第65話 校外学習・前日
◆◆◆
「待ってたぜ、この時をよォ!」
「うっせぇ」
パンチくらえ。
「ほべっ!?」
結構いいパンチが入り、淳也が吹き飛んだ。
なんかすまん。でもお前が悪い。
「何しやがる!」
「うっせ。なんでそんなテンション高いんだよ」
「なんで? はぁ? はあぁぁん? マジで言ってんのかお前!」
腹立つなその顔面。
「おま、明日を考えろ! ついに! 待ちに待った! 週末! 校外学習だるぉ!?」
「……あ、そっか」
そういや明日だった。忘れてた。
だから今朝の雪宮も、ちょっとそわそわしてたのか。
確かに鎌倉・湘南って、行こうと思わない限り行かないもんな。
淳也は謎の決めポーズで「イエス!」と俺に向けて指さしてきた。人を指さすんじゃねぇ。
「もうね、いっつも囚われの身のように勉強勉強勉強……飽き飽きしてたんだよ、俺は!」
「よくそれを教室のど真ん中で言えるな、お前は」
見ろよ周りを。女子たちがすげー形相でお前のこと睨んでんじゃん。
しかも俺まで睨まれてるし。俺関係ないよね?
「高校生活は一度切りだ! 高校生の青春は一度切り! 立ち上がれ、青春を謳歌せし者ども! いざ鎌倉!」
「「「いえーい! 青春! 青春! 青春!」」」
淳也の掛け声に集まる男子ども。
そっと輪から抜けて、みんなの写真を撮る。
一緒に騒ぐほどでもないが、こういうのを写真に収めるのも青春の一ページだよな。
ふと教室を見渡すと、女子たちの中にも何人か羨ましそうな目であいつらを見ていた。
これは……いい傾向かもしれない。
今までお嬢様らしくとか、勉強を主にとか考えていた女子たちが、騒ぎたい欲を駆り立てられている気がする。
統合して一ヶ月弱。ようやく、男女が仲良くなるきっかけができたかもしれないな。
あとは、どうやって女子たちのハメを外させるかだが……それはおいおいでいいだろう。
もしかしたら、この校外学習でもう一歩先に行けるかもしれない。
まあ、俺はこいつらには同行できないから、どうなるかはこいつら次第だけどな。
「相変わらず、あなたのクラスは賑やかね。八ツ橋生徒会長」
「ん? あ、雪宮」
いつの間にか教室に入ってきていた雪宮が、俺の隣にいた。
「どうかしたのか? うちのクラスに何か用?」
「ええ。ちょっとあなたにね。でも……やっぱり後でいいわ」
「ん、そうか」
珍しい。雪宮なら教室に来る前にやめとこうって考えるはずなのに。
結構一緒にいるけど、いまだに雪宮の考えてることがわからない。
……あ、そうだ。
スマホのカメラを雪宮に向けると、動画撮影を開始した。
「……なんのつもり? 学校でスマホの使用は厳禁よ」
「まあいいじゃん。ほれ、雪宮。明日への意気込みをどうぞ」
「そ、そんなこと、突然言われても……」
とか言いつつカメラを意識してるのか、前髪を忙しなく整えている雪宮。
そんな意識しなくても、普通に答えてくれるだけでいいんだけど。
「そうね……楽しみよ。これだけ大規模で行う校外学習も初めてだし、心配でもあるけど……うん、すごく楽しみ」
「お前がそこまで断言するって珍しいな。どんだけ楽しみなんだ」
「悪かったわね。来年にはこういったイベントごとには参加できないし、今年しかできないことは今年楽しみたいの」
おぉ……あの雪宮からそんな言葉を聞くなんて。
明日は雨か? ……なんてな。
「それに午後には……」
「え? 何か言ったか?」
「なんでもないわ。そろそろしまいなさい。先生、来るわよ」
それだけ言い残し、雪宮は自分の教室へと戻っていった。
本当、何しに来たんだあいつは。
「ねえ、雪宮会長って……」
「いや、そんなまさか……?」
「でも今の反応を見た感じ、そうとしか……」
「うーん……?」
と、俺たちの様子を見ていた女子たちがこそこそ何かを話している。
なんなんだ、いったい……? 俺にはわからなくて、女子にはわかることなのか?
なんか悔しいような。俺の方が雪宮と一緒にいるはずなのに。
スマホをポケットにしまうと、チャイムが鳴ったと同時に先生が入ってきて、騒いでいる男子たちが厳重注意されていた。
てかまだ騒いでたのか、お前ら。
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