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【第2巻発売中】ツンな女神様と、誰にも言えない秘密の関係。  作者: 赤金武蔵
初めてのイベントはトキメキと共に
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第74話 ちっぽけな悩み

 慌てて談話室を出て、俺たちは別の部屋に移動した。

 美乃さんはいない。どうやらもう外に出たみたいだ。

 あぁ〜……まさかこんなことで叫び散らかすとは。



「悪い、雪宮。変な感じにしちまって……」

「…………」

「……雪宮?」



 おかしい、雪宮からの反応がない。

 隣に立つ雪宮の顔を覗き込む。

 ……なんだか、ぼーっとしてる。心ここに在らず、みたいな感じだ。



「雪宮、大丈夫か?」

「……ふぇ……? ……ぅん……」



 まるで熱に浮かされたような顔だ。顔は真っ赤だし、目は少し潤んでる。

 余程、美乃さんのことがトラウマらしいな……。



「……海、行くか。レポート用の題材は大体見終わっただろ」

「……海?」

「ああ。近いし、気分転換になるだろ」

「そ、そぅ……ね……」



 まだ歯切れが悪い。モジモジしてるし。

 前に雪宮が帰省した時もそうだったけど、美乃さんと会うと雪宮の様子が変になるな。

 とりあえず、雪宮と一緒に館内を出る。

 大人しく着いてくる雪宮だが、まだ落ち着かないみたいだ。



「雪宮、本当に大丈夫か?」

「だ、大丈夫、だけど……手……」

「手? ……あ」



 やべ、ずっと手を握ったままだった……!

 何やってるんだ俺は。そりゃあ、雪宮も気まずいだろ……!



「す、すまんっ」

「ううん、大丈夫よ。……大丈夫、大丈夫、大丈夫……」



 握られていた手を擦り、気持ちを落ち着かせるように何かを呟く雪宮。

 俺も何となく気まずくなり、雪宮から顔を逸らした。



「えっと……とにかく、行くか」

「え、ええ。……行きましょうか」



 雪宮の歩幅に合わせて、由比ヶ浜海岸へ向かう。

 互いに無言だ。いつもはこの無言が心地よく感じるけど……なんとなく、今は何か話さなきゃって気にさせられる。

 けど、何を話せばいいのやら。

 美乃さんの件をほじくり返しても、また雪宮を傷付けることになりかねないし。

 内容と言葉を選んで話しかけないと……。

 そう考えていると、先に雪宮が口を開いた。



「……さっきのことだけど……」

「さっき?」

「美乃さんに、食ってかかったときよ」



 ……よりによって、それを蒸し返すか。

 あれにはあまり触れてほしくないんだよな。今考えても恥ずかしい。



「あ、あれは勢いというか、なんというか……俺が我慢できなかったからでだな」

「わかってるわ。別に責めるつもりはないの。……まあ、場所は考えてほしかったけど」



 言葉もありません。本当、その通りっす。

 あまりのバツの悪さに顔を背けると、服の裾が僅かに引っ張られた。

 他でもない、雪宮だ。



「……ありがとう、庇ってくれて」

「……約束したからな。俺だけは絶対に、お前の味方だって」



 まさか、こんな形で果たすことになるとは思わなかったけど。

 世間体は大事だ。それはガキの俺でもわかる。

 けど、そんなもので雪宮の人生を勝手に縛るなと言いたい。あと一時間くらい、正座させてこんこんと説教したい。

 それほど、あの言葉は本心だ。



「それって、ずっと?」

「ああ。ずっとだ」

「この先も?」

「この先も」

「何があっても?」

「しつこいな……ああ。ずっとずっと、この先何があっても、俺は絶対にお前の味方だから」

「……ふーん……」



 雪宮の裾を握る力が、少し強くなった。



「……ずるい人」

「え、今の言葉のどこにずるい要素が?」

「そういうところよ」



 ……どういうところ?

 聞こうとする前に、雪宮は俺の服を離す。

 直後、見渡す限りの海とビーチが目に飛び込んできた。



「海だ」

「見たまんまじゃない」

「それ以上もそれ以下もないからな」



 これが夏なら飛び込みたい欲求に駆られただろうけど、まだ海に入るには寒すぎる。

 まあ……とーーーくに見える馬鹿どもは、足だけ海につけてるけど。



「ねえ、八ツ橋くん。海を見ると、自分の悩みなんてちっぽけに思える、なんて言葉あるでしょ?」

「ああ、あるな。どうした、ちっぽけにでも思ったか?」

「いえ。私、あの言葉嫌いなの」



 嫌いなのかよ。



「私の気持ちも知らずにちっぽけとか言うんじゃないって、ずっと思ってた。正直、今でも思ってるわ」

「あ〜……わかるかも。気持ちのデカさを押し付けんなって感じだよな」

「ふふ、その通りよ」



 波打ち際までやって来ると、雪宮は眩しく輝く地平線へ目を向け、にこやかに微笑んだ。



「でも……海を見るのは、好きよ」

「……そうか」



 それしか返せなかった。我ながら、気が利かないと思う。

 けど……俺と雪宮の間にはそれ以上の言葉なんかいらない。

 そんな関係が、できあがっていた。

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