しよう」


 男はふー、と息を吐くと、仕方ないといったように顔を上げた。


「わかった。君の言葉を信じよう。君たちの名前を聞いていいか?」


 話の分かる男だと思った。そして、上に相談せずとも物事を決められる立場の人間だということも。

 生徒たちが各々自己紹介をする。それをうなずいて聞いていた男はこちらにも目を向けた。


「君の名前は?」

「私はミアだ。君の名前も聞いていいだろうか?」


 そう言うと、彼は立ち上がって胸に手を当てた。


「俺の名前は……そうだな、アルだ。よろしく頼む」


 アルは一人ずつに握手を求める。どうやら、生徒たちのことも完全に認めたみたいだった。


「魔獣狩りを行なうのは明後日だ。そのときにはうちの騎士たちも連れ出す。悪いが、準備をしておいてくれ」


 彼はお茶を飲み干すと、デイジーに器を返した。そして、店を出ていく。


「騎士様、かっこいいわね……」


 デイジーは顔を赤らめてにこにこしていた。その呟きにコリンもうなずく。


「強そうだった」


 ダンだけが胡散臭そうに彼が出ていった扉を見ていた。


「何か、嘘ついてそうだったな」


 その考えにはミアも同意だった。村人の手伝いが必要ならば、村長に声をかけるのが普通だ。そして、手伝いのできる者を集める。だが、彼は直接ミアのところに来た。ほかの村人にも声をかけているかも怪しい。


「ひとまず、仕事は仕事だ。騎士団からの依頼ならば、報酬もいいだろう。ダンとコリンは武器の準備をしておいてくれ」


 生徒たちに言うと、ダンとコリンは「はい」と返事をした。

 半年間、しっかり勉強をしてきた子たちだ。ちゃんと準備してくれるだろう。

 デイジーだけが不安そうな顔をしている。


「私、戦えないけれど……」

「ミアは応急措置で使えそうなものを準備してくれ」

「……わかったわ」


 自分だけ留守番していたかったようだ。まだ村を襲われたときの記憶が新しいのだろう。

 ミアはそっとデイジーの頭を撫でる。


「大丈夫だ」


 デイジーは瞳を揺らしながらうなずく。ミアは微笑むと、店を閉じる。そして生徒たちと居間へと向かった。

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