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焦土

揺籃の世界  第2話 焦土


光が収まり、辺りは闇に包まれた。

僕はじっとしていられず、その場を駆け出す。

荒い息が胸から溢れ、ハァハァと音を立てていた。


荷物も放ったまま、丘の上から駆け降りる。

何が起きたのか、確かめたくてたまらなかった。


しばらく走った後、足が止まった。

かつて街があった場所は、黒く焦げた大地だけが広がっている。

硝煙のような匂いはかすかに残っているが、空気は重く淀んでいる。

逃げた形跡も、死体のひとつもない。

全てが一瞬で焼き尽くされたのだと、直感した。


「みんな、死んだのか……。」


その言葉とともに、全身の力が抜け、僕はその場に座り込んだ。

胸を締め付ける恐怖が心を満たす。

偶然にも、僕は街にも鉱山にもいなかった。

けれど、少しでもタイミングがずれていたら。


胸を締め付ける恐怖が、全身を覆い尽くす。

それと同時に、ぽつりと零れた思いもあった。


「僕はあの地獄から、解放されたんだ……。」


恐怖と安堵、居場所を失った不安が入り混じり、感情の波が押し寄せる。

大地の焦げた臭いすら感じられないほど、僕は混乱の渦に飲み込まれていた。


「……おいおい、ひどい有様だな、こりゃ。」


背後から突然、声がした。

驚いて振り返ると、二人の影があった。

涙でぼやける視界をこすりながら、僕は問いかける。


「だ、誰だよ、あんたたち……?」


見知らぬ二人組。

一人は、すらりとした体格ながら圧倒的な筋肉を誇る大柄な女性。

背は180センチはゆうに超え、190もあるかもしれない。

こんなに大きな女性は、初めて見た。


もう一人は、僕と同じか少し背が低く、150センチ前後だろう。

フードを深くかぶった外套姿で、性別すら判別できない。


「この様子だと、生き残りはお前だけか?聞きたいことがある。」


大柄な女性が男のような低い声で言った。

小柄な方は大柄な女性の後ろに隠れている。


僕は頭の中の疑問を一気にぶつけた。


「聞きたいのは僕の方だ。あの光は一体なんだ?見たことも聞いたこともない。そっちは驚いていないし、何か知っているんだろ?僕はこれからどうすればいい?住む場所も仲間もない。奴隷の僕にできることなんて、何もない。技術も知識もなくて、このまま死ぬしかないのか……うっ……。」


言葉が止まらず、吐きそうになる。

感情に押し流されてしまった。


「ちょ、ちょっと待て、一回落ち着けよ。深呼吸してみろ。」


大柄な女性が促す。

僕は何度か深呼吸を繰り返し、やっと落ち着いた。


「……ごめん。」


「いいんだ、動揺して当然だ。今まで住んでいた街が、目の前で消えちまったんだからな。」


その言葉を聞いて、僕はドキッとした。

正確には、街には住んでいなかった。

奴隷は鉱山の詰め所で寝泊まりしていたのだ。


恐る恐る口を開く。


「……僕は街には住んでない。奴隷だから。」


奴隷は人ではなく、物扱いされる。

その現実が、僕を震えさせた。


「そうか……大変だったな。名前は?呼びづらいから教えてくれ。俺はララヌイだ。こっちはミアだ。」


ララヌイはそう言った。

僕は一瞬言葉を失った。

彼女は僕が奴隷だということを気にしていないのだ。


奴隷はどこに行っても疎まれ、蔑まれる。

今までのどの場所でもそうだった。


「僕は奴隷だ。名前なんてない。鉱山で呼ばれていたのは133番、それだけだ。」


「酷いな……じゃあ、俺が名前をつけてやるよ。」


ララヌイは眉をひそめた後、星空を見上げ、そして僕を見た。


「お前の名前は“エトワ”。古い言葉で“星”の意味だ。どうだ?」


エトワ。

なぜかしっくりきた。

番号よりずっといい名前だと思った。


「わかった。これからはエトワと名乗るよ。名前をくれてありがとう。でも、今はもっと聞きたいことが……」


「わかった。答えてやる。でもそろそろここを離れる。"アレ"が来るからな。」


「え、アレって何……うわ!」


突然、ララヌイに担がれ、街から離れていく。

ララヌイは見た目通りの力強さで、軽々と走っていた。


ズオオォォォォ……


雲が割れ、黒い塊が現れた。

何かが蠢き、雲を掻き消していく。


それは、地面に近づき姿を現した。


蛇のような生物の集合体。

一匹でも家を飲み込むほどの大きさだ。

黒く焦げた大地に吸い寄せられている。


かなり遠くまで連れられた後、その生物たちは地面に到達した。

バリッ、ゴリッという轟音が響く。


「地面を食べているのか……!?」


えぐられるような音は数十分続き、やがて止んだ。

黒かった大地は深く凹み、もう焦げ跡は見当たらない。

何も残らなかった。


驚きすぎて逆に冷静になった僕は、二人に顔を向けた。


「頼む、教えてくれ。あれは一体なんだ、ララヌイ。」


ララヌイは眉間に皺を寄せ、ゆっくり口を開いた。


「……あの光の柱は『極光』。

空からの黒い塊は『地喰らい』。

そう呼ばれている。」


その言葉には、重い覚悟が込められていた。

読んでいただきありがとうございました。

また読んでね。

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