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恋を捨てた魔女は子どもたちの先生になります!  作者: 虎依カケル


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第19話 恋の行く末(2)

「アルヴィン様……。なぜここに」

「私は妹の付き添いで来たまでです。それなのにどうして、我が家の客であったはずのミアがそこにいるのでしょう?」


 ライオネルはギクリと肩を揺らす。だが、彼は笑みを取り繕うと両手を広げた。


「ミアは私に恋焦がれてここまで来てしまったようです。私の役に立ちたいと」


 ミアはライオネルを睨む。だが、彼は悪びれもせずに笑みを浮かべていた。


「そうなのですか。ですが、もちろん断るのでしょう?」

「へ?」


 アルは部屋に足を踏み込むと、ミアの肩を引き寄せる。


「ならば、私がもらってもよいでしょうか?」


 その言葉にミアの顔は赤くなる。アルに触れられて、怒りが落ち着いていくのがわかる。そうなると、ライオネルの行動がとても滑稽に見えてきた。


「だが、ミアは私の役に立ちたいと言うのだ。ならば、彼女の思いを無下にしては……」

「だが、あなたには婚約者がいるでしょう? それにも関わらず、あなたに恋い慕う者を囲うとはどういうことでしょう?」

「それは……」

「ミア。お前はどうしたい?」


 グレーの瞳がまっすぐとこちらを見る。ミアは瞳に応えるようにうなずく。


「私は……この国から出たいと思っています」

「ミア!!!」


 ライオネルが顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。だが、ミアはすました顔で言う。


「婚約者がいるのでしょう、ライオネル様。その方を大切にしなければなりませんよ」

「だが、私は……」

「兄上」


 声をする方に目を向けると、そこには一人の男性が立っていた。ライオネルと似た面差しをしており、セラフィーナをエスコートしている。


「セ、セラフィーナ」


 ライオネルは動揺した表情を浮かべる。セラフィーナはまっすぐライオネルを見ていた。


「ライオネル様。話はすべて聞いております」

「すべてとは……?」

「ミア様のこと。それに我が国の祠についても……」


 ライオネルは大きく目を見開く。


「祠とは……。一体何のことだ」

「とぼけなくてもよいですよ、兄上。セラフィーナ様は本当にすべて知っているのですから」


 男性はライオネルを兄上と呼んでいる。ということはこの国の第二王子だろう。名前は聞いたことがあった。たしかクリンフォードだ。


「兄上はセラフィーナ様の母方の実家に使いの者を忍び込ませていたのですよね? そして、その者に祠を壊させた」

「何を言っている! そんなこと……」

「忍び込んでいた者たちはすでに捕らえられています」


 ライオネルはぐっと唇を噛む。視線を揺らし、どのようにこの場を切り抜けようとしているか考えているようだ。


「ライオネル様。確かに私は国が救いたいと言いました。あなたが魔女の力を借りられるとおっしゃったときは、とてもありがたい気持ちになったのです。……ですが、そもそも国を窮地に追いやったというのでしたら、話は別です」


 セラフィーナは顎を下げて、ライオネルを見る。


「ライオネル様。私たちの婚約は互いの国に利益を与えるものであったはずです。ですが、それが叶わないのでしたら、続ける意味がありません」


 一歩前に出て、ライオネルにはっきりと告げる。


「私たちの婚約は破棄させていただきます」


 ライオネルは肩を震わせる。だが、口からは笑いが漏れていた。


「ははは、何をおっしゃるのですか。私との婚約がなくなれば、国との関係が……」

「何をおっしゃるのです、兄上。私がいるでしょう?」

「は?」


 クリンフォードはセラフィーナの手にそっと触れる。


「他国に害をなす兄上がこのままでいられるわけがありません。しかも、友好関係を築こうとしている相手の国に。ならば、その座を私が得るのは不思議なことではないでしょう」

「何を言っている! 私はこの国の第一王子で……!」

「その地位を自ら手放すようなことをしたと言っているのです。きっと父上が話を聞けば、兄上は皇太子の座から降りることになるでしょう」


 ライオネルは口端をひくひくとさせる。そして、懐に手を入れると、クリンフォードの元に駆けだした。


「ならば、お前が死ねば誰にも取られずに済む!」


 懐からナイフを出し、クリンフォードの胸めがけて刺そうとした。ミアはそれを見るとすぐさま指を鳴らした。

 小さな風が吹き、ライオネルの手元からナイフを奪う。


「何を……!」

「ライオネル。自分の立場がわかっていないようだな。君がクリンフォード殿下を消したところで、目撃者は残る。どうやったって、君の犯した罪は消せないのだよ」

「ミア……っ! 貴様……!!」


 ミアはライオネルの前に歩み出る。


「観念するんだ。君は多くの人々を苦しめた。その罪は償わなければならない」


 クリンフォードが指示すると、控えていた騎士たちがライオネルを拘束した。


「何をする! 私が誰かわかっているのか!」


 ライオネルは騎士に引きずられ、部屋から出ていく。

 ミアはゆっくりと息を吐くと、隣にいるアルを見た。


「話を聞かせてもらおうか」





 クリンフォードに部屋を用意してもらい、アルと二人で話せるようにしてもらった。クリンフォードとセラフィーナは事の顛末を王に話に行くようだ。


「君は最初から私が何者かわかって近づいたのか?」


 アルは初めて会ったとき、迷いもせずにミアに魔獣狩りを依頼した。何者かわかっていない状態で声をかけてきたのだ。村で何でも屋として活動していたからといって、わざわざ女に声をかけないだろう。


「クリンフォードから話を聞いていただけだ。ミアという女性がうちの国に来ているかもしれない。強い女性のため、声をかけてみるといいと。そして、保護してほしいと言われたんだ」

「クリンフォード殿下が?」

「ああ。俺はクリンフォードと仲が良くてな。よく連絡を取り合っていたんだ。あとから聞いた話だが、ライオネルに利用されようとしていたのだろう? クリンフォードはライオネルがしようとしていたことを知っていた。だから、彼はミアに真実を伝えたんだと」


 思い当たることがあった。ライオネルが婚約者の存在を隠していたのなら、ミアに見られないように周りは動くだろう。だが、傍にいたメイドは二人が一緒にいるところを見せ、あまつさえ婚約者だということまで教えてくれた。……おそらくクリンフォードが仕掛けたことなのだろう。


「そういえば、ライオネルの城にいたとき、仕えてくれていたメイドに隣国は美しい国だと教えてもらったんだ。それで私はそこで滞在しようと思ったのだ。……思えばそこから誘導されていたのだな」

「俺としては助かった。国が異常現象に悩まされていたのだからな。ミアが来たのは渡りに船だった」

「私もダンやデイジー、コリンに出会えたんだ。その行動が無駄だったとは思わないよ」


 アルはその言葉に頬を緩める。


「ああ。俺もお前に出会えてよかったと思っている」


 その優しい声にミアは口を閉ざす。彼は優しい目をこちらに向けていた。


「ミア。俺とお前とでは生きる時間が違うだろう。だが、それでも俺はお前と同じ時を一緒に生きたいと思っている。だが、お前は魔女だ。俺よりもずっと長生きをするだろう。俺の方が先に死んでしまう」


 その言葉は恋人であったネイトが言っていたものによく似ていた。


「だが、俺は生きている間、お前を幸せにする。楽しい記憶でいっぱいにする。だから、ミア。俺と一緒に生きてほしい」

「…………」


 ネイトが昔言っていた言葉だ。ずっと一緒に生きるのは難しいから、楽しい思い出を残すと。ふいにミアの目元が熱くなる。アルはそれに気づかず、話を続ける。


「だが、同時にミアには自由でいてほしいとも考えている。選択するのはお前だ。悩むといい」


 ミアは視線を下げて口を開く。


「……私には恋人がいた。大切な人だった。だが、その人は若くして亡くなってしまった」


 アルは静かに話を聞いてくれる。それに甘えて言葉を続ける。


「君もいつ私の元からいなくなってしまうかわからない。それが怖いんだ」

「その相手が早くに亡くなってしまったのは、悲しいことだ。だが、俺が同じようになると考えているのか?」

「ああ、そうだ。……君はその恋人の生まれ変わりなんだ」


 彼の表情が見れなかった。視線を下げていると、アルは落ち着いた声で言う。


「だから、距離を置こうとしたのか?」

「それだけじゃないが……理由の一つだな」


 アルは眉をひそめて立ち上がる。


「冗談じゃない。お前はすぐに他人と俺を重ねたがる。そいつの生まれ変わりだから、何だっていうんだ。そいつと俺は別人だ」

「だが……」

「俺を見ろ、ミア。今、ここにいる俺を見るんだ」


 アルはこちらに来て、ミアの手を取る。


「俺はお前を大切にする」


 顔が熱くなる。アルをまっすぐ見れない。震えそうなのを抑えて、声を出す。


「も、もし君の国に滞在するのであれば、ダンとデイジーに相談しなければならない。私は二人と旅をしているんだ」

「二人は説得しているところだ。デイジーは納得してくれた。あとはダンとお前だけだ」

「だが、私は……」


 頭の中がぐるぐるとしてうまく考えがまとまらない。自分はアルのことをどう思っているのか。今答えを出すことができるのだろうか。


「ひ、ひとまず君の国に戻ろう! 祠を直さなくてはならない。……それからそのあとのことは考える」

「考えてくれるのか?」

「ああ。……私も君のことは……好ましく思っている」


 ミアの言葉にアルは嬉しそうに頬を緩ませて手をぎゅっと握り締めた。


「今はそれだけで十分だ!」


 そう言うと、手に取っていたミアの手に唇を落とす。


「ア、アル……!」

「しばらくは傍にいてくれるのだろう?」

「し、しばらくの間だ」

「なら、その間に先生をしてほしいんだ」


 その言葉にミアは目を瞬かせる。


「先生を?」

「ああ。うちの国には家庭教師はいるが、貴族にしか勉強をさせない。だが、俺は常々平民にも勉強が必要だと思っていた。まずは小さなところからでいい。お前の知識を借りたい」

「私が先生をするのか?」

「得意だろう?」


 ミアは腹に手を当てると、声に出して笑う。


「あははははっ! いいだろう、面白い。考えてみるとしようか」

「いいのか?」

「楽しそうだ」


 そう言って微笑み、ミアは立ち上がる。アルも一緒に立ち上がり、目を合わせた。

 これから先、どうなるかわからない。まだ自分の道を決められない。だが、いつか答えを出すときが来るだろう。


「ではまず、私を待っている生徒たちに会いに行こうか」


 ダンやデイジーが待っている。彼らと話がしたい。

 アルがエスコートするようにミアの手を引く。ミアはアルの手を取りながら、その部屋を出た。


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