第61話 不穏なメッセージ
◆
「勉強つらい。むり。まぢむり」
「ちに濁点付けるな」
勉強会を初めて三日がすぎ、ついに淳也が音を上げた。
むしろ今までよく頑張ってこれたな。三日とはいえ。
正直、もっと早く音を上げるかと思った。淳也って勉強嫌いだからなぁ。
淳也は机に突っ伏し、ゴンゴンと頭をぶつける。
「やめろ。机が不憫だ」
「机より俺の頭の心配してくんない?」
「……頭、大丈夫か?」
「他意を感じる」
「他意しか言ってない」
「泣いた」
うわ、ガチ泣きすんな。引く。
鼻をかんだ淳也は、「でもよ~」と口を開いた。
「ふざけないとやってらんないって。わかるだろ?」
「俺は最近、普通に授業にもついていけるから問題ないけど」
「世の中お前みたいに、ずっと雪宮さんと勉強してるやつだけじゃねーんだよ……!」
それを言うな。俺だって、なんでこんな関係がずっと続いてるのかわからないんだからさ。
「あーあ。俺もずっと雪宮さんに勉強見てもらってたらなぁ……」
「一週間で絶対逃げ出すに一万円」
「は? 俺を舐めるなよ。三日ももたんわ」
「なんで自信満々なんだこいつ……」
ずっと勉強見てもらうとか、それこそ無理な話じゃん。
まあ、俺も最初はそんな感じだったけど。でも勉強する場所が俺の家だから、絶対逃げられないし……仕方なかったんだ、うん。
「とにかく、中間試験は二週間後だろ。その前には校外学習があるんだし、ずっと勉強詰めってわけでもないんだ。気晴らしにはなるだろう」
「気晴らしって……俺、今回のテストの点が悪かったら、バイト辞めさせられるんだけど。むしろそっちが不安すぎて、校外学習とか楽しめないって……」
「いや、お前は絶対楽しめる」
「何を根拠に」
「お前が水瀬淳也だから」
「何その雑な根拠。でも、確かになんだかんだ言ってめちゃめちゃ遊びそう」
だってこいつ、黒羽の時も似たような感じでテスト期間中めちゃめちゃ遊んでたじゃん。
しかも、なんだかんだ言って普通に平均点以上取ってたし。
だから今回も大丈夫だろう。多分。
ダメだったら、諦めるしかない。
淳也もそれはわかっているのか、深々とため息をついた。
「いやぁ~……でもできる限り頑張んないとなぁ。雪宮さんと黒月さんの時間も取ってるわけだし」
「おい、俺は?」
「葉月はいつも通りだろ」
「……それもそっか」
なんだかんだ、淳也がいつも泣きついてくるのって俺だし。
でも俺の時間を取ってることにも少しは罪悪感を持ってくれ。今更だけど。
「ま、勉強はやるしかないとして……あと三日で校外学習だけど、淳也のグループはどこ行くか決めたのか?」
「まーな。で、葉月はどこのスタンプポイントにいるんだ?」
「それは言えない。言ったら、お前来るだろ」
「おう。冷やかしに」
「そういう馬鹿が集まるから、絶対言わん」
「馬鹿って俺のこと?」
「…………」
「おいコラ」
ノーコメントで。
淳也からのじとーっとした視線を無視して授業の準備をしていると、ポケットにしまっていたスマホが震えた。
なんだよ、こんな時に……って、雪宮? 珍しいな、学校で連絡してくるなんて。
『雪宮:ごめんなさい。今日の勉強会は中止でお願い』
『葉月:お? わかった』
あいつの方から中止にしてほしいって言ってくるなんて、どうしたんだろう。
「淳也、今日の勉強会は中止だそうだ」
「マジ!? よっしゃ、遊ぶぜ!」
「自主勉するって発想はないのか」
それが淳也らしいと言ったら、淳也らしいけど……っと、また雪宮からメッセージが。
『雪宮:それと、今日は予定があるので帰りは遅くなります。夕飯もいりません』
え……本当にどうしたんだ、あいつ。今まではどんなことがあっても、飯はうちに来て食べていたのに。
心配……ってほどのことでもないけど、何があったんだ……?
でもこれ以上俺が踏み込むことではない。あいつにはあいつのプライベートがあるし、俺がとやかく言うこともないだろう。
俺は最後に『了解』と短く返信し、スマホをカバンの中にしまった。
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