97.子供への接し方
「おはよう雫」
「おはようございます大成君」
現在は三回目の世界で夏休みが終わって学校が始まった日。
僕と雫は少し早く登校して図書室に向かう。
「それにしてもショッキングな話ですね淳史さん」
「純粋な恨みで神光宗に入ったことで信頼も厚い。だからこそ神の蜜薬のことを知らされているんだろうね」
「残酷な話です」
淳史の怒りはごもっともな話だ。
だが復讐心を持ち続けるのはかなり難しい。
「僕は淳史も救ってあげたいよ。殺意を抱き続けるのは辛いと思うし」
僕はそう決意して足早に図書室に行く。
そして図書室のドアを開くと金色のベージュの髪の少女と目が合う。
「おはよう大成」
「おはようノエル」
「おお、私だけではダメでしたが成功したみたいですね」
〈記憶の勇者〉だけではリセット後に他者の記憶を残しておくことはほんの短い時間だけしかできなかったが〈記憶の勇者〉を組み合わせればノエルだけは記憶を引き継ぐことが可能らしい。
「大成に聞いた時も思ったけど本当に強いわね〈セーブ&ロード〉。正直言って〈強奪の勇者〉が持ってていい能力じゃないですわ」
ノエルは呆れた様子でそう口にする。
「二回目で話したことは覚えてる?」
「もちろんですわ」
「それじゃあ、手筈通りいこうか」
記憶が残っていることを確認した僕はそう言って他人を装う。
そして二回目と同じように過ごして放課後を迎える。
「どうだった雫?」
「聞いてください!クラスの人とお弁当を食べることに成功しました!」
テンションが高い雫は飛び跳ねながらそう言う。
それから三回目の日々は二回目に似ているが交友関係が少し広がった感じだった。
望んでいた普通の生活を手に入れた雫は年相応の表情だった。
それから二回目のように理仁を説得して結月に会う日を迎える。
「……私がいて平気ですかね?」
「平気さ、それに雫がいた方が新鮮だしね」
結月と最初に会うときはノエルは抜きで僕と雫で会うことにした。
恐らくそっちの方がいい展開になるという結論になった。
そういう訳で日が落ちた道を僕と雫は僕の家に向かって歩く。
そして街灯の光に佇む黒マントを見つける。
「大丈夫だよ」
僕は険しい表情をしている雫に小さくそう伝える。
そして結月がマントとサングラスを外して石化させてしまう瞳を向ける。
「こんばんわ、こんな時間に一人?」
僕は結月にそう言いつつ雫の方に視線を向ける。
そこにはホッとした顔の雫がいた。
「…………?」
「あ、こんばんわ」
落ち着いた雫が慌てて挨拶をする。
「な、何で石にならないの?」
「石?」
「何の能力を使ったの!」
「能力は一切使ってないよ」
「わ、私知ってるんだから!あなた〈強奪の勇者〉なんでしょ!それとそっちの小さい方は〈速読〉じゃないの!?」
「ち、小さい方……」
雫が複雑そうに呟いたが触れないでおく。
「〈強奪の勇者〉ってどういうことかな?悪いことした記憶はあまり無いんだけどな」
「間違えた、言っちゃダメだった」
「こんなところでどうしたの?お父さんは?」
雫が距離を詰めてそう聞くと結月は少し後退する。
「ま、迷子なの」
「まあ、それは大変。とりあえず交番に行かないと、両親が心配してるに違いないわ」
雫がお姉さんのような口調で話しているのは新鮮だ。
「だ、大丈夫。携帯持ってるから」
「それなら最初から連絡したらいいんじゃ?」
「う、うるさい!」
「まあまあ、家に帰りたくない日ぐらい誰にでもありますよ」
確かにその気持ちは十分に理解出来る。
「お、お父さんに連絡したからすぐ来ると思う」
「それじゃあ、お姉さん達がお父さんが来るまで一緒にいてあげましょう!」
何というか子供への接し方って個性があるな。
そんなことを考えながら雫と結月のやり取りを見守っていると結月に携帯の画面を向けられる。
「これ、やろ!」
向けられたのは前回も遊んだアプリだった。
アプリは四人まで遊べるので今回は雫を含めた三人で遊ぶ。
「ふっふっふ、雫よわーい」
「……もう一回」
少し不機嫌な雫がそう言うと足音が聞こえてくる。
それに反応して結月が目をサングラスで隠す。
「こんばんわ」
「……本当に石化してないのか」
「石化ですか?」
「あぁ、結月の目を見た相手は石になるはずなんだがな。それが〈メデゥーサ〉の力なはず」
「そうだったんですか。それにしても目が合わせられないって辛い事ですね」
「好きな人とは目を見て話したいものです。お父さんもそう思いませんか?」
「……そうだな」
「お父さんが来てくれたみたいですし続きはお父さんに譲ります」
雫はアプリの画面を見せながらそう口にする。
「それじゃあね、結月ちゃん」
「うん!」
結月は元気よく返事をすると淳史の後ろについていく形で立ち去る。
「ふー、よかった、石化しなかった」
雫は暴走した〈メデゥーサ〉を目撃しているせいで結月に対して恐怖を抱いていたみたいだが蓋を開けてみれば全然平気そうだった。
「とりあえず第一関門は突破ですね」
「うん、後は二人次第だね」
二人の仲がどれだけ深まるかにかかっている。
「それでは帰りましょうか」
「送るよ」
僕がそう言うと雫は困ったような顔をする。
「それがですね、石化した場合を考えてお母さんに三十分経過したら家に呼び出してもらうように言ってるんです。なので〈召喚〉で帰ろうかと」
「なるほど、それならどんな風に召喚されるか気になるし見送ってもいい?」
それから〈召喚〉が発動されるまで雫と軽く話す。
「あ、時間みたいですね」
雫の足元に魔法陣が浮かび上がる。
「ざ、召喚って感じだね」
「それじゃあ、また明日」
「うん、また明日」
魔法陣が紫色に輝くと雫は神隠しにあったかのように消える。
「……目立つけど拉致にはもってこいだよな」
僕はそう呟くとすぐそばの自分の家に帰った。




