14話 クエスト無双
1年が経った。
【古森の大狼】との猛特訓の日々は続いている。
自然と俺も狩りを手伝うようになったし、一緒に生活する時間が極端に増えた。
『条件:【古森の大狼】と共に狩りを100回達成』
『固有スキル【大狼の爪と牙】を習得』
そして世界樹と意識を重ね続けた結果、今では世界の意思みたいなものが聞こえるようになっていた。
というかクロクロのアナウンスそのものだ。
「また私の知らないクエスト報酬ですか……」
「くるぅぅぅ?」
「いえ、別に悲しんではいません。どちらかと言えばワクワクしています」
なぜか心配してくる【古森の大狼】をなでりこして、サッと背に乗せてもらう。
「さっそく新スキルを試してみましょう」
【古森の大狼】の背に乗ったまま森の中を駆ける。
獰猛な獣の匂いを嗅ぎつけた鹿の群れは逃げ出すけど、【古森の大狼】は容赦なく追い詰めてゆく。
そして俺は【古森の大狼】の背から飛び立ち、群れから孤立した一匹の女鹿に狙いを定める。
空中で三回転ほどバク中をかましながら、体全体で回転力を上げる。
そのまま新スキルを女鹿に発動。
「————【大狼の爪と牙】」
俺の四肢は一瞬だけ【大狼の爪と牙】のそれとなる。大狼の爪は女鹿をあっさりと切り裂き、がっちりと捕らえる。さらに鋭い牙をのど元に立てれば、数瞬のうちに女鹿の息の根を止めた。
「つかえますね、これは」
おそらく世界の意思は、クロクロに存在していた膨大なクエストを達成すると聞こえるのだろう。
例えば【影の精霊】を1000匹倒したら【影魔法】を習得できるなどの条件達成でも、世界の声がアナウンスしてくれるはずだ。
おそらく神々と呼ばれる者たちもこういった条件を満たして、強力な個体になったのではないかと思っている。
なぜなら俺は知っているから。
「【神々の代理戦争】の次の時代は——【神喰らいの夜明け】でした」
クロクロの転生人はシーズン1が神々に仕えて代理戦争をしたとすると、シーズン2は神々を喰らい己が糧とする神殺しの時代だった。
自身の行動が伝承そのものになるのだ。
同時にそれは多くの神力や奇跡、神々の力が宿る物も失われることとなった。
【神象文字】もその一つとされ、伝承に殺されていった神遺物だ。
なにはともあれ、80年後の【神々の代理戦争】に向けて、今は推しの強化に集中しておこう。
「次は【巨人殺しの大熊】あたりとも交友を深めてみましょうか」
こうして修行の日々が4年も過ぎた頃。
陽光が柔らかいとある昼下がり、古森に住まう猛獣たちとのんびり日向ぼっこをしていると木々がかすかに騒めいた。
懐かしい人物が古森に入ってきたのを知らせてくれたのだ。
『人間の——剣の少年だった、剣の男となって訪ねてきた——』
どうやら5年ぶりにヴァン少年が帰郷したようだ。