69.ノエル、自分に問う
「任務を遂行しないと、〈強奪の勇者〉は排除しないと危険ですわ」
だから私は前もって付けておいた糸より細い鎖を辿る。
大成は〈強奪の勇者〉だ。それに神光宗の存在も知っている様子だった。
普通なら〈カメレオン〉に襲われたら理由が分からないはずだ。
でも大成は理解している様子だった。
差別されてきた人間が〈強奪の勇者〉などの勇者の能力者を拉致していることを。
「何でそこまで知っているんですの?」
普通ならば知りえない情報だ。
何か異常なことが起こっている可能性が高い。
「しょうがない、しょうがないんですの」
私はブツブツと呟きながら夕日が落ちて暗くなった河川敷付近をトボトボ歩くシルエットを追いかける。
「……こんな俺を認めてくれる人がいるのか?」
私はターゲットに向かって静かに鎖を這い寄らせる。
「あいつは俺を人として――」
「バシャン」
私は声を出されるよりも早く全身を縛り上げて川に沈める。
「しょうがないですわ、大成が〈強奪の勇者〉だって報告されたら厄介ですもの」
私は言い訳するようにそう言う。
こんなことする必要はない。大成を消してしまえばいい。
「ほ、保険は必要ですわ」
私は震える声でそう言って雑巾を絞るように手に力を入れると鎖は〈カメレオン〉を捻り潰す。
「無実な人を何人も殺して容姿だけではなく心も醜いあなたはこうなって当然ですわ」
私は水面に浮かんだ赤を見ながらそう口にする。
これは本音だ、本音なはずなのに言葉に力が全く入っていない。
今まで何人も同じようなクズを殺してきたのに胸が痛い。
自分が化け物のように感じる。
大成は一切の迷いなく諭して真っ当に変わるように行動したんだ。
それなのに私は……
「違う、違う。大成は殺さないといけないですわ」
大成は思っていた以上に情報を持っている。
今後世界を危険に晒す可能性だってある。
「世界を危険に晒す?」
そんなことあり得ないこと分かっているはずだ。
雫に手を出さなければ大成は暴走しない。
つまり最適解は今日のように〈強奪の勇者〉ということを知らせるような状況を避けることではないか?
それにフレヤは高校生活を楽しめと言った。
つまり時間をかけていいということだ。
それに穏便に済めば〈操作の勇者〉と〈入れ替えの勇者〉を敵に回さずに済む。
「仮に死紋を出されたらフレヤに負担がかかりますわ」
親から子供への愛情は計り知れないものだ。
それが暴走するとなったらどんな被害になるか分かったものではない。
それを証明するように世界最強の能力者であるフレヤ・アレグサンダーの能力は〈愛の勇者〉なのだから。
「そう、これは任務の為ですわ」
決して高校生活を続けたいわけではない。
そう任務の為だ。だから痛むのをやめろ心臓。
「何で、何で〈強奪の勇者〉なんですの。だったらせめて〈強奪の勇者〉らしくしてくださいまし」
大成には打算が一切なかった、純粋な気持ちで〈カメレオン〉を諭していたのだ。
〈強奪の勇者〉であることが知られることなんか頭になかった。
悪意なんて感情は無かった、攻撃してくる〈カメレオン〉を対等に扱っていた。
私は心の底から醜いと思った相手にだ。
「私は認めない、あなたを認めるわけにはいかないんですわ」
大成の方が美しいと認めてしまったら私は何なんだろう。
私の人生の全てを否定されてしまう。
「嫌だ、嫌だ、また一人は嫌ですわ」
私は川に流されて消えた赤を見つめながらそう呟いた。
「随分と楽しそうでしたね」
「そこじゃないんだけど……」
「分かってますよ、〈カメレオン〉の件ですよね」
僕は次の日の日曜日雫の家に来て記憶を見てもらっていた。
「あの時は全く気にしてなかったけどやらかしたよね?」
「間違いなくノエルと〈カメレオン〉には大成君が〈強奪の勇者〉だと知られましたね」
焦る僕と対象に雫は微笑みながらそう言う。
「リセットするべきだよね?」
「大成君はどうしたいのですか?リセットしたいですか?」
雫は見透かすような目を向けてそう尋ねる。
「……敵わないな」
僕はそう呟いて話し始める。
「僕は一回は様子を見れたらと思ってるよ」
「様子を見るとは?」
「〈カメレオン〉は恐らく神光宗の一人だ、でも馴染めているわけではなく道具にされてるみたいだから気づいてもらえたらと思ってる」
「なるほど、何とも大成君らしい回答です」
雫は嬉しそうにそう言うと僕の膝の上に座る。
「結論から言いますと様子を見て大丈夫ですよ」
「本当に?」
僕は見上げてくる雫の目を見ながらそう聞き返す。
「神光宗は現状では五人の勇者の能力者を拉致しています」
「……多いね」
こんなに勇者の能力者が日本にいて他国とのパワーバランスは大丈夫なのか心配になってくる。
「前代未聞の数字です。そして勇者の能力者はどうなるかと言うと冷凍保存されます。いわゆるコールドスリープですね」
「確かに勇者の能力を全て集めるなら理には適ってるね」
「人としては終わってますけどね」
「でも僕がコールドスリープされたらまずくない?」
「そうなったら最初に〈入れ替えの勇者〉で家に戻されますしその後響香さんと正志さんが神光宗を壊滅させると思います」
「そ、そうかな?あんまりイメージ出来ないんだけど」
僕は警察としての母さんと父さんを知らない。能力だって最近知った。
雫の話から強いことは分かるが〈光の勇者〉や信者らと戦闘して勝つ姿が見えない。
「そもそも二人が一緒なら〈切断の勇者〉より強いです。事実、〈重力の勇者〉は瞬殺してましたよ」
「本当に?」
日頃の二人から〈切断の勇者〉より強い姿なんて一切想像出来ない。
「それにコールドスリープしたら〈セーブ&ロード〉は発動します」
「そうなの?」
「断言します。実際に神光宗に潜入した時に試したので」
「そ、そっか……」
僕はいたたまれなくなって雫の頭を撫でる。
「〈セーブ&ロード〉なんて能力があることを知ったらすぐに動いてくれました」
そんな能力があったら封じるように動くのは当然と言えば当然だ。
「そういえば〈セーブ&ロード〉を拉致するとなった時の〈光の勇者〉の執着は異常だった気がします」
「そういえば僕って神光宗について全く知らないや」
僕がふとそう言うと雫は少し悩んでから言葉を続ける。
「あまり知って欲しくはないですね。神光宗がやってることは言葉にすることさえ不愉快な人ではない何者かの所業です」
こう言えることはつまり雫は何が行われているか知っているのか。
「分かったこれ以上は聞かない。でも知ってることが辛くなったら相談してね」
僕がそう言うと雫は嬉しそうに微笑む。
「本来ならば言ってはいけないのでしょうね」
雫はそう呟くと話し始める。
「あるゲームに例えましょう。そのゲームには千匹以上の可愛かったりかっこいいモンスターが存在し、それらを捕まえて戦わせるゲームです」
僕の頭には世界的に有名なゲームが頭によぎる。
「普通に遊ぶならどんな個体でも構いません。しかし本気で対戦するとなったら話は別です。素早さの値が1違うだけで先制されてしまいます。だから最大の個体値を厳選します」
「……噓でしょ?」
「これを人間に当てはめた所業が行われています」
「もし最大の個体値ではなかったら?」
「人間の使い道なんて無限大ですよ。凍らさせた五人以上に悲劇的ですが」
「ふざけるなよ、超えてはならないラインがあるだろ」
僕はいつの間にか拳を力強く握っていた。
「これが警察と繋がってるのか」
「少なくとも響香さん達は違います」
ノエルはそう言って僕の拳に手を添える。
「これを聞いた上で大成君はノエルをどう思いますか?」
「どうって?」
「ノエルには容姿や能力のコンプレックスはなく、昨日身に染みて分かったように身体能力もトップクラス。ノエルはどこの立場の人間なのでしょうか?」
スペックだけで考えると神光宗とは真反対だ。
「ってことは警察かな?」
「そうなりそうです。ではノエルはどんな生き方をしたら高校生でスパイをさせられるのでしょうか?」
「それは……警察の娘とか?」
雫が人質だったように親を脅してノエルを仕向けることも簡単だろう。
「可能性は高いですがスパイとして送るには怖いです。高校生なんてまだ素人しかいません」
確かにノエルは不満を抱いてる様子もなくスパイを実行している。
「私の思い過ごしかもしれませんがノエルは普通に生きれていたのでしょうか?」
「……一応あり得る話になるのか」
幼い頃から徹底的に鍛えられる生活を送っている可能性はある。
「でもノエルなら大丈夫だと思うよ」
「可能性を頭に入れておくのは大事です」
ノエルはそう言うと人差し指を立てる。
「もう一つの可能性は外国に強いパイプを持った鼠狼という男が神光宗にいます」
「なるほど?」
「鼠狼については存在以外知りませんがそんな人間がいるということを覚えていてください」
「頭に入れておくよ」
僕はそう言ってノエルも被害者である可能性を頭に刻んだ。




