8、ボーナス確定
☆
俺達は教室に戻ってからそれぞれの椅子に腰掛けた。
そしてホームルームを迎える。
その中で俺は...静かに智和と出会った頃を思い出していた。
確かに彼は。
智和は悪いのかもしれないがあの状況下では...、と思う。
だとすればやはり智和に非は無い。
「...」
「おーい。仁?」
「お、おう!?」
「ホームルーム終わったぞ?」
「あ、ああ。マジか。いつの間に」
「いやいや。ぼーっとし過ぎだろお前。5分前に終わってんぞ」
今日は終了の挨拶無しに終わったんだな。
適当だなあの教師。
俺はそう思いながら外を見る。
すると「もしかして俺の事を考えていたのか?えっち」と智和の声がした。
「気持ち悪いんだよお前...」
「ははは。...つーか俺の事なんぞどうでも良いっての。...割とマジに」
「...だがお前。悔しく無いのか?こんな目に...」
「逆に悔しがって俺の人生変わるか?...変わらんだろ?なら意味無いしな」
「...」
俺は静かに智和を見る。
すると智和は「飲み物買いに行こうぜ」とニコッとする。
その言葉に俺は「...ああ」と返事をしながら智和と一緒に立ち上がってからそのまま自販機の前に行く。
それから飲み物を購入しようとした。
自販機に100円玉を入れようとしたのだが智和が先に入れた。
「奢りだ」
「珍しいな。ケチくさいお前が」
「あぁ?殺すぞ?」
「...冗談だ。感謝している」
「そうだろ。敬え」
「偉そうにすんな」
それから俺は甘ったるい缶コーヒーを奢ってもらう。
マッスクという練乳入りのクソ甘いコーヒー。
血管でも切れそうだが。
今はこのぐらいの甘さが身に染みてちょうど良い。
「落ち着いたか。糖分不足していたろ」
「いや。それは無いが...まあ感謝してる」
「何だよ。違うのかよ。心配して損したぜ」
「オイ」
「つーか俺もキレやすくなっていたから糖分不足かなって」
「いや。お前の場合は...」
「まあどうでも良いんだよな。俺の事は」
そして苦笑してから同じ缶コーヒーを飲んだ智和。
俺はその姿を見ながら「...」となる。
すると智和は「しかし勿体ないねぇ」と声を発した。
「お前を捨てるなんざよっぽど見る目が無いな」
「...それはつまり山﨑の事か」
「そうだな。...つーかそれしかない」
「...確かにな。...アイツ股を使ったみたいだしな」
「ゴミクズ、オンザ、ゴミクズだな」
「...ロクデナシは初めからロクデナシって事だ」
「...そうだな」
智和は空を見上げる。
それから「10億ぐらい降ってこないかな」と呟いた。
俺は「?」となりながら智和を見る。
智和はボーッと空を見上げる。
「いやなんの。面白みの無い空だしな」
「...両◯勘◯か?お前の世界観の見方は」
「だってお前。...同じ太陽が登って雲が出るだけだぞ。面白みが無い。それに将来、働きたくねぇ」
「まるでゴミクズだな。お前の考え」
「ははは」
そんな智和は大声で笑いながらまた空を見上げる。
見上げたままの智和に聞いた。
「お前、将来の夢とかあるのか」
「あ?俺?...俺は...リーマンかな」
「何だそりゃ」
「サラリーマンだっつーの。厚生年金?とかいうのもあるし?」
「...それどんな職業でもあるくねぇか?」
「そうなの?」
「知らん。俺はサラリーマンというか...」
「そういやお前の将来は?」
「俺?...俺は何も考えてねぇな。...今を生きるので精一杯だ」
「勿体ない。...それに奥さんというボーナス確定なんだから何とかせぇよ」
「誰だよ。奥さんって。裏切られたのにか?」
「ちげーよそっちじゃねぇ」と智和は額に手を添える。
それから智和は「お前には七瀬たんという愛すべき嫁が居るだろ」と言う。
そういう関係じゃないって言っているんだがコイツ。
思いながら俺は苦笑いで缶コーヒーを揺らす。
「お前な。そういう関係じゃないって言ってんだろ」
「あ?そうなの?だけど七瀬たんってどう考えてもお前を推しているだろ」
「推している...イヤ。ねぇよ。七瀬は...あくまで」
「...うーん」
智和は缶コーヒーの空き缶を捨てる。
それから思いっきり伸びをした。
そして俺を見てから膝に頬杖をつく。
「しかし関係性はマジに鬼アツだと思うけどな」
「いやオイ。鬼圧って何だ」
「あ?しらねぇの?激アツって事だよ。...図柄が777で揃うぞ」
「お前...スロットでもしてんの?」
「俺の兄がなぁ...結構ギャンブル好きでね」
「ヤベェだろそれ。全て滅ぶぞ」
「借金は無いし身を滅ぼして無いから大丈夫だ。たまにしか行かねぇし。ギャンブル依存じゃ無いんだがねぇ。だけど家ではギャンブルのシュミレーターばっかだ」
「...やれやれだな」
俺は智和を見る。
智和は苦笑しながら背後に寝っ転がった。
それから空を見上げる。
そして「マジに働くってのは...イメージが湧かんわ」と言う。
「...あと彼女を作るってのもな」
「...そうか」
「正直、俺はお前を応援したいんだわ。七瀬たんとは上手くいくと思っているしな」
「...」
「頑張れ」
「...ったく」
そして俺は時計を見る。
時計の針は予鈴の1分前を指している。
いや...結構マズイんだが。
そう思いながら「智和。戻らないと。数学の教師は厳しいだろ」と言う。
「ああ。お前だけ教室に戻ってくれ。眠い」
「...?」
「俺はちょっと考えに浸りたい」
「アホかお前は。なら俺もサボる」
「お前な...ったく。最高かよ」
「いや全部お前のせいだけどな」
そして俺達は予鈴の音を聞く。
だがまだ教室には帰らなかった。
少しだけサボっていくか。
そういう話をしながら...俺達はのんびり空を見上げた。