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献策

 投下場所の広場を見下ろせる高台へと来た。千美と悠斗が大岩に腰を掛け、太一はよりかかっている。下り始めた日が辺りを照らす。物資が投下される18時までまだ時間がありそうだった。

「なんか見えるか?」

「ここで能力を使ったら太陽光で目が焼けそうで怖いわよ。能力を使えるといっても身体がそれに耐えられるわけではないのよ。今は普通に下見よ」

普通に下見である。能力の差で負けている以上、作戦で上回るしか勝つ方法はないのだ。

「森に囲まれてて、広場の外は身を隠すところが多そうですね」

「先に物資を取りに広場に出たらどこから敵が襲ってくるかわかんなりそうだな」

「ま、敵の位置把握は私の仕事だから、広場周辺で隠れられそうな場所を頭に入れておくのよ」

「そういえば相手の検知型を欺けるかどうかが勝利のカギになるって解説動画で見たことあります」

 千美がまじまじと悠斗の顔を覗き込む。ふいに香る女性特有のにおいに一瞬たじろぐ。

「僕、何か変なこと言いました?」

「あなたの能力、獣に変身だっけ。鼻が利くようになる、とか副次的な効果はないの?」

「え?」

 悠斗は自分の行動がバレたのかと思い、無意識のうちに鼻をつまんだ。しかし、千美は気にした様子はなく続ける。

「変身型の能力よね?獣って例えばどんななの?」

「えっと、具体的にこうって言えないんですけど、ビッグフットみたいなものを想像していただけたら近いかな、と」

「ビッグフット自体が空想の生き物だからわかりにくいけど、じゃあ鼻が利くとか耳が良くなるとか音波を飛ばしてその反射で敵の位置を割り出すとか、そういう動物の機能的な能力は兼ね備えていないのね」

「そんな効果があればよかったんですけれど、全くないです、たぶん。そもそも頭を変身させるどころか、全身を変身させることすら出来ないんです」

 悠斗の獣化は局所的に体の一部を獣のように変身させることができる能力だ。悠斗は自分の能力を知るために調べていたが、ネームド以外のアビリティは情報が少なく、ついぞ自分自身でもその詳細を知ることはできなかった。

 また、唯一能力の使用が許可されている指定の施設内での鍛錬だが、その施設の料金は高く、スポンサーのついていないアマチュアにとってはほとんど利用できない代物だった。悠斗は片腕の変身を身につけることで精一杯だった。

「ま、とにかくうちのチーム唯一の攻撃力あるアビリティだから。期待してるわ」

 千美が悠斗の背中をはたいて大岩から飛び降りた。そのままこちらを振り返ることなくすたすたと行ってしまった。


 木製の椅子が軋む。机に向かって三人で頭を突き合わせていると、小虫がからかうように辺りを飛ぶ。太一が人差し指と親指だけで器用にそれをつまんだ。

「すごいですね、その能力」

「だろ?結構便利なんだぜ」

「でも日常生活で不当に能力使ったら捕まりますよ」

「だから、普段は殺虫スプレー使ってる」

「ちょっと、木山さんの能力は使ってもばれないんだし、普段から使って修行しときなさいよ。能力の練度が格段に上がるわよ?」

「俺が能力を使いっぱなしにしてると一時間が百時間に感じられちまう。退屈すぎて脳が溶ける」

 太一がため息を吐いた。まるで精神と時の部屋だ、と悠斗は思ったが口にはしなかった。太一の目が鋭かったからだ。

「へぇ、そうなんですね。僕の能力も密かに練習しておけばよかった」

「悠斗君の能力はすぐにばれて即お縄、最低でも17年は出てこれないわよ」

 千美が笑って悠斗の肩を肘で小突いた。その動きに合わせて椅子が軋む。

 いま三人が地図を広げて作戦会議をしているこの小屋は、森の中で見つけたものだった。会場には試合を面白くするためにいろいろと用意してされたものがあり、この小屋もその一つだった。もちろん、食料は用意されていないが、簡易トイレが設置されていたのはありがたかった。

「あの、一つ気になっているんですけど、木山さんって歳いくつですか?」

「22だけど」

 太一がぶっきらぼうに言い放つ。

「……僕は27です」

「私は28」

「なんで僕の方が年下感出てるんですかね。なんで千美さんは木山さんだけさん付けなんですかね」

「今はチームだろ?歳なんか気にすんなよ」

 早く作戦を立てようぜ、と太一が地図を人差し指でとんとんと叩く。

「それは年が上の人がいうセリフなんじゃ?」

「だぁ!とにかく、物資が投下されるまであと一時間くらいだぞ。何とかしないと飯抜きになっちまう」

 食べられるものが極力排除されたこの試合会場では、投下される物資だけが食料である。試合期間として設けられた七日間の中で、食料を確保できるかどうかは勝敗に直結するのだ。

「相手にはバーサーカーがいるしダッシュで取られたらどうしようもなさそうですよね」

「いえ、それはないと思うわ」

 千美が言い切った。勢いをつけるためにペットボトルの水筒を煽り、音を立てて机に置いた。口の端からこぼれた水を手首で拭う。

「相手からしたらこっちの能力はまだバレていないのよ。なんの警戒もなしに突っ込んでくるとは思えないわ」

「もし突っ込んで来たら?」

 太一が聞き返す。

「相手のチームにはブレインがいない馬鹿の寄せ集めってこと。もしくはこっちの手の内がバレてるか。どちらにしてもそうなった場合こちらとしては分が悪いから明日か明後日には決着をつけるしかなくなるけど」

「バーサーカーの能力で物資を確保できることがバレてしまったら相手はそれを続けるだけで勝ててしまうってことですね」

「そういうこと。だから私たちが今日の食料投下で行わないければならない最低ラインは相手の検知型の特定と能力の秘匿。食料の確保は優先度を落とすわ。能力で負けてんならここを使って勝つわよ」

 千美が自分の頭を人差し指で叩いてにやりと笑った。

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