1、堕ちた幼馴染と堕ちた後輩
この世界を丸ごとぶっ壊したくなったのだが。
一体何故、俺はこんな思いを抱かなくてはならないのか?
そう思いながら俺は傘に濡れていた。
俺、長谷仁は...目の前の勇人...じゃないな。
もう一宮と呼ぼう。
俺はただひたすらに強い怒りと共に雨にずぶ濡れになっていく。
心もずぶ濡れになっていく。
幼馴染の山﨑雪香。
現彼女のその女と俺の後輩で愛でていた一宮勇人。
ラブホから出て来たその2人を見ながら俺は静かに歯軋りをする。
ラブラブの愛愛傘のせいで俺に気付いてない様だ。
クソッタレすぎる。
何かその姿はハイになっている様にも見える。
完全な浮気に近い形だった。
ラブホから出て来たのは偶然か?
俺を裏切った、という事は確かだろうが幾ら何でもタイミングが良すぎるだろ。
何れにせよ最悪の気分だ。
最悪すぎて全てが終われば良いと思う気分だ。
雨に濡れたい気分だ。
まあ今濡れているけど...もっと濡れたい。
「いやはやマジに何なんだ」
まあでも丁度良かったかもな。
余計な全てのモヤの夢から醒めれた。
それに違和感を最近感じていたし...これでハッキリしたわ。
考えながら幼馴染の誕生日に渡そうと思っていた誕生日プレゼントを思いっきり雨の中で踏み潰した。
それから踵を返した。
俺は帰る事にする。
涙がスッと頬を伝う。
とは言ってもまあ涙なのか分からないが。
泣いているのかも分からない。
泣いている様な感じはするが本当にどっちか分からない。
俺は泣いているのか?
どっちなんだ。
幼馴染が汚らわしいからか?
「...」
雨の中、傘も忘れ歩いて帰る俺に次に沸いた感情は幼馴染を心から、ぶっ殺したい、という感情だった。
しかしまあそんな事を実際にすれば犯罪だからしないが。
親に心配をかける訳にはいかない。
でも怒りが沸々と湧いてくる。
お湯が湧き上がる様な。
別れてからイチャイチャとかセックスなりすりゃ良いものを.....後味の悪い事をしやがって。
ああめちゃ腹立つ。
「...はぁ...」
もう絶対に二度と恋はしない事にするつもりで覚悟を決めてから雨雲を見る。
全てにおいて絶望しかない気分である。
恋がこれほど苦痛だとは思わなかったんだが。
そしてこんな儚いものだとは思わなかった。
異常事態だ。
「喜ばそうと思ったのが本当に無駄足だったな...クソがクソが!!!!!」
地団駄を踏む。
天候は俺の心を見透かした様に土砂降りになってきた。
滅茶苦茶な大雨である。
幼馴染達は俺を見られたと思わないまま何処に行く気か...って。
何かそんなのは知った事ではないが...腹が立って仕方が無いんだわ。
ああ汚らわしい。
何というか傘を衝撃で置いてきてしまったのが後悔だ。
そして、高いんだけどなあの傘、とか思ったが。
今はそんな事は薄っぺらいものだ。
このボロクソの感情をどうしたら良いのだ。
☆
「...そんな事ってあるんだね」
「そうだな」
初め妹は俺に対して心配げな感情だった。
そんな異変を察していた妹に全てを話した。
すると八鹿は唖然とした。
高一の俺の妹である八鹿。
美少女、成績優秀の妹。
取り敢えず頭の回転だけは良い律儀な妹だが...静かに怒りを募らせた様だった。
涙を浮かべている。
悔し涙だろうけど...だ。
その涙を見てから俺は盛大に溜息を吐いて玄関際に腰掛けた。
頭を振るって目の前に真珠の様な大粒の水滴を落とす。
何を考えているんだ幼馴染...アイツは一体。
クソッタレすぎる。
そして俺は何をしてきたんだ?
何で全てを見抜けなかったんだ?
幼馴染がこんな二股って事を、だ。
とにかく...頭にきて仕方が無い。
「...お兄ちゃん...」
「いやはやこれはラノベで言えばNTRだな...まさかリアルで本当に起こるとは思わなかったが。ははは」
「お兄ちゃん。落ち着いて...酷いよね...」
時計の針の音が響く。
八鹿は言いながらギリッと歯を食いしばってから俺を見る。
俺は溜息を盛大に吐き出してから足の部分。
ズボンとか見る。
制服...明日も着ていかないといけないのに全てが泥と水まみれだわ。
本当に憎いとしか言いようがないな。
最悪としか言いようがない。
夏なのに雨が凍てつく寒さの...冷たく感じるし。
限りない怒りが俺を包んでいる。
このまま洗濯するなら俺の感情も洗濯出来ないだろうか?
思いながら俺は頬を抓った。
夢であってほしかった。
絶望した。
顔をバシッと叩いても現実のみだった。
あまりの...無感情だった。
そして呟く。
「いや。本当の本当に俺は何をしてきたんだろうな」
そんな呟きが思いっきり口から漏れる。
まるで何かが排出される様に。
そして俺は涙を浮かべて静かにその場で泣き始める。
心にマジに傷が付いた。
せめてもの救いは全ての奴らが一緒のクラスとかじゃなかった点か。
それ以外は...何があるのだ。
考えれない。
「お兄ちゃん。タオル持って来る」
そして妹は慌てて去る。
俺はバシッと壁を殴った。
そんなに力が有る訳ではないので当然傷も入らない。
だが血に滲む拳を見る。
いや本当に死ねよ幼馴染。
本格的に愕然としか言いようがないわ。
そう思っていると妹がタオルを持って来た。
ゆっくり顔を上げる俺。
そして妹を見る。
「お兄ちゃん。落ち着こう」
現実に少しだけ戻った気がした。
そして妹を見る。
妹は俺を静かにゆっくり見てくる。
俺はその姿に、...すまない、と返事をする。
それから八鹿は俺を抱きしめた。
「お兄ちゃん。今はご飯食べよう」
「...八鹿...」
「私は怒りしかないけど...だけど今はもう何も考えないでおこう」
「...」
長谷八鹿
この名前の意味。
8つの鹿という意味がある。
どういう意味なのかというと神様の使いが8つ。
そして中国では八は縁起が良い。
だからそれらを組み合わされているのだ。
八鹿は本当に心優しい。
こんな感じで、だ。
いつでも俺の味方だ。
俺はその姿を見ながら鼻水を啜ってから膝を叩いた。
それから立ち上がる。
そして八鹿を見る。
ゆっくり玄関を上がって着替える事にしよう。
八鹿はニコッとした。
「少し落ち着いた?」
「まあ、うん」
「取り敢えず今は明日の事を考えるだけで良いんじゃないかな。お兄ちゃん」
「そうだな...うん。そうしよう」
そして俺は愛情の籠ったオムライスをいっぱい作ってもらいそれを食べた。
それからそのまま夜を迎え起きてから登校する。
幼馴染に会わない様にする為に全ての時間をずらした。
彼氏なのに何でこんな事をしなくてはならないのだ。
最悪×最悪の方程式でも生み出せそうだな。
掛け算でも割り算でも良いけど。