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恋を捨てた魔女は子どもたちの先生になります!  作者: 虎依カケル


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第17話 祠(3)

「アル、どうして君が……」


 アルはダンと背中合わせになりながら魔獣を攻撃していく。


「話したいことはたくさんあるが……今はお前たちを助けに来た。それだけだ」


 アルの加勢のおかげで、ダンも戦いやすくなった。動きが良くなったのを見て、ミアはニッと笑う。


「ありがとう、アル。君のおかげで目的が果たせそうだ」


 群れの奥にいる二股の狼に向き合う。手を挙げ、パチンと指を鳴らした。

 火の渦が魔獣たちを襲う。体が焼かれていき、魔獣たちはうめき声を発した。


「……攻撃が派手になった」


 ダンの呟きが聞こえた。ダンの言う通り、なぜか調子がいい。


「すぐに仕留めてみせよう」


 二股の狼を指さし、すっと横に動かす。それと同時に狼の体が横に斬れた。


「まだだ」


 ミアが指を鳴らすと、狼はうめき声をあげて、横に倒れる。それを見た周りの魔獣たちは動揺した様子で周りを見渡しはじめた。


「君たちを逃すわけにはいかない。……悪いが、一緒にやられてくれ」


 ミアは一体ずつ魔法で斬りつけていく。ボスを失った魔獣たちは統率も取れず、倒されていく。

 しばらくして、魔獣たちはすべて倒された。この数をミアたちに処理することはできない。セラフィーナの力を借りることになるだろう。

 ミアは地面に降り立ち、アルたちのもとへ歩く。


「協力してくれてありがとう。無事、魔石を手に入れることができそうだ」


 そしてミアはアルの方を見た。


「それで、君はどうしてここに? なぜ私がここにいることがわかった?」


 アルは愛おしそうな目でミアを見る。


「妹から連絡があったんだ」

「妹?」




 アルの言葉はセラフィーナの館に着いたときにわかった。


「お兄様!」


 セラフィーナはアルを見て、そう言った。彼は笑みを浮かべて手を振る。


「セラフィーナ。元気にしていたか?」

「お兄様こそ……お元気そうでよかったです」


 アルはこちらを向くと、セラフィーナの背に手を置いた。


「紹介する。俺の妹のセラフィーナだ。この国の王女でもある。……ここは俺たちの母方の実家だ」


 それを聞いて、ミアはなるほど、と思った。

 王子がわざわざ水の石を取り行った。もちろん、国民のためだというのはあるだろうが、母方の実家が苦しんでいるとあれば、手を貸すのは当然のことだろう。それに、彼は居場所を知らなかったはずのミアを見つけた。


「セラフィーナ様。あなたは私が誰か知っていたんですね?」


 セラフィーナは眉を下げて笑う。


「お兄様に見つけたら教えて欲しいと言われていたのです。もちろん、祠を直してほしいというのもありましたが、兄が誰かに入れ込むのは初めてですから」


 ミアは仕方なさそうに息を吐く。


「そうか。まあ、いい。祠を直すための素材は手に入れました。明日、修復に当たりましょう」


 ミアの言葉にアルとセラフィーナは顔を輝かせる。


「さすが、ミアだな!」


 内緒で姿を眩ましたにも関わらず、アルは責めることもせずいつも通り接してくれる。……適わない、とミアは思った。





 夜、ミアはデイジーと共に寝る準備をしていた。今日一日だけでいろいろなことがあった。いつもよりも疲れを感じる。早く寝てしまおうと思っていると、扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


 ミアが声をかければ、顔を出したのはセラフィーナだった。


「少し、お話してもよろしいでしょうか?」


 ミアとデイジーは顔を見合わせる。デイジーはうなずき、ミアは入室を促した。


「どうぞ、お入りください」


 セラフィーナはほっとした様子で部屋に入る。椅子に座ると、ミアたちの方を見た。


「お兄様から話を伺っています。……あなたはお兄様の気持ちに応えられないとおっしゃったのですよね」


 事の顛末を知らなかったデイジーが大きく目を見開いている。だが、二人の話を聞くことにしたようだ。すぐに真剣な表情で黙っている。

 ミアは苦笑いをすると、セラフィーナに向き合った。


「私は魔女です。人間と同じ時間を過ごすことはできない。……それに私は恋を捨てたんだ」


 セラフィーナは辛そうに眉を下げる。彼女は小さく笑うと、言った。


「そんな簡単に捨てられるものでしょうか」

「どういうことでしょう?」

「……私も恋を捨てようとしていたのです」


 セラフィーナはそう言うと、目を細めた。


「私はもうすぐ隣国に嫁ぐことになっています。だから、最後にこの領地を救いたくて、ここに滞在していたのです」

「そうなのか」

「その相手とは別に、私には好きな人がいます。ですが、その人と結ばれることはありません。……でも、この気持ちを捨てられずにいるのです」

「その好きな人ってどんな人?」


 デイジーがワクワクした様子で尋ねる。


「その婚約者の弟です。私と同い年で、遊びに行けばいつも歓迎してくれました。ですが、話せるのは少しだけ。私はもともとその国の第一王子と婚約することが決まっていましたから……」

「政略結婚か……」

「国のことを思えば、仕方がないことです。一度は捨てようとしました。でも、この気持ちは私のものです。それは誰にも譲れないのです」


 セラフィーナはそう言うと、ミアの手を取った。


「ミア様。兄のことがどうでもよいというのでしたら、それで構いません。ですが、少しでも気持ちがあるのなら……もう一度、その気持ちに向き合ってくれませんか?」


 セラフィーナはそのあと少し雑談をすると、部屋を出ていった。デイジーは眠さに勝てなくなったのか、彼女がいなくなると同時に寝てしまった。


「どうしたものか」


 ミアは眠れずにベッドに座っていた。ベッドから降り、カーテンを開けて窓から夜空を見上げる。

 恋を捨てると決意した日も、こんな風に星が綺麗な夜だった。恋をしたことによって、視野が狭くなってしまったと考えていた。だが、今は捨てることに囚われて、考えが狭まっているようにも感じる。

 ふう、と息を吐き視線を下げると、そこには剣を振るう人影が見えた。

 窓開けて見下ろすと、音に気付いたのか、その人も顔を上げた。

 そこにいたのはアルだった。彼はこちらに来るように手招く。ミアはそのまま窓から飛び降りた。


「おおっ」


 アルが驚いた声を上げたが、ミアはゆっくりと下降し、地面に降り立った。


「アル、眠れないのか?」

「そっちこそ。この家じゃ落ち着かないか?」

「いや。良くしてもらっているから、居心地いいよ。ありがとう」

「そうか、よかった」


 アルに促され、庭に設置してあるベンチに腰を掛ける。二人で星を眺めていると、アルが口を開いた。


「突然いなくなって、びっくりした」

「ああ、悪かった」

「だが、それと同時に気づいたんだ。ミアは自由なんだと」


 アルがこちらに視線を向ける。


「俺はお前を傍に置くために、不自由な場所にいさせようとした。でも、ミアはそれを望んでいない。……俺がそれを無理強いするのはよくないと考えたんだ」

「なら、どうして私を探した?」

「会いたかったからだ」


 アルが真剣な目でこちらを見る。


「俺から逃げないでくれ。お前にもう会えなくなるくらいなら……傍にいることを望まない。ただ、たまに顔を出して、俺に会いに来てくれ。……俺が望むのはそれだけだ」


 ミアは何も言えなかった。何と答えればよいのかわからなかったからだ。アルの気持ちは本物だ。それが自分に向けられているのは……落ち着かないが嫌じゃなかった。

 この気持ちが何なのかはわからない。すぐに答えを出せるものじゃないだろう。

 ミアはそっと、隣に置かれているアルの手に触れた。


「……ミア?」

「少し、考えさせてくれ」


 何を? とアルは尋ねなかった。ミアの言葉に強くうなずく。


「わかった」




 アルと別れると、ミアは部屋に向かった。静かな館の中でも、物音は聞こえる。きっと起きている者もいるのだろう。

 部屋を出るときと同じように窓から戻ろうとしたら、アルに途中まで送ると言われた。そのため、少し遠回りをしてしまった。

 デイジーを一人にしている。早く戻ろうと少し早めに歩を進める。


「ミア様」


 後ろから声をかけられた。見れば、使用人の姿をした男がいた。


「何だ」

「あなたに来ていただきたい場所があります」


 男は笑みを深める。そしてミアの手首を掴んだ。


「何を……っ」

「私を攻撃せぬよう。あなたの大切な人たちが傷つきますよ」


 やられたと思った。ダンもデイジーも部屋に一人きりで過ごしている。彼らに手を回しているということだろうか。


「……私をいったいどこへ連れていくつもりだ?」


 男は布でミアの視界をふさぐ。


「あなたのことをずっとお探ししていた方のもとですよ。……向かいましょう。ライオネル様のもとへ」

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