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3話 エルフの王たち


 エルフには職業や立場に貴賤(きせん)がない。

 森の木々や動植物たちを見守る【森の守護者(レンジャー)】として生きるエルフも、自由気ままな放蕩生活を送る【森友(しんゆう)】のエルフも、みなが和気あいあいとしている。

 そう、皆が平等かつ互いを尊重し合っているのだ。


「「「永劫に星明りを導く王、リュエール陛下に敬意を捧げよ!」」」

「「「永遠に咲き誇る星の女王、フローラ様に敬愛を示せ!」」」


 しかし、ハイエルフやエンシェントエルフは例外的だった。

 エルフは自分たちより森の声を深く聴き、動植物たちと共生できるハイエルフに対して崇拝の眼差しを向けている。

 そしてエンシェントエルフとなればもはや神聖視に近い何かになっていた。


 だって見目麗しいすまし顔のエルフたちが、五体投地してるんだよ!?

 パパンとママンの前で全員が両手両膝、そして│ひたいを地面に投げ伏している。

 いやいや、エルフの身分意識やばいやん。


 異様すぎる光景の中、俺は美しい花々に飾られた幾重ものアーチをくぐってゆく。

 もちろんハイハイなどではなく、パパンが発動してくれた【花盛(はなざか)りの箱船】に乗ってだ。

 無数の花びらが風に乗って集まり、船の形となって浮遊しながら俺を運ぶのはさぞ幻想的に映るだろう。


 まあ俺もこの光景には心躍らないといえば嘘になる。

 箱舟(おれ)から見えるのは、空に花が舞い散る景色。まるで色とりどりに輝く青き星空のようだった。


「おお……! あの御方(おかた)こそが我々エルフの未来ですか」

「なんと可愛らしい姫君か……!」


 周囲がざわめくなか、パパンとママンが【世界樹の玉座】に腰を下ろした。元は世界樹だった(・・・)と言われる残骸(・・)をくりぬいて作った玉座らしい。

朽ち木を元にしたとはいえなかなかに荘厳だ。


「【(あか)き森】の方々がご到着されましたな」

「おお、さすがはハイエルフです。輝きが我らと違う……!」


 エルフたちの話題は俺から優雅な赤マントを羽織った一団へと移る。

 彼らはパパンの御前に来ると、先頭に立っていたこれまた呆れるほどの美貌を持つ炎髪の青年が口を開いた。


「この度はかような素晴らしき祝宴にお招きいただき誠に感謝いたします」

「おお、西のエルフ王よ。遠路はるばる我が愛娘の祝福に出向いてくれて嬉しいぞ」


 パパンはいつものおっぱい大好き魔人ではなく、威風堂々とした表情でハイエルフたちを玉座から迎えた。

 彼ら彼女らはパパンに王と呼ばれながらも、自ら膝を付き(こうべ)を垂れる。


「エルフ王などと恐れ多くございます。我らエルフを統べる王はリュエール陛下ただお一人のみ。私はあくまで陛下に西の森を守護するお許しをいただいた【紅き森の薔薇(ばら)王】にございます」


 ちなみに東西南北のエルフ王たちは決して自分たちを『エルフ王』とは言わない。なぜならエンシェントエルフこそがエルフを統べる唯一無二の頂点であるから、らしい。


「ふむ。では薔薇王よ、薔薇妃よ、共に語らおうではないか」

「喜んで、陛下」

「陛下、こちらが姫君であらせられますか」


「名をレムリアと名付けた」

「では……! ついに我々エルフが抱え続ける常闇をも明かす……!」


「無論、どのような生きるかはレムリアの自由だがな」

「もちろんでございます。では、姫君に我らが祝福をお送りいたします」


「歓迎する」


 そうして【紅き森の薔薇王】は俺が寝そべる【花盛(はなざか)りの箱船】へ一枚の花弁を捧げてくれる。王妃もそれに続き、それぞれが祝福の言葉を贈ってくれた。


「姫君の情熱を——」

「姫君の未来を——」

「「祝福いたします」」


 これはハイエルフの間で古くから伝わる祝福の儀式だ。

 名を【祈りの花籠(はなかご)】と言って、入れてくれた花弁によって様々な意味や祝福が込められている。

 薔薇王が捧げてくれたのは『紅薔薇(べにばら)』の花弁で、『情熱的な可憐さと意思力を祝福し、自分に牙を向く相手には容赦なく棘を突き刺せ』といった意味がある。

 そして王妃の方は『紅葉の枯れ花』で、『晩年になっても美しく彩る未来を祝福し、落ち葉のように朽ちてなお土に還りて新芽の糧となるよう、新世代の手本となれ』といった意味がある。


「きゃっ、あきゃっ!」


 祝福の意味は全て古代樹が翻訳してくれた。


「ま、まさか……姫君はこの御年で古代樹との疎通(そつう)を……!?」

「やはり偉大ですわね……!」


 さすがはハイエルフといったところか。なんとなく俺が古代樹を通して彼らの祝福の意味を悟っていると気付けたようだ。

 それからも続々と【祈りの花籠】へ花弁を捧げてくれるハイエルフたち。


 わあ、この白髪の一団は……北のエルフ王、【白き冬森の雪厳(せつげん)王】と言われるだけあって(いか)めしい顔つきのご老人だ。

 そしてこっちは東のエルフ王、通称【蒼き森の朝霧(あさぎり)王】か。朝日のような爽やかな青年だ。

 おおー南のエルフ女王も来てるぞ! 煌びやかな装飾品に身を包んだ姿は、【輝き森の宝石女王】としてふさわしかった。


 まさにそうそうたる顔ぶれであり、一同が集まるのはおよそ400年ぶりらしい。

 そんな貴重な機会を俺の生誕祭なんかで……いやレムリア様(推し)の生誕祭なのだから当然か?

 とにかく彼らは旧交を穏やかに温めながら、それぞれが思い思いの話題を紡いでゆく。


「そういえばリュエール陛下。この50年(さいきん)、人族が【神】なる存在を崇め始めたそうです」

「ほう、神とな?」


 ん? 薔薇王が面白そうな話をしてるぞ。

 古代樹から森やエルフのことは教えてもらえるけど、外の世界についてはなかなか聞けない。これはもしかして、この世界がクロクロと同じなのか判別するのにちょうどいい情報収集なのでは?


「はい。強大な力を持つ個体を神聖視したにすぎないのですが、その恩恵にあやかろうとする習慣のようで」


「ワシも耳にしております。その個体を信奉し、その個体が起こした偉業は【奇跡】と呼ばれておりますなあ」


「短き運命共は哀れよな……(すが)りつくしかできないなどと……」


「長きに渡って同族同士で争い続けていたと思えば、強者になびき隷属だなんて。浅ましい人族にふさわしいのではないかしら」


 東西南北のエルフ王、女王たちが失笑するなかパパンだけは違った。


「神……人間は元々存在しないものを想像するに長けた種族ではあるからな。それに中には神代からいる本物もいるだろう。【正統王ゼウス】や【冥府の王ハデス】のようにな」


 神妙な面持ちで一同を見回し、傾聴せよと威厳たっぷりな所作で言葉を紡いだ。


「みな、侮るでない。神と呼ばれる存在の誕生により数の多い人間が結束力を強め……意思の統一がなされた場合、森の安寧を脅かすほどになるかもしれない」


 それに、とパパンは陰りを帯びた表情から打って変わり、明るい声音で続けた。


「我らエルフが抱える(やまい)を治す光明はどこに在るかわからないぞ。人間は時に予想外の何かを起こし、高みの境地にたどり着く者もいる」


 パパンは『人間はそれを奇跡と呼ぶやもしれぬ』と締めくくった。


「陛下のお言葉、深くこの胸に刻みました」

「であるならば、人族の信仰対象にも森の目や耳を光らさねばですな」

「神などと所詮は我らが祖である世界樹と比べれば矮小なものでしょう。しかし陛下のおっしゃる通り、我らエルフも病を抱える身。人族とはほどよい距離を保ちましょう」

「では短き運命どもの話はここまでにして、次はあの憎たらしい岩窟人(ドワーフ)どもの情勢に——」


 んー……パパンたちの話を要約すると、人々は神々の信仰に目覚め恩恵を享受し始めたってところか。

 これって『クロクロ』でいうところのシーズン1のちょっと前ぐらいの時期だよな?


 確か裏設定集には、最初はシンプルに知性ある大熊などの巨大生物が神聖視されていただけだったが、神々も数百年の時を経て進化していったと書かれていた。

 神と呼ばれ、人々の想いに触れ、祈りを集約させて己が力に変換できる【神属性(デューク)】を獲得する。そしてシーズン1の時代では、自ら()の力の一部を信徒に譲渡する特性を持っていた。   


 後にこれに気付いたエルフたちは、神々への祈りを一種の『契約』と解釈していたっけ。

 神が提示する教えに従い、人は自分の意思を制約、律する代償に祝福を得る。

 短き運命共は行動の一部を制限される、すなわち神へ貴重な寿命を捧げているに他ならないうんぬんかんぬんって、エルフのNPCがご高説を垂れていた。


「北には魔石にとり憑かれし石頭の岩窟人(ドワーフ)か」

「西には神などとふざけた存在の威光を示さんと侵略を憚らない人族(ヒュム)か」


 集ったエルフ王や女王たちは祝宴の場でありながら、嘲りと敵愾心に満ちていた。

 なんだか不穏だなあ。


 んん、もしこの世界が本当に俺の知ってるクロクロの世界だとしたら……。

 北の【白き冬森の雪厳王】はシーズン1で岩窟人(ドワーフ)と、【永劫にひしめく霜石玉髄(フロスラルダ)】という魔石の所有権を巡って敵対していた。しかも氷竜殺しの異名を持つ英傑だ。


 そして東の【蒼き森の朝霧王】はシーズン2で人族との同盟軍に参戦し、魔王殺しを成し遂げ伝説そのものとなる。逆に西の【紅き森の薔薇王】はシーズン4で人族と戦争し、いくつかの王国を滅ぼしてたっけ。


 平和なエルフと言えば南の【輝き森の宝石女王】でシーズン7の時代には人族と貿易し、その影響力は南国家群の経済を牛耳っていると言われたほどだ。だけど今しゃべってる雰囲気からして、心の底では人族を完全に見下しているようだ。


 んんー?

 めちゃくちゃ怖い人たちだな!?


 冷静に考えてみるとこの場にいる王や女王たちは、世界の行く末に大きく関わる人物たちだ。

 もしかしなくとも、今後を考えるなら俺はここで……彼ら彼女らとの結びつきを強固にしておいた方がいい?

 

 でもこの場で赤子にできることなんてそうそうない——

 あ、あったぞ!




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 面白いんですけど、ルビの振り全部ミスってますよ
[良い点] ほー...レムリアとしてこっから原作ストーリー、おそらく「正史」をぶっ壊すんですかね? [気になる点] 白青の姫を思い出しますねー... 懐かしい
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