5話
-最終話-
伶峰が、抱きついてきたときに心臓が止まるのかと思うくらい驚いてしまった。
伶峰と初めて会った時から何か、彼女に惹かれていた。
ほっとけなくて家に連れてきて、それから引取り手も見つかって
ああ、この子はもうこれで一人じゃなくなるって安心したのに、その子の父親を殺してしまったのは俺だ。
どんな風に償えばいいのか、どんな風に生きていけばいいのか、分からなくて
もういっそ、死んでしまえば伶峰も楽になるかと思った。けど死ぬことは逃げだと、自分なりに考えて、のうのうと生き続けていた。
母親の言うことしかきかずに生きてきた自分には、どうすることが正解だったのかなんてわからなくて。
好きな子の父親を殺した。
好きな子に嫌われてしまった。
守るどころか傷つけることしかできない自分に吐き気がする。
そんな自分にしがみつく伶峰を見て、心臓が止まりそうになる。
大人になって、弟が、好きな人と一緒になると言うのを聞いて羨ましかった。
大切な人と一緒に居れる幸せなんか、俺には一生分からないと思っていた、なのに。
「私は綺羅が好きなんだと思う。綺羅が居なくなるのを考えたらとても悲しい。父さんを亡くしたときみたいに、とても悲しい。」
「伶峰………俺、俺はあなたのお父さんを殺した人間ですよ。」
「そんなの言われなくてもわかってる。好きで殺したわけじゃないことも。私は綺羅と居たい、もう失いたくない。こわい、綺羅が居なくなることが今一番こわい。」
「…………伶。俺……俺、ずっと伶が好きです。好きで好きでたまらなくて、でも、俺と居たら傷付けてしまう、それが一番怖くて、俺は………」
「一緒に居ようよ、綺羅。私をもう一人にしないで。子供の頃みたく、私を連れてって。一緒に居させて、お願い。私も綺羅を一人にしないから。」
「伶峰…こんな俺なのに、良いんですか?後悔しませんか?」
「好、き。綺羅の隣に居たい。」
俺は思い切り彼女を抱きしめた。
これまで触れることも怖くて出来なかった彼女を、大切に抱きしめる。
温もりが伝わる。
好きな子をこの手で抱きしめることがこんなにもいとおしくて幸せなんだと初めて感じる感情に戸惑いながら、抱きしめた。
もう、一人にしない。大切なものを奪うのではなくて、守りたい。
もう二度と離さない。
それから、彼女と付き合い、やがて結婚し、新しい命を授かる。
何よりも誰よりも大切な彼女と
そんな彼女と自分で育てた命二人。
手を繋いで
たまに彼女に怒られながら
くすぐったい日々を送っている。
家族。
俺の居場所。やっと見つけた居場所。
もう、どんなことがあっても大切な家族を離さない、守り続けようと、毎日、流川に誓いながら。
END