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第84話 吊るされる

 さっき淳也に言われたことを二人に説明すると、雪宮は神妙な顔つきで思案し、黒月はあちゃーと口をあんぐりした。



「なるほど~……それは大変なことになったね」

「黒月さんの言う通りよ。これは非常にまずい状況になったわ」

「そんな大袈裟な」



 二人の言葉に思わず苦笑い。

 だってどう考えても、ただの文化祭のただの出し物だ。そんな深刻な顔をする理由がない。

 が、黒月が首を横に振った。



「それが、大袈裟でもないんだよ。はづきち、うちが白峰女子高校だったってこと、忘れてない?」

「忘れるはずないだろ。今や俺だって通ってるんだし」

「……ごめん、言い直すね。名門の、お嬢様たちが通う、学校、なんだよ」



 …………あ。



「まさか……メイドとか執事が家にいる子がいる、とか……?」

「いるどころか、クラスの半分はそういう家じゃないかな。ウチの家はさすがにいないけど」

「私の家もいないわ。お手伝いさんや、教育係の人はいるけどね」



 普通の家にはお手伝いさんや教育係とかすらいないんだが!? それなのに、メイドと執事がいるご家庭が半数もいんのかよ!?



「それに文化祭は、外からのお客さんも多いでしょ? 他校のお嬢様やご子息とか、来年ここを受験しようと思ってる中学生お嬢様とか、大人の資産家や社長が来るんだよ。そんなところで下手な接客をすると……」

「す、すると……?」






「吊るされる」






 怖いんだが!?!?



「どどどどうしようっ!? 今からでも変えた方がいいんじゃねーかな!?」

「もう無理よ。諦めなさい」

「ありがとう、はづきち。今まで楽しかったよ」



 顔を背ける雪宮と、ほろりと涙を拭う黒月を見て……ふと違和感を覚えた。



「おい……それ、冗談だろ」

「「バレた?」」



 クソがッッッッッッ……!!



「お、おまっ、お前らっ、言っていい冗談と悪い冗談があるぞっ。本気にしただろ……!」

「ぬへへ、ごめんねはづきち。リアクションが面白くて、つい♡」

「八ツ橋くん、反応がいいんですもの」



 この野郎……すっかり騙された。

 安堵のため息をついていると、雪宮が「けど」と続きを話す。



「外から来るお客さんの中には、有名な方が多いのは確かよ。下手なことをすると、白峰高校の評判が下がることは免れないわね」

「……それはそれでまずいのでは?」

「だから言ったじゃない。大変だって」



 ちくしょうそっちは冗談じゃないのかよ!



「どどどど、どうしようっ? どうすればいい……!?」

「ふむ……仕方ないわね。一先ず明日、明後日まで待ちなさい。メイドのいる子に掛け合って――」

「その必要はありませんよ、雪宮会長」



 え?

 突然の声に俺たちが振り向くと、そこにはいつの間にか女子生徒が立っていた。



「あ……春風、さん?」

「ふふ。どうも~、八ツ橋様」



 なんと、俺とスタンプラリーの持ち場が一緒になった、春風笑美(はるかぜえみ)さんだった。

 春風さんの登場に、黒月が目を輝かせて近付いた。



「笑美ちゃんだっ。どうしたの? 今日会議ないのに」

「校外学習のレポートを生徒会室で終わらせてしまおうと思いまして」

「そうだったんだ。ごめんね、邪魔だったよね」



 二人がキャイキャイ話しているのを横目に、雪宮に小声で話し掛けた。



「わかってると思うけど、春風さんは俺たちの関係を知っているんだ。黒月にバレないように、注意しろよ」

「わかってるわよ」



 雪宮は肩を竦め、春風さんの方を向いた。



「こんにちは、春風会計。もしかしてさっきの話、聞いていたのかしら?」

「こんにちは、雪宮会長。不躾ながら、聞かせていただきました。会長は八ツ橋様のメイドスキルを高めるために、メイドのいる方の力を借りようと考えていらっしゃるのですよね?」

「……その通りよ」



 え、そうなの? それってメイド研修を受けるってこと……か?

 まあ確かに、今の話を聞いたら下手なふるまいはできないし……受けておいた方がいいのかもしれない。



「それでしたら、私にお任せください。幸いにもうちにはメイドがいますので、過不足なく教育できると思います」

「ふむ……いいわ。春風会計、お願いできるかしら」

「はい、お任せください」



 春風さんの提案は、願ったり叶ったりだ。断る理由はないだろう。でも、一つ問題がある。



「春風さん。うちのクラスで女装メイドをする男なんだが、俺を含めて10人もいるんだ。そいつらも一緒に研修を受けた方がいいと思うんだが、どうだ?」

「そうですね。放課後にメイドを派遣いたしますので、教室で研修を行いましょう。時間的に3時間ほどしかできませんが、そこは気合で覚えていただくしかありません」

「ありがとう、春風さん。助かるよ」

「ふふ。お礼はまた後日、考えておきますね」

「お、お手柔らかに……」



 この人には、雪宮との関係もバレているんだ。そのことをネタに、変なことを要求されなきゃいいけど。

 それにしても、なんか部活みたいなことになって来た。俺、家が家だから部活とか所属したことなかったんだよ。こういうの、ちょっと楽しみだ。

 その時。黒月が俺たちを交互に見て急に雪宮の手を取り、一緒に手を挙げた。



「あ、あのっ。ウチらもそれ、参加したいんだけどっ」

「ちょ、黒月さん……!?」



 え、雪宮と黒月も?



「ほら、ウチと氷花ちゃんのクラスも喫茶店だしさ。接客のいろはを覚えておいた方がいいと思って。ね、氷花ちゃん?」

「た、確かにそうだけど……」

「決定! 笑美ちゃん、お願い!」



 黒月が手を合わせると、春風さんが口元を手で隠して可愛らしく笑った。



「ふふ。ええ、もちろん。一緒に頑張りましょう」

「う、うんっ。よろしくお願いします……!」

「ちょっと、私はまだやるなんて……」

「いいじゃん。頑張ろうよ、氷花ちゃんっ」



 女の子三人が、いちゃつきながら盛り上がっているのを傍目に見る俺。蚊帳の外過ぎて泣ける。

 はぁ……まあ、せっかくの文化祭だ。やるなら徹底的に楽しまないとな。

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