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開戦

一メートルほどある大きなドローンから食料の入ったリュックサックが投下される。それは鈍い音を立てて広場の中心に転がった。真夏の18時は明るく、空はまだ青い。石造りの広場に西日が五つの人影を作っている。そのうちの一つが手を上げた。

「よお、三人でお出ましとは珍しいな」

 太一が一歩、食料へ近づいた。サラマンダーがびくりと肩を動かした。

「へっ、ビビってんじゃねえよ」

「うるサイ、焼き殺すゾ」

「ただの火吹き蜥蜴が粋がってんじゃないゾ」

 太一がサラマンダーの口調を真似る。サラマンダーがどこからともなく手のひらに火を灯しそれを太一へと投げた。太一は半身をずらし紙一重で避けた。

「雑魚は引っ込んでろ、お前らの中で戦えるのはバーサーカーだけだろ」

 太一の挑発に猛るサラマンダーを線の細い男が手で制した。

「乗るなよ。どう考えても相手の作戦だ。一人いない」

「でもいないのは検知型ダ。戦いには参加しないだけだろ」

「そうかもね」

「ファイブは慎重すぎる。それでは勝機を逃ス」

「うんうん、そうかもしれないね。でもじゃあなんでその戦闘に参加しない検知型が僕たちの後ろを取っているんだろうね」

 サラマンダーが後ろを振り返る。サラマンダーの瞳には何も映らない。しかし検知型のファイブはその気配を確かに感じ取っていた。

「サラマンダーは後ろの奴を殺せ、バーサーカーはウンディーネだ」

 サラマンダーがファイブを睨んでから西の森へと走っていった。

「なぁ、噛ませ君。さっきの言葉、そっくりそのまま返させてもらうよ。雑魚は引っ込んでいてくれないかな、戦える能力なのはウンディーネだけだろ」

 ファイブがバーサーカーの背中を叩き、前に出す。

「どうであれ、検知型がサラマンダーとタイマン張って勝てるわけねえし、これで2対3だな」

 いや、お前らがバーサーカーに勝てるわけねぇから勝ち確定か、とファイブが高らかに笑った。

「検知型なんていても居なくても変わらないわ。元から2対2よ」

 相手の青年は顔色を変えない。後退りをするように下がり、サラマンダーに指示を出す。

「いいか、 あの水の能力者の女を先にやれ。男の方は対した能力じゃないから俺でも相手できる」

 バーサーカーがうなずくと同時に太一が前に出る。

「おい、千美。お前は手を出すな。バーサーカーを相手すんのは俺だ。あの舐めたガキに思い知らせてやる」

 千美は仕方ないとばかりにため息をつき、一歩引いた。手にしていた水筒をウエストポーチにしまう。

「ほら、こいよ脳筋。千美は下がらせた」

 バーサーカーが振り返りファイブを見た。

「駄目だ。あの男は後回しだ。女を殺せ」

「わかった」

 バーサーカーが一歩進めたときだった。森の奥で煙が上がった。

「木山さん!ここは任せた。私はあっちに行く」

 千美が煙の方へ走り出す。バーサーカーがそれを遮るように立ちはだかり、太一がそこへ殴り掛かる。千美が太一を壁として使い、森の中へと姿を消した。その後を追おうとしたバーサーカーの脇腹に太一の拳が刺さる。バーサーカーが距離をとり、体の向きを太一へと向けた。それを見てファイブが舌打ちをして自ら千美の後を追って森へ入っていった。


 流石うちのブレーンだ、と太一は心の中で呟いた。悠斗も上手くサラマンダーを引き付けているようで、遠くに立ち上っている煙を見てうなずく。千美の敵を見る目というのは、その能力による視野の拡大だけではなかった。敵の動きを読むその目こそが彼女の最大の能力だと認めざるを得なかった。彼女が作戦を語っているときのあの無邪気な目を思い出す。


 日はまだ中天にあり、森の中にある木陰が肩身を狭そうにしている。小屋を抜け出し、時をやり過ごそうとしている三人が岩陰に身を潜め、爪を研ぐ。

「いい?バーサーカーに勝つには数で有利を作らなければ勝てないの。だから私達が先に狙うのはバーサーカー以外の二人、サラマンダーと検知型よ」

 千美が地面に小石を3つ置いた。

「まず、サラマンダーを撃つのは悠斗君。そして、敵の検知型を討つのは私。木山さんはその間バーサーカーを一人で相手にしてもらうことになるわ」

 千美が小石を一つ取って悠斗の前に置いた。

「まずはサラマンダーと悠斗くんの一対一を作る。悠斗くんはそこでサラマンダーを殺す、もしくは足止めをしておいてほしいの。その間に私が敵の検知型を引き連れて森の奥へ入るから、木山さんはバーサーカーを引き付けて。そうしてまずは一対一の局面を作る。これが第一段階ね」

 そうしてそれぞれの前に小石が置かれた。

「次にバーサーカーを封じるために一旦木山さんにはわざとバーサーカーを逃してもらうわ」

「逃すったってどうやって?」

「逃がすこと自体は難しいことじゃないわ。バーサーカーは私を追おうとするはず、だから木山さんが追撃の手を止めればいいのよ。時間にして十分、バーサーカーを足止めしてほしいの」

「十分って、その後バーサーカーに追われる千美さんはどうするんですか?」

「私は十分の間に敵の検知方を殺して身を潜めておくの。昨晩の夜襲でわかったでしょ?バーサーカーはおろか敵の検知型さえ身を潜めていればこちらの位置を特定できないことを」

 千美が自身のユニフォームについた泥の汚れをわざとらしく広げた。

「そうやってバーサーカーが孤立している間に木山さんは悠斗君の応援に行ってほしいの、あもちろん食糧の入ったリュックを持って、ね。サラマンダーとの戦いだからきっと場所はわかりやすいはず。そうして二対一でサラマンダーを討った後、この岩陰に再集合って流れで、どうかしら?」

「バーサーカーをなんとかする方法はそれから考える、ってか?」

「ま、そうなるわね。三対一の状況まで持っていって倒せるかどうかの相手なのよ。本当、チートにも程があるわね」

 自分たちの置かれている状況を改めて突きつけられて、三人はそろってため息をついたのだった。


 さすがうちのブレーンだ、と太一はもう一度心の中で呟いた。今のところ作戦通り事が運んでいる。

「余所見をする暇があるのか?」

 先まで5メートルはあった距離を一息で詰め、その拳を振り下ろす。太一は掌底でその拳を流す。しかし、そのあまりの強さにいなしきれずにバーサーカーの拳が脇腹を擦っていく。そのあまりの鋭さにユニフォームが裂け、太一の血がにじむ。

「おいおい、刃物かよ」

 太一が退こうとしてその足を叩く。そして、逆に一歩前へ進んだ。バーサーカーの懐へ潜りこみ、ラッシュを御見舞する。素人丸出しの体重の乗っていない拳はバーサーカーの体制すら崩すことは出来ない。

「くそ、打撃のやり方なんて習ってねえよ!」

 太一が弱音を吐きながらそれでも動きを止めない。蚊を振り払うようにバーサーカーが腕を振り払うが、それを避けながら拳を打つ。

 埒のあかないやり取りにバーサーカーが距離を取ろうとするが、太一が距離を取らせないようにすぐに接近する。バーサーカーに跳躍する隙を与えないよう小刻みに拳を突き出す。バーサーカーの拳は空を切る。しかし、太一の攻撃は微弱ながら確実にバーサーカーに打ち込まれていた。

「うがぁ!」

 バーサーカーが左腕で大きくあたりを薙ぎ払い、右手で地面を押し出すようにして距離を取った。でたらめな動きとでたらめな力を前に太一はなす術なく距離を取られてしまった。

太一は自分の拳をさする。強化された筋肉への攻撃はまるで鉄板を殴っていると錯覚するほど硬く、効いている気がしなかった。今になってバーサーカーを倒すということがどれだけ無謀なことかを思い知った。しかし、それ故にバーサーカーの相手を任せてくれた千美と悠斗の自分への期待を思えばこそ、太一に膝をつかせなかった。

 バーサーカーをここにとどまらせる、自分に与えられた使命を全うすべく再び拳を握りしめるのだった。




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