#15 どこに行こうか
は~い、私こそが上野だよ。前回、みんなでどこに行こうかという話になったけど、そこでホームルームの時間が来ちゃったので昼休みに話そうということになったんだ。みんなそれぞれ行きたいところが違うみたいで、面白い展開が期待できるねぇ。
昼休みになってみんなが話し合いを始めた。参加者は、藤井、賽瓦、山田。あと、聞き耳を立てているのが江野畑。なんで江野畑が聞き耳を立てているかわかるかって?それはねぇ、一見彼女はただ自分の席で音楽を聴いているだけに見えるけど、イヤホンをよ~く見ると電源が入ってないから!自分から一緒に遊びたいとか言い出せないんだろうね。かわいいね。
「それで、みんなはどこに行きたい?俺は、川に行きたいな!最近暑くなってきたし泳ぎたい」
山田がそう話す。だが、反応はあまりない。
みんな、そういう感じで遊びに行きたいんじゃないんだろうねぇ。あと、純粋に蚊とか虫が多いところ無理なんでしょ。私も無理だし。
「やだ!ああいう虫が多くて日焼けしそうなところ嫌い!行きたくない!」
お、藤井が口を開いた。相変わらず感想を正直に言うね。嫌いじゃないけど、人を選んで言ったほうがいいよそれ。
「...私も藤井と同じ意見。そういうのじゃなくて、もっと買い物とかしたい」
後から賽瓦が賛成してきた。
なるほど~...そういう感じね。誰かの意見に乗ることで嫌われにくくするっていう高等テクニックか。覚えておこう。
「二人は反対か...だが、まだ可能性はある!上野!お前は賛成だよな!?」
暑苦しく山田がこっちを見ながら聞く。
沈黙を貫いていようと思ったが仕方ない。指名されたなら答えるかぁ。
「そうだね。私も基本的には二人と同じかな。だって、ほら、虫とか日焼けとか嫌じゃん?それに、暑くなってきたと言っても川の水温はまだ冷たいよ。だから、そういう整備されていない川に行くのは嫌かな。でも、水辺に行きたいってことなら、温水プールとか行ってもいいよ」
山田も女子の水着姿とか見たいだろうし、という本音は言わないでおいてあげた。男子は、水着の女子に目を奪われる生き物なんだから。去年だって、田中の水着姿をみんな褒めてたし。半分はかわいいというよりも、いつもよりすごい魅力的って意味で。...でも、いつも一緒にいる鈴木はあんまり褒めてなかったなぁ。というより、褒めてる男子をすごい嫌な目で見てたような?...また今度考えてみよう。
「というわけで、4人中3人が却下したから川はなしね。次に進みましょう」
山田は燃え尽き、賽瓦が進める。
「私の行きたい場所は、県下最大級のゲームセンター!なんと、古のアーケードゲームから、最新の体感型VR体験施設も入ってるから何でも遊び放題!値段はちょっとお高いけど、みんなで割り勘すれば何とかなるから絶対に行こう!」
途中から興奮して早口になっていたが、言いたいことは分かった。ただ、一つだけ疑問がある。
「質問です!お高いっていくらぐらいですか!」
藤井が先に質問してくれた。それに対して、賽瓦は少し下を向きながら小さい声で、
「一日遊ぶとなると...VRがあれぐらいで、メダルが一人3000枚として...大体1万円ぐらい?」
恥ずかしそうにそう話す賽瓦。うん、無理。
「無理に決まってるだろ!そんな金ねぇよ!せめてメダルゲームかVRのどっちかだけにしようぜ」
山田が叫ぶ。
「そう?私は大丈夫だよ」
ブルジョアな藤井が反論する。
「いや、それはあなたの家が金持ちだからであって、普通の庶民の学生にはちょっと値段が高いんだよ?その、うん、これを簡単に出せるぐらいお小遣いくれる親に感謝したほうがいいと思う。あと、仲良くない友達の前でそういうお金のことあんまり言わないほうがいいよ。っていうか仲良くても言わないほうがいいね」
私がそう藤井に忠告する。
「あぁもう、うるさい!わかったよ!みんなで行くっていうからここがいいと思ったけど、やめとく!」
賽瓦が不機嫌になり、机に顔を埋めた。まるで、アルマジロのように。
仕方ない。万策尽きたようなので、私がみんなの納得のいく場所を提案してあげよう。こんなこともあろうかと、考えておいたとっておきの秘策!
「じゃあ、次は私ね。私は、最近できた大型アウトレットモールがいいと思います!あそこなら、大抵の店はあるし、ゲームセンターも近くにプールもある!全員の要望がかなえられるから、みんなで出かけるのに最適でしょう!」
全員がOh~~と言いたげな表情でこちらを見てくる。勝った!例えようもなく圧勝した!
「私の意見に反対の人はいる?」
誰もいなかった。いや~、全員が満足できる場所を提案できたようでなにより!
「じゃあ、アウトレットモールで決定ね。日程は後で送るから」
みんなが自分の席に戻っていく。今度の休みが楽しみだ。
「だってさ、江野畑。お前も行くだろ?」
山田が江野畑に話しかけている。江野畑はちょっとビクッと驚いた後に、平静を装いつつ返事をする。
「え?えぇっと、何の話?私、ずっと音楽聞いてたから、あなたたちがどこに行くかなんて知らないんだけど...」
何も知らないふりをする江野畑。
でも、その返事で聞いてたのがわかるんだよね。
「嘘つけお前。ずっと、イヤホンの電源ついてないじゃん。それに、俺一人しかお前に話しかけてないのに、なんで”あなたたち”ってわかるんだよ」
あ、江野畑が悔しそうな顔してる!誤魔化せると思ってたんだ、あれで…
「うるさいねぇ!あんたはいっつも!別に私は行かなくてもいいんでしょ!あんたたちで勝手に行ってきたら!?」
言いながら江野畑はイヤホンの電源を入れた。完全に逆切れしてる...これじゃあもう一緒に行かないんじゃないの?
「まあ落ち着けって。あそこのアウトレットモールにはたくさん食べ物屋があるし、可愛い犬がいる店もある。ちょっとだけならおごってやるから、一緒に来いよ」
江野畑がイヤホンの電源を切って、山田の話を聞く体制になる。
「...それなら、一緒に行ってあげてもいいけど。でも、そこまでする理由って何?あんたが損するだけじゃん」
確かに、山田が損をするだけのように見えるが...多分、山田はもっと価値のあるものが欲しいんだろう。
「実は俺も、犬がたくさんいる店に行きたいんだけど、あそこってほとんど女性かカップルしかいないから、男一人で入りづらいんだよ。だから、お前も来てくれ」
...絶句する江野畑と私。えぇ~...そんな理由?山田らしいといえばらしいけど…
「ハハハッ!あんた、本当にバカとしか言えないねぇ!いいね、そういう理由なら付き合ってあげる...その店の中で掛かったお金はあんたが払ってね。」
山田はへいへいと返す。ちょっと予想外の展開だったが、これで楽しめる人数が増えた。
「はぁ~、あんたって本当バカなんだね。そういうところ、抜けてていいよ」
笑いながら江野畑が独り言をつぶやく。
なんだかんだ相性悪くないんだろうなと思っていたら、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。