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狂愛の魔王  作者: ラー油
2章:ストーカー

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26/117

26.失敗

 「はぁはぁ、こっちは怖くないな」

 僕は身体の節々に感じる突き刺す痛みをこらえながらそう呟く。

 相対して感じたのは〈透明化〉は格闘に関して言えば素人だ。 

 ただ姿が見えないという点がただ無造作の拳を弾丸に変えている。

 「体重はぽっちゃり、身長は僕より低いから170㎝あるかないか、そして男」

 凛さんの遺体に性的暴行がある時点で薄々思っていたことだが〈透明化〉はストーカーだ。

 「これなら可能性はあるな」

 ストーカーの想いは一方的で凶暴かつ迷惑であるが行動力だけは称賛に値する。

 「さてと、コンテニューといこうか」

 僕はそう呟いてもう一度凛さんの自宅へ向かった。

 

 「ピンポーン」

 「はい?」

 「こんにちは氷梅さん。少々時間よろしいでしょうか?」

 「どちらさまでしょうか?」

 「警察の探知部から来た出雲大成と言います」

 「……では玄関から離れてもらっても――」

 凛さんが言い終わるよりも早く距離を取る。

 「こんにちは氷梅凛さん」 

 「警察って聞いたのだけど?」

 「突然の訪問ですみません。急を要する事態でしたので」

 僕はそう言って警戒する凛さんに頭を下げる。

 「僕の能力は〈存在の感知〉で視界に映る建物の中にいる人数〝だけ”を知ることできます」

 「……それで?」

 「……現在凛さんあなたの自宅にあなたとご両親以外の何者かの存在がいます」

 前回と異なって困惑よりも警戒が強い凛さんの態度に内心驚きながら続ける。

 「じゃあ、まずは警察手帳を拝見出来ますか?それとこのような捜査を行うには相応な書類があるはずですが」

 「……これを」

 前回と同様に生徒手帳を差し出す。

 「………………」

 「あの?」

 「……何が目的なの?」

 「それは凛さんを助けることです!」

 僕は前回の経験を踏まえてより一層強まった思いを口にする。

 「そう」

 凛さんはそう呟いて生徒手帳を僕に返す。

 「お引き取りいただくわ」

 「……え?」

 僕は思わず素っ頓狂な声を出してしまう。前回と同じように接したはずだ。

 「ま、待ってください!どうして信じてもらえなかったんですか?」

 「言わないと分からないかしら?」

 「それは……」

 完全な敵意を向けられて言葉が止まる。

 「まあ、一応心当たりが無いわけでもないし調べてはみるわよ」

 「そ、それなら僕も手伝います!」

 「……結構よ」

 凛さんは少し間を空けてそう言うと足早に家に戻っていった。


 「何がダメだったんだ?」

 家に戻ってベットに横になりながら空中に向かってそう漏らす。

 元々成功しちゃいけない気もするが一回目は成功した。

 「次は……どう……し……よう――」

 ベットに横になると傀儡死事件以降全く寝ていないことを思い出して急激な睡魔に襲われる。

 というかここ最近はろくに寝れていない。どんなに寝ようとしても僕の頭はそれを許さない。

 「それはねぇ、今まさに達成されたよ!そう!その顔が見たかったのぉ」

 この夢を見るのは何度目だろうか?

 いや、この現実を見るのは何度目だろうか?

 この現実を見るたびに僕の生きたいという想いを奪っていく。

 はたして〈重力の勇者〉を殺した僕は僕といえるのだろうか?

 結局のところこの道を進んだ結果僕が得てしまう答えは無能(ぼく)の否定になるのだから。

 「……はぁ、最悪の目覚めだな」

 僕はそう呟いて汗まみれの身体を起こす。

 〈セーブ&ロード〉を使ってみて分かったことは結構メンタルにくる能力ということだ。

 準備が完全に整うまでは物理的にも精神的にもかなり痛いことをしないといけない。

 「今になって考えると一か月間やりきるのって凄――」

 待てよ?一か月やりきるのもだが僕が無能であることを調べたり西念さんの過去を調べたりするのにいったいどれだけの時間を――

 「……狂ってるな」

 今の僕の現状を考えると途方もない時間だろう。

 「ってそんなことはどうでも――」

 雪野愛華が費やした時間はどうでもいいが僕に向けた仕草に引っかかるのを覚える。

 雪野愛華が僕に向けた表情があまりにもリアルで疑いを持つことが許されないそんな幻だった。

 「……そういうことか」

 一回目と二回目の違いはリアリティだ。

 カウンセリングを受けた時にも感じたことだが一回目以降は面白みの無い作業のように感じてしまう。それが相手に伝わってしまったのだろう。

 「一回目は成功しているんだ余計なことはしないで全く同じようにやればいいんだ」

 目が覚めた僕はキッチンに向かう。

 「慣れておいた方がいいよな」

 僕はそう呟いて自分自身に包丁を何度も突き刺すと再び自室に戻る。

 「さてと行くか」

 僕はズキズキ痛む身体を起こして再び凛さんの家に向かう。

 そして見え見えな下手な演技で一回目を再現した。

 

 「凛さん、どうして僕を家に入れてくれたのか聞いていいですか?」

 再び家に入れてもらった僕は風呂場に着く前にそう尋ねる。

 「私にも一応心当たりが無いわけでもなかったのよ」

 「心当たりですか?」

 「家の中なのに誰かの視線を感じたり寝ている時に足音が聞こえたり……変な手紙が届いたり物が消えたりしてたの」

 なるほど二回目の時に言っていたのはそういうことか。

 「それなら僕を家に入れない方が――」

 そう言いかけて言葉を止める。視界に映る凛さんの表情はリアリティがあったからだ。

 当然のことだが得体の知れない不審者がいる家に一人は怖いだろう。

 「あなたはボロが多すぎるしただの高校生にしか思えないからよ。それにチョーカーも付けてるし」

 「高校生にしか見えない……か」

 似たような言葉を傀儡殺人鬼にも言われたな。

 「……なるほどそういうことか」

 「どういうこと?」

 「えっと、凛さんは僕に持った第一印象ってどんな感じでした?」

 最後のダメ押しで聞いてみる。

 「変な……いや、不気味な人が来たなって感じかしら」

 やっぱりそうだ、凛さんが僕を家に入れた理由は一人が怖いってのもあるが僕の間抜けさに安心感を覚えたのだろう。

 逆に傀儡殺人鬼は見た目に反した僕の異質さに一種の恐怖が生まれて警戒したのだ、だが僕の焦りや恐れた様子を見て安心して攻撃してきたのだろう。

 「ところで出雲君、ここあり得ると思う?」

 「怪しいですよね」

 問題の風呂場まで来た僕は再びカメラを凛さんに差し出す。

 「一応確認しておこうかしら」

 「止めておきません?」

 どんな写真かは知らないがこの中身を見た凛さんの取り乱しは尋常じゃなかった。

 「……そうね、知らぬが仏って言葉もあるぐらい――」

 「パキン!パキン!パキン!パキン!パキン!」

 一回目と同じようにマキビシが弾ける音がすると緊張感が走る。

 「……近づいて来てるわね」

 「凛さんはここにいてください!」

 「ちょっと!出雲君!?」

 僕は再び凛さんの声を無視して廊下に出る。

 「カメラは……いらないな」

 今回僕は両手を自由にした状態でキッチンへと向かう。

 そして僕の腹部へと一直線に向かう包丁を今度は余裕を持って止める。

 「なっ!!」

 心底驚いた声が上がるのと同様に手首が曲がらない方に押し込んで包丁を地面に落とす。

 「よっと」

 僕は大きく後ろに飛んで持ってきたプラスチックの水筒のオレンジジュースをぶちまける。

 「これで〈透明化〉は意味ないな」

 僕は小太りのシルエットに向かってそう言いながら構える。

 「……ガ、ガキがぁ!!」

 単純で真っ直ぐの動きで向かってくる包丁を前足を軸に身体を開きながら避けて相手の流れた身体に向かって膝蹴りを入れる。

 「がはっ!」

 苦悶な声を出して前屈みになったところを首に腕を回して全力で締め上げる。

 「ぐ……ぁあ」

 掠れた声が出たと思うと腕にかかる重量が重くなる。

 「……自分だけ透明にするんだったな」

 〈透明化〉が気絶するとその姿が文字通り丸裸になった。

 「出雲君!大丈夫!?」」

 そんな鬼気迫る凛さんの声が聞こえるとすぐに氷でガチガチに武装した凛さんが現れた。

 「……どうゆう状況かしら?」

 「倒したら〈透明化〉が解除されたみたいで」

 ジッとした目を向ける凛さんそう答える。

 「この男は包丁を使ったのね」

 「動きも素人で真っ直ぐに突っ込んで来たのでなんとか返り討ちにできました」

 僕は心臓の部分を抑えながらそう答える。

 「水溜りになっているのはオレンジジュースかしら?」

 「ごめんなさい。姿が見えなくてつい」

 「家にオレンジジュースは無いのだけど出雲君が持ってきたものよね?」

 「そうですね念のため」

 どうやら凛さんは僕を警戒しているらしい。

 確かに無傷で〈透明化〉を倒すのは出来過ぎか。

 「まあいいわ、何で飛び出していったのか分からなかったけれど腕っぷしに自身があったってことにしておくわ」

 凛さんはそう言って一息つくと電話をかけ始める。

 電話をかけた先は恐らく警察だろう、これは至極当然の行動だが僕にとって少し困る。

 「すぐに警察の方が来てくれるわ出雲君」

 凛さんはそう言うと頭にかぶっていたヘルメットを外して頭を下げる。

 「それと助けてくれてありがとう」

 「いえ、僕が勝手にやったことですので」

 僕はそう言いながら凛さんとの距離を一歩詰める。

 「そういえば凛さん、この人と面識はありますか?」

 僕はうつ伏せで気絶している〈透明化〉を指差す。

 「少なくとも心当たりは無いわね」

 「顔を見てみます?」

 「……そうね見てみましょうか」

 凛さん少しの沈黙の後そう答えてこちらに近づいてくる。

 「直接は触りたくないわね」

 嫌悪感を示す凛さんは氷で何かを作って試行錯誤をし始める。

 そして僕はゆっくりと凛さんの背後に回り込む。

 「……ボコ!」

 僕が後ろから凛さんに当て身をすると視界が落下して暗転すると次に視界に映ったのは自分の部屋だった。



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