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恋を捨てた魔女は子どもたちの先生になります!  作者: 虎依カケル


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第11話 ともにいること(3)

 ダンの言葉にミアは頬を緩める。

 ……生徒から信頼を得られていると考えていたが、これから先も一緒にいたいと言ってくれるとは思っていなかった。

 ミア自身も叶うなら恩師との旅を続けたかった。情を持ってしまえば、離れがたくなってしまうのだろう。


「わかった。村を離れることのなったら、また尋ねよう。そのときにも意見が変わらなければ、一緒に来てくれ」


 ミアがそう言うと、ダンはパァッと顔を輝かせる。年相応の表情に微笑ましく感じる。

 大人に交じって魔獣狩りをしているが、まだ彼は十二歳だ。一緒にいる大人が恋しいのは仕方がないことだ。


「先生、絶対だからな」

「ああ、約束だ」


 相変わらず雨は降り続けている。あたりは真っ暗で歩くのは危険だろう。ミアたちはしばらく雨宿りすることにした。きっと朝まで動くことはできない。

 疲れていたのか、ダンは一緒に喋っている間に眠ってしまった。毛布を床に敷いているが、下は固いだろう。こんなのところで寝れるとは、子どもの順応力はすごいと思う。

 アルたちは無事、村に着くことはできただろうか。三人が暖かい場所で待ってくれていることを願うしかなかった。

 雨は強くなっていく。風も出てきた。雲の隙間が光が放つ。その瞬間、大きな音が響いた。


「おおお……雷か」


 ミアはゆっくり移動すると、ダンの側に座った。耳をふさいで、目を閉じる。

 ……雷は何年経っても得意ではなかった。突然光り、大きな音を響かせる。それが妙に怖くて、落ち着かない。

 じっとしていれば、大丈夫なはずだ。目を閉じていれば、そのまま眠ることができるかもしれない。

 だが、何度も鳴り響く雷のせいで眠ることもできない。どうしようもない不安が胸を占め、ぎゅっと自分の体を抱きしめた。


「――ミア!!」


 名前を呼ばれ、顔を上げる。そこにはずぶぬれのアルが立っていた。


「どうしてここに……」

「デイジーとコリンは預けてきた。それで、お前たちを探しにここへ……」

「わざわざ探しに?」

「不安に思っているといけないと思って……」

「ふっ……あははははっ」


 ミアは思わず笑ってしまう。それ見て、アルは不服そうな表情を浮かべる。


「どうして笑うんだ」

「いや、私は強いからな。こうやって心配されるのが新鮮なんだ」


 自分のことを弱いと侮っている相手には心配されることはよくある。それは仕方がないことだと思っていた。だが、ミアの実力を知ったうえでそうやって心配してくれるのは、とても不思議な感覚だった。


「アル、おいで。服を乾かしてやろう」


 手招きをすると、アルは素直に隣に座った。パチンと指を鳴らせば、濡れた服や髪が乾いてしまう。


「魔法は便利だな」

「ああ、便利だろう? 使えるときは使わなきゃもったいない」


 そう言ったあと、大きな雷の音が響いた。無意識にミアの体が震える。


「どうした」


 アルがこちらを見る。ミアは何でもないというように微笑んでみせる。


「大丈夫だ。気にする……ふぎゃうっ!」


 雷の音に思わず声が出た。アルは驚いた表情をしていたが、次第ににやけ顔になっていく。


「なんだ、雷が怖いのか?」

「ああ、怖いとも。自然というものは魔女よりずっと強いものだ。勝てないものを怯えるのは生き物として当然だろう」


 開き直ってそう言ってやると、アルはミアの手を引いた。体が傾き、アルの胸に抱きしめられる。


「人の肌に触れていれば、少しは落ち着くか?」


 アルは温かかった。人のぬくもりに緊張がほどけていく。


「……ああ、落ち着くな」

「なら、俺の心臓の音でも聞いておけ。気を紛らわすことがくらいできるだろう」


 アルの心臓に耳を寄せると、規律正しい心臓の音が聞こえた。だが、その音は少し早い。


「音が早いな」

「そりゃそうだろ。好きな女と一緒にいるんだ。緊張くらいするさ」


 ゆっくりアルの顔を覗き見れば、その顔は赤かった。


「ふふっ」

「何だ」

「君は冗談でなく、本当に私が好きなんだな」

「ずっとそう言っているだろ。信じていなかったのか?」

「ああ。からかっているんだと思っていた」


 アルはじっとこちらを見ると、ため息を吐いた。


「自分が魅力的だと気づいていないのも考えものだな」


 彼はそう言って、ミアの髪を撫でる。


「ミアは強くてかっこいい。魔法がすごいのも当然だが、強い敵を前にして、堂々と振る舞う様子は正直しびれた」

「強いところが良いのか?」

「それだけじゃない。……ミアが生徒たちに接している様子が好きなんだ」

「子どもたちと?」


 ミアが首をかしげると、アルはうなずく。


「ああ。生徒たちに向ける目線はいつも柔らかい。優しく、温かい眼差しだ。ミアは生徒たちを大切に思っているのが伝わってくるんだ」


 ミアにはそんな自覚はなかった。彼らとは普通に接しているつもりだ。もちろん大切に思っているが、他と態度を変えたつもりはない。


「生徒といっても他人だろう。だが、ミアはいろいろなことを教え、あいつらの成長を見守っている。大切に育てられているあいつらからも信頼を寄せられている。俺が入ることのできない空間だ。たまにお前の生徒に嫉妬してしまうんだ」

「嫉妬?」

「ああ。お前と生徒との関係は特別だ。……俺もお前と特別な関係になりたい」


 アルの瞳は熱を帯びている。それがどうにも落ち着かない。少しずつアルに触れられているところが熱くなっていく。


「……私は、あることをきっかけに恋を捨てた。だから、君とそういった関係になることは難しいだろう」

「好きだったやつがいたのか?」

「いた。だが、もういらないと思ったんだ。判断を狂わせる。私が私でいられなくなる。……そんなもの、私には……」

「だが、いらないと思ったのは、その相手との恋だろう?」

「どういうことだ?」

「好きだったというそいつとミアとの関係はお前たち二人のものだ。それはそれで妬いちまうが……俺とお前との関係とは別物だ。同じ結果になるとは限らない」


 アルの表情は真剣だった。請うような目をしている。欲しいと思われているのがわかり、身が震える。心臓が落ち着かなくなる。


「それはそうだが、私は……」

「俺とのことを考えてくれ、ミア。お前が同じように思ってくれるまで、待つから」


 アルはぎゅっと抱きしめてくれる。ミアが黙ると、彼も黙った。

 気づけば雷の音が気にならなくなっていた。アルの心音と自分の心音が混ざり合う。

 寒い日だったのに、熱くて仕方がなかった。


 しばらくすると、雲の隙間から青空が見えた。光が差し込み朝日を感じる。

 ミアはアルから離れると、ダンを起こした。眠そうな目をこすると、アルの姿を見つけ、嫌そうな顔をした。


「どうしてアルがいるんだ」

「私とダンを助けに来てくれたんだ」

「……俺と先生だけで十分だった」

「たしかにそうだが……私は助かったぞ」


 ミアの言葉にダンは首をかしげる。アルは笑うと、ミアの頭を撫でた。


「素直なのもいいな」


 不意に顔が赤くなる。それを見て、アルは嬉しそうに笑った。

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