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狂愛の魔王  作者: ラー油
4章:天敵

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87.俺の名前

 この世界の能力は大きく三つに分類される。

 一つ目は超常系。その名の通り普通の人間には不可能な事が出来る能力。

 二つ目は勇者系。これは言わずもがな勝ち組だ。

 そして問題なのは三つ目は生物系。この能力の特徴は生まれた瞬間から能力が発現している点だ。

 加えてこの能力は親に歓迎されないことが多い。想像して欲しい、自分の子供が人と何らかの動物と人間が混じった見た目をしているのを。

 そんなの可能な限り嫌だろう?だからといって俺達に何ができるんだろう?

 「こんな見た目ならお前なんか産まなければよかった!」

 そんなこと言わないでよ、俺だって好きでこんな見た目で生まれたわけじゃない。

 しょうがないじゃないか、能力は選べないんだ。

 「こ、これ!」

 「うっわ、最悪。もう使えないじゃん」

 「うわー、○○菌に汚染されちゃったね」

 俺は落ちてた筆箱を拾っただけだ。ただ親切心だったのに何でここまで言われないといけない。

 そんなことを一人でずっと考えてきた。

 それでも俺は諦めたくなかった、いい大学に入っていい会社に入ってみんなを見返すんだと思っていた。

 必死に勉強した。本当は誰かと遊んだりしたかったけど相手はいないから勉強に集中出来た。

 そして大学入試、手応えは良く。合格を確信していた。

 「…………何で?」

 結果は不合格。頭が真っ白だった。

 「何でだよ、合格最低点は超えて――」

 そう、試験の点数は十分だ。でも落ちた。俺の名前は無かった。

 つまり別の要因。大学が開示しない点数。

 「また、またかよ。また見た目か」

 考えられることは面接点が低いということだ。

 他の人と大差を付けられて落とされたのだ。

 この瞬間俺の中の何かが壊れていくのを感じた。

 世界が灰色で心が冷えていくような感覚。

 「どうかしたのかい?そんな表情をして」

 途方に暮れていたそんな時に現れたのが教祖様。〈光の勇者〉だった。

 俺はいつの間にか全てを話していた。

 「お、俺はただ!普通に生きたかっただけなんだ!」

 特別になりたいとかそんな欲求は無かった。

 ただ一人の人間として生きたかった。

 「そうか、それは辛かった。君は悪くない、悪いのはこの世界にある差別と根本的に言えば能力だ」

 教祖様はあまりにも優しい声と表情でそう言った。

 短い言葉なのに胸に刺さり、抉られた。

 「私は君の全てを肯定しよう」

 教祖様はそう言って手を差し出した。

 その姿はまるで神様のようで俺は縋るように手を取った。

 それから俺は能力をこの世界から差別を無くす為に活動していった。

 最初の仕事はある企業のご令嬢を監視することだった。

 この行為に意味があるのか疑問だったが役に立ちたかった。

 必要とされるのは初めてたっだから。

 ――三週間の監視任務が終わって二週間後その令嬢が不審な死を遂げたのを知った。

 頭が真っ白になった。不審な死を遂げた日は夜遅くまで塾に行っている日だった。

 「な、何てことをしたんだ!?」

 「簡単なことさ彼女の父親は表面上では差別をしない人だが裏では動物系の能力者に過酷な労働を強いていたんだ」

 教祖様はそう言って様々な証拠の写真をばら撒く。

 そこには死んだような顔で作業する同志の姿があった。

 「そ、それなら社長の方を狙えばよかったんじゃ……」

 「これで社長は間違いを認めて改心することだろう!皆、拍手を!」

 教祖様の呼びかけに答えるようにけたたましく拍手が鳴り響く。

 その音を向けられると高揚し認められた気がした。

 いや、違うな。

 「次も期待しているよ」

 「……はい!」

 俺は乾いた口ではっきりとそう返事をした。

 ここで断ったらまた一人になると本能が言っていた。

 それから監視、拉致、暗殺をした。

 能力を消すにはこの世界の能力者を滅ぼす必要がある。今まで受けてきた差別の復讐心。

 そんな建前で最低なことをした。

 「こんな汚れた俺でも願ってしまうんだ!真っ当に生きられるんじゃないかと!」

 俺は今、目の前にいる十歳近く年下のターゲットに本音を叫んでいる。

 「ならやり直せばいい。自己満足でも償っていけばいい」

 「ダメだろ。こんな奴死んだ方がいいんだ」

 「死んで楽になるのは正解じゃない」

 目の前の男は俺の目を真っ直ぐ見ながらそう口にする。

 「死刑っていうのは自分で決めるものじゃない」

 「いや、死刑はどうしようもない犯罪者を裁く為の制度だろ」

 「それならあんたは死刑にならないだろ」

 出雲大成は声を低くして一歩近づく。

 「これは僕個人の話だ。僕は一度大切な人を傷つけられ犯された経験がある。その時はもちろん恨んだし殺してやろうとも思った。それでも悔いて一生反省し続けるなら僕は許しはしないけど、償って欲しいと思ったよ」

 「……それはお前が変だからだ。俺なら死んで欲しい。生きている事実だけで嫌だ」

 「もちろん、そっちの方が多数派かもね。でも全てじゃない、中には一生罪に苦しんで償い続ける方が苦しめられていいと考える人だっている」

 何を言いたいのか俺にも見えてくる。

 「御託や建前でいい!罪を反省し償いたいと思っているなら他の人の目なんて気にするな!」

 「俺は、俺は……」

 俺は認められたかった、普通に生きたかった。でもそれはもう望んではいけない。

 今、俺が望んでいるのは償いたい。ただそれだけ。

 「俺は……俺は真っ当に生きるよ。どんなに厚顔無恥と言われても償っていきたい」

 「それがいいよ」

 優しい言葉で肯定される。

 「あ、そうだ。せっかくだし名前教えてよ」

 「名前?」

 名前なんて名乗るのはいつぶりだろうか?

 恐らく教祖様、いや〈光の勇者〉に名乗った時以来だろう。

 「俺の名前は横山理仁(よこやまりひと)

 「僕の名前は出雲大成。よろしく理仁」

 大成はまっすぐと俺の目を見てそう言うと手を差し出す。

 俺はその手を取っていいのか迷っていると視界が滲みだす。

 「ここで一歩踏み出すべきだと思うよ」

 「……あぁ、よろしく……大成」

 俺はとめどなく涙を流しながら手を取る。

 その手は暖かく同時に凄く頼もしいものだった。



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