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「ほう、珍しい」

声がした。

「ゴーレムのようですな」

別の声がした。


「直せるか?」

「技師なら、或いは」

「では技師を探してくれ」

「御意」



「起動しました」

声がした。

視界がない。

声だけだ。

「聞こえるか?」

「いえ、まだ目も声帯も起動しておりませぬゆえ、答える事はできませぬ」

「そうか」

声が落胆したようだった。



視界が広がった。

眼球が起動したようだ。

「どうだ?」

「恐らく見えておりましょう」

目の前には、黒衣の男と太った男がいた。

黒衣の男は痩せてガリガリで、まるで骸骨のようだ。

太った男はダグザによく似た雰囲気だ。

ドワーフ族なのかもしれない。

「見えるか?」

黒衣の男が聞いた。

私はうなずいた。

「見えてるようですな」

太った男が言った。

「ということは聞こえてもいるのだな」

黒衣の男は満足気にうなずく。

「まだ身体を修復している所だ、安静にしておれ」

「声帯も作っている所だ」

ドワーフが言う。

私は再びうなずいた。


周囲を見回すと、作業台の上に私が寝かされており、身体が修復されている様子だった。

修復作業をしているのはドワーフだろう。

黒衣の男は何をしているのだろう。


「声を出してみろ」

ドワーフが言った。

「あなたがたは何者です?」

私は聞いた。

「オレはウピル」

「ワシはヌアダじゃ」

黒衣の男とドワーフは答えた。

「オレは……そうだな、魔族の守り神みたいなもんだ」

黒衣の男は言った。

「ワシは技師じゃ、ドワーフ族のな」

ヌアダは言いながらも作業の手は止めない。

テキパキと修復作業をこなしてゆく。

「前に私を直したのもドワーフ族の技師でした」

「前?」

私が言うと、ウピルが聞いた。

「最初に私を作ったのは組織の人間です」

「暗殺者集団だな」

ウピルはうなずく。

「その制作者、私はマスターと呼んでいましたが、マスターは死にました」

「殺されたのか」

「分りません。組織は私を壊しにかかりました」

「証拠隠滅か」

ウピルは訳知り顔だ。

「一度は壊されたのですが、その後、ダグザが私を直しました」

「お前と一緒に死んでいたドワーフか」

ウピルが思い出したように言った。

「そうです。ダグザは死にました」

私が言うと、

「残念だ」

ヌアダは一言だけ。

顔色は一切変わらない。


「では、オレたちがお前を直したらまた暗殺者集団が狙ってくるという訳だな」

ウピルが肩をすくめる。

「そうなっても返り討ちにできるようにしないとな」

「上質の魔石が多数と刻印の掘り手が要りまする」

ヌアダが言った。

「オレの立場を利用して集めろと?」

「そう言ったつもりでしたが?」

ウピルとヌアダが顔を見合わせる。

「なぜ、私を直すのです?」

私は聞いてみた。

当然の疑問。

……何の得があってそんなことをするのだろう。


「なぜ、か……」

ウピルはチラと私を見た。

「暇つぶしだな」

「……」

私はなんと反応して良いか分らなかった。

思考ルーチンがまだまだ増設不足なのだろう。

「それはどういう意味ですか?」

「そのままの意味だ」

ウピルは難しい顔をしている。

「分りません」

「オレは魔族の守り神みたいな存在だ。

 毎日毎日、参拝客と面会、魔族の幹部連中と会議、有力貴族と晩餐会、

 参拝客と面会、幹部連中と会議、貴族と晩餐会、

 面会、会議、晩餐会、

 面会、会議、晩餐会、

 面会、会議、晩餐会、

 ……もう飽き飽きなんだ」

ウピルは頭を抱えて喚き散らした。

「かれこれ1000年は繰り返したかな。魔王が入れ替わり立ち替わり変わっていったよ」

「ルーチンワークですね」

私は言ったが、

「……」

ウピルはお気に召さなかったらしい。

眉間に皺が寄っている。

「だが、お前を見つけた。面白い事を始めるにはいい」

「私にはよく分りません」

私は困惑していた。

やはり思考ルーチンが不足しているのだろう。

「分らなくていい。オレは暇つぶしができればそれでいい」

「魔石を増設すると言ってましたね」

私は気になっていた事を聞いてみた。


魔石が増えれば記憶容量が増える。

またマナの量も大幅増加するはずだ。

今まで使えなかった属性効果も使えるようになるかもしれない。


「まあな、お前に死なれちゃ困るからな」

「魔族の守り神の立場であれば、私を助けることなどたやすいのではないですか?」

「そうもいかない」

ウピルは頭を振った。

「暗殺組織と言えど社会の一部だ。オレが直接何かをして社会を乱す訳にはいかない」

「だから、お前さん自身を強化する」

ヌアダが言った。

「どんな敵にも負けんようにな」

「二度、壊されました」

私は事実を述べた。

「三度目はない」

ヌアダが唸るように言った。

「ワシがそうはさせん。ドワーフの意地を見せてやる」



果たして、暗殺組織は壊滅した。

私が潰した。

三度目の戦いで、皆殺しに処した。


ヌアダの腕前はダグザと同等に素晴らしかったのだ。

対魔法防御、対物理防御、魔力増幅による刻印効果の増加。

そして何より、魔石の増設による記憶容量の増加。

思考ルーチンが大幅に増設できた事により、柔軟な対応が可能になっていた。

予測が外れてもそれを補う。

応用変化だ。


「ヤツらを全滅させたようだな」

ウピルが言った。

噂を聞いたのか、私を訪ねに街へ来たらしい。

「はい、ウピル様」

私はうなずいた。

悲願である組織壊滅は達成した。

これでダグザの仇を取った。

定宿にしている酒場の2階の個室である。

テーブルを挟んで椅子に座っている。

「ヌアダもさぞかし鼻が高いだろうな」

「ヌアダ殿にも感謝のしようがありません」

「時に、ドーラよ」

ウピルは話を切り出した。

「そなた、魔王候補になっては見ぬか?」

「はあ、そのような事は考えたこともありません」

私は困惑した。

この方は、いつも私を困惑させる。

「別に本当にならずとも良い」

「また暇つぶしですか?」

私は聞いた。

「うむ、まあそうだ」

ウピルは悪びれもしない。


話はこうだ。

ウピルを始めとする魔族の守り神は4人。

エンプーサ、ヴルコラク、ヴァラコルキ、そしてウピル。


4人は魔族を見守っている。

魔王が健在であれば、その要望に応じて助力をしたりする。


まあ、そのほとんどが相談で終わるらしいが。

現在の魔族たちは人族との交流が多くなり、大きな戦も減っていることから何もすることがない。

平和になったといえる。


魔王が退位すれば、新たな魔王を決めなければならない。

その場合、4人の守り神はそれぞれ1人ずつ、魔王候補を推薦する事になっている。

次期魔王を決めるために試験が催され、4人の中から1人が選抜される。

もし選抜されなくとも、だいたいが魔王としてふさわしい者たちなので、魔王府の要職に就くことになる。


ということは、候補になった瞬間、私は何かしらの要職へ就くことが決定する訳だ。


「いえ、そういうものに興味はありません」

私は正直に言った。


噂によると、エンプーサ以外の守り神はウピルと同じようにその地位に飽きているらしい。

娯楽に飢えているとも言える。

そんな者たちが、まともな候補を選ぶだろうか。

いや、それどころかまともな試験を課すだろうか。


「そう言うと思った。だが、候補がいないんだ。儀式だと思って参加してくれないか?」

ウピルは食い下がる。

その素振りや表情から、ウソはないように思えた。

「……ウピル様がお望みならば」

私は少し迷ったが、承諾した。

「うむ、ホントはお前が望んで参加してくれるといいんだがな」

ウピルはうなずく。

「承諾してくれるなら、多くは望むまい」


そういうことで、私は魔王候補になってしまった。



私はウピルの住処に移住した。

ウピルは、魔族の領域の首都ドラグナに館を構えていた。

館の一室を借りているが、メンテナンスが要るのでヌアダのラボで過ごすことが多い。


「まずは仲間を集めるべきじゃな」

ヌアダは、私の動作チェックをしながら言った。

「仲間?」

「そうじゃ、1人では選抜に勝ち抜けられぬじゃろ」

「ウピル様は勝たなくてもいいと言ってました」

私は言った。

記憶の中にある言葉を抜き出す。

「生き残るためじゃよ、お主は戦闘力は高いが、1人ではいかん」

ヌアダは頭を振る。

「物量や戦術戦法には敵わないという事でしょうか?」

「そう、弱点を補うためにはチームが必要じゃ」

ヌアダは言って、ポンと私の背中を叩く。

「完了じゃ」

メンテナンスが終わった。

「ありがとう」

「なんの」

私は礼を言ってラボを出た。


ドラグナには、何でも屋の仕事を斡旋する場所が多く存在する。

一種のギルドと言ってもいい。

既に登録は済んでいる。

私は、斡旋所に足を運んで仲間を探すことにした。


斡旋所とは結局のところ、酒場だ。

酒場に足を踏み入れると、


サッ


皆が私の方をみた。

一瞬だけ。

すぐに興味をなくしたように向き直る。

私は外見は普通の女だからな。


「何か用か?」

カウンターの方へ行くと、緑色の肌の禿頭の男が話しかけてくる。

店主だろう。

「ええ、仲間を探している」

私は答えた。

「仲間かい、どんなヤツが良いんだ?」

「……」

私は一瞬、言葉に詰まった。

問われてから、どんな仲間が欲しいか考えてない事に気付いたのだった。

「補助に長けた者」

少し考えた後、私は答えた。

「補助魔法の使い手か、ちょっと待ってろ」

店主はカウンターから出て、昼間から酒を飲んでいる客たちの方へ行った。

何人かに声を掛けている。

その後、店主は1人の少女を連れてきた。

頭に2本の角と細い尻尾が生えている。

角と尻尾は牛に似た形をしていた。

悪魔族らしい。

「こいつはミラだ」

「どうも」

ミラと呼ばれた少女は会釈をした。

警戒している様子だ。

今すぐ旅に出られる格好だ。

何でも屋稼業なら当然なのだろう。

私のような普段着の方が場違いなのだ。

「ミラは補助魔法の使い手だ」

店主は言った。

「うん、まあね」

ミラはうなずく。

「戦闘補助、幻覚・幻術、移動魔法などなど。色々と、ね。

 だけど、攻撃魔法ばっか人気でさ」

「いや、私が欲しいのは補助魔法です」

私は言った。

「私は戦闘力はある。でも、戦闘以外の事ができない」

「ふーん、自信あるんだね」

ミラは半信半疑といった様子だ。

「ある人に言われた、強いだけでは生き残れないと」

「良い事いうじゃねぇか、そいつ」

店主が笑った。

私とミラのやりとりが面白かったのだろう。

「ふん、商売的に都合良いだけだろ」

「そういうこと」

ミラが言うと店主はまた笑った。

「じゃあな、用があれば呼んでくれよ」

そしてカウンターの方へ戻ってゆく。

「ま、席に座って打ち合わせしようか」

ミラは返事も聞かずに席の方へ行った。

私は仕方なくついてゆく。


ミラは適当に飲み物などを頼んだ。

私は物を食べないが、食べた振りをすることはできる。

胃の中の物は後で取り出す。

「あんた、何でも屋として仕事してんの?」

ミラはビールを飲みながら聞いてきた。

質問をするのが好きらしい。

「スドーの街で仕事をしていた」

「へえ……あそこネズミが大量発生してたらしいね」

「そう、ネズミ駆除の仕事もした」

私は言った。

ダグザの死に様が思い出された。

こんな辛い記憶は思い出したくない。

……辛い?


「ネズミ駆除とかやりたくないわー」

ミラは顔をしかめる。

「ミラはいつもどんな仕事を?」

「……はあ」

私が聞くと、ミラはため息をついた。

「さっきも言ったけど、魔法使いは攻撃魔法ばかりもてはやされてね。

 何度か仕事をしたけどすぐにお払い箱さ」

「それは大変だったな」

私は語彙力がない。

空気も読めない。

慰めるのは苦手だ。

「いいさ、こうやってあんたと知り合ったし」

「今後ともよろしく」

「うん」

ミラはそう言って、マグカップを掲げた。

「……?」

「えーと、そっちもカップを持って」

「こうか?」

「そうそう、乾杯」

ミラはカップを打ち付けた。

何かの儀式のようだ。


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