極光
……ドクン、ドクン。
心臓の鼓動が響く。
天から降り注ぐ光に、僕は思わず見惚れていた。
どうしてこうなったんだろう。
何もわからない。
ただ一つ、はっきりしていることがある。
僕は解放されたのだ。
あの地獄から――。
〜〜〜〜〜〜〜〜
数時間前。
ここはとある鉱山。雨が降っている。
地面はぬかるみ、足場は悪い。
そんな中、僕は素手で大きな岩を運んでいる。
奴隷である僕の仕事だから。
「痛っ……。」
素足に小さな石が突き刺さる。
痛みとぬかるみで、僕は転んだ。
持っていた岩が地面に落ちる。
幸い、怪我はないようだ。
「133番!何してんだ、さっさと運べ!」
「……すみません。」
「ちっ、このクソガキが。さっさと立って歩け!」
地べたにうずくまる僕を見下ろす男。
彼はこの鉱山の奴隷たちをまとめる奴隷の一人だ。
そう、彼も奴隷でありながら、なぜか上下関係ができている。
僕は立ち上がり、岩を担いで歩き出す。
他の奴隷は少し先へ行ってしまった。
追いつくため、少し早足になる。
先を行く奴隷たちの背中が濁って見えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「使ってた工具が壊れちまった。この金で街へ工具を買いに行け。」
「わかりました。」
岩運びを終え、次の仕事は工具の調達だ。
力が強い僕は、最年少ながら力仕事を任されることが多い。
噂では、僕が来てから事業が大きく進んだらしい。
そのせいか、奴隷主には気に入られている。
「おっ、そうだ。」
奴隷主は僕をじっと見つめ、思いついたように言った。
「仕事が終わったら俺の部屋に来い。」
「?」
「特別な夜の仕事がある。心配するな、優しくしてやるからな。」
下卑た笑みを浮かべる奴隷主。
……本当に気に入られているらしい。
最悪なことに。
僕は急ぎ足で奴隷主の元を去った。
気持ち悪くて。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おい、133番!」
街へ向かう途中、突然他の奴隷に呼び止められた。
小さくため息をつき、そちらへ向く。
「ガキが。奴隷主に気に入られて楽な仕事ばかりだ。贔屓されてんな。」
「……。」
実際は、他より酷な仕事ばかりだ。
背が低く、ひ弱な僕は奴隷たちの八つ当たりの標的になっている。
反抗すれば死に直結する。
バキッ!
顔を殴られた。
いつものことだ。
体の痛みには慣れてしまった。
「痛がりもしねぇ。調子に乗るなよ、わかったな。」
「……はい、すみませんでした。」
殴られ、いつのまにか地面に腰を下ろしていた。
去っていく男の背中を見て立ち上がる。
痛くないはずの頬をさすりながら街へ進んだ。
街の工具店に着く。
奴隷主から頼まれた工具を注文する。
店主は僕を見るとすぐに品物を持ってきた。
工具を受け取り、出口へ向かう。
「まいどあり。」
何度目かの来店で初めての挨拶だった。
「……どうも。」
思わず振り返り、会釈して店を出る。
外はもう暗くなりかけていた。
(まともに言葉を交わしたのはいつぶりだろう。)
それほどこの街で奴隷は酷く扱われている。
店主にとっては業務的な言葉かもしれないが、僕は複雑な気持ちだった。
「……帰る前にあそこへ行こう。」
僕の唯一の楽しみ。
帰り道の丘で星空を見ることだ。
お気に入りの場所。
丘に着くと定位置に腰を下ろす。
同時にため息が出た。
肉体的にも精神的にもキツい日々だ。
ここに流れ着いて三年。
物心ついた頃には親はいなかった。
なぜか腕力だけはあった僕は奴隷としてたらい回しにされ、
ここに辿り着いた。
夢も希望も考える暇などなく、友達もいない。
「……いや、一人だけいたっけな。」
そこで思考を止め、淡く光る星を見上げる。
重い腰を上げる決心をした。
膝に手を置き、力を入れようとしたその時――。
白く眩い閃光が辺りを走る。
すぐに空気を裂くような音が響いた。
「なっ!?」
強烈な光に目を逸らす。
立とうとした足に力が入らず、腰を抜かす。
「くっ、そ……。」
眩しすぎて状況が分からない。
やがて目が光に慣れ、ゆっくり前を見ると――。
巨大な光の柱があった。
虹色に輝く螺旋状の光を放ち、街や鉱山を覆っている。
「綺麗だ……。」
耳を澄ますと、ゴオォという風を切る音がする。
圧倒的な光景に、僕は呆然と見つめるしかなかった。
〜〜〜
どれほどの時間が過ぎたのだろう。
数時間か、数分か、あるいは一瞬の出来事かもしれない。
光の柱は天へ昇るように消えた。
その後に広がったのは――。
「嘘、だろ……。」
建物も山もない、真っ黒な大地だった。
読んでいただきありがとうございます。
一週間に1話ずつ更新する予定です。
拙い文章ですが、また読んでいただけると嬉しいです。