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第5話 挨拶

 さて、洗濯機を回している間、残りをやるか。

 家から持ってきたコードレス掃除機で、家の中のゴミを吸っていく。

 本当にすげー吸えるな。どんだけ溜まってたんだ。

 と、俺の後ろから着いて来ていた雪宮が気まずそうに声を掛けてきた。



「……八ツ橋生徒会長、さっきはごめんなさい」

「え、何が?」

「その……知らなかったとは言え、家庭のことに踏み込んでしまって」



 え、まだ気にしてたの?

 律儀というか、真面目というか。



「だから気にすんなって。気にしいだな、お前」

「誰だって気にするでしょう、あんな風に踏み込んでしまったら。……私だって、自分の家のことに踏み込まれたら、嫌だもの」



 そんなもんかね?

 共働きで小さい頃から家事をしてるって、割と普通な気もするけど。

 ただまあ……雪宮の言葉の裏を考えると、雪宮は家庭の事情に踏み込んでほしくないらしい。

 なるほと、だからこんなに気にしてるんだな。



「んじゃあ、その謝罪は受け取っとく。でも本当に気にしないでくれな」

「そうしてちょうだい」



 ……可愛げのない女。

 いや見た目は可愛いけどさ。

 その後、雪宮と手分けをして雑巾掛けやシンクの洗い物をしていくこと一時間。

 ようやく家の中が綺麗になり、人の住める空間になった。

 久々にこんな手応えのある掃除をしたな。実家にいたとき、半年間放置していた油汚れを彷彿とさせる汚さだったぜ。

 雪宮も感動しているのか、初めて内見に来たような顔で家の中を見渡していた。



「たった三時間で、こんなに綺麗になるだなんて……」

「本当はもう少しやりたいけど、夜も遅いからな。洗濯物は自動乾燥させてるから、半乾きみたいなら干すこと。あとでちゃんと畳めよ」

「わ、わかっているわ。……ありがとう」

「お隣同士だからな。助け合うのは当たり前だ」



 これくらいでお小言をもらうことなく平和な生活が出来るんだったら、むしろ喜んでやるわ。学校と私生活でぐちぐち言われたくないし。

 我ながら本音と建て前をうまく使えている気がする。

 時刻は既に二十二時を回っている。さすがに腹が減ってぶっ倒れそうだ。

 雪宮も同じことを思ったのか、腹から特大の音が鳴り響いた。

 思わず雪宮の方を見ると、ほぼ同時に顔を逸らされた。



「……私じゃないわ」

「いや、無理がある」

「な、何よ。仕方ないでしょ。ご飯食べてないし、お腹が空いたら鳴るのは生理現象よ」

「別に責めてないって。……待ってろ。今カレー温めなおしてくるから」

「カレー! ……あ、こほん」



 あらやだ、満面の笑顔。

 反射的に反応した雪宮だったが、すぐに咳払いをして誤魔化した。

 いや、全然誤魔化しきれてないからな? 「あ」とか言っちゃってるし。

 ま、空腹のお嬢様がここまで期待してくれてるんだ。早く温めなおしてやらないとな。

 自分の部屋に戻り、カレーとライスを温めなおす。

 ライスに関しては申し訳ないが、電子レンジで温めなおしだ。

 十分に温めなおしたカレーをタッパーに詰め、雪宮のところに持っていく。

 相当我慢していたのか、視線は待てをされている犬のようにカレーに釘付けだ。



「一応、明日の朝の分もある。電子レンジで温めなおして食べてくれ。どうせ雪宮、火とか使えないだろうし」

「……電子レンジ使います」

「よろしい」



 最初から素直にそう言えばいいものを。

 雪宮は何かを考えたのか、「そういえば」と続けた。



「このことは誰にも言わないでちょうだい」

「このこと? ああ、隣に住んでることか。勿論だ。俺だって下手に騒がれたくないからな」

「それもそうだけど……部屋のことよ」



 ……部屋のこと?

 雪宮は指をモジモジさせ、恥ずかしそうに俺を上目遣いで見てきた。



「わ、私、何でもできるって学校で言われてるのよ。完璧だとか、完全無欠とか……」

「素直に出来ないって言えばいいじゃん」

「最初はそう言っていたの。でも何故か、『天狗になってない』とか『奥ゆかしい』とか『向上心の塊』とか『令嬢の鑑』とか言われて……」

「否定すればするだけ、周りが持ち上げる、と?」



 俺の言葉に、雪宮はこくりと頷いた。

 なんとも……可哀想だな、それは。



「事情はわかった。別に誰かに言いふらしたりなんかしないから、安心しろ」

「ほ、本当? 嘘ついたら抉るわよ」

「何を!?」

「冗談よ」



 だからお前の冗談はわかりづらいんだよ!

 はぁ……あ、そうだ。



「なあ、その八ツ橋生徒会長ってやめてくれないか?」

「……どうして? 本当のことじゃない」

「確かにそうだけど、あんまり私生活で呼ばれたくないんだよ。普通にくん付けとかさん付けとか。なんなら呼び捨てでもいい」

「……そう、ね。なら、これから家ではくん付けで呼ばせてもらうわ」

「そうしてくれると助かる」



 さっきから結構むず痒がったんだよ、八ツ橋生徒会長って。

 雪宮は嬉しそうにカレーとライスの入ったタッパーを受け取ると、待ちきれないのかウキウキと部屋に入ろうとし……ピタッ。止まった。

 なんだ、どうした?

 首を傾げると、何かを思い出したかのように振り返った。



「どうした?」

「今日は、その……いろいろありがとう。これからよろしく。……おやすみなさい、八ツ橋くん」

「……ああ、よろしく。おやすみ、雪宮」



 扉が閉まったのを確認し、そっと息を吐く。

 ……おやすみ……おやすみ、か。

 一体どれくらいぶりだろうな、おやすみなんて口にしたのは。

 少なくとも実家では数えるくらいしか言った記憶がない。

 挨拶ってのはいいもんだな。間接的にだが、お前は一人じゃないって言われているような感じがする。

 ちょっと上機嫌で自分の部屋に戻る。俺もカレー食って、風呂入って寝よう。

 キッチンでカレーを温めなおす。

 さっきまで二人でいたから、ちょっと静かだなぁ。なんか少し寂し…………。

 ん? 二人で? 誰と誰が?

 ……俺と雪宮が、だ。

 そう。汚部屋の掃除とは言え、女神のような絶世の美少女と同じ部屋に……。

 直後、頭が沸騰した感覚に陥った。

 顔が赤くなっているのがわかる。



「あ……え、うわっ……」



 うわ、マジじゃん……冷静に考えてみると俺、雪宮の部屋で、雪宮と一緒にいたんだよ。

 待って待って待って。え、ちょ、本当に待って。

 去年まで男子しかいない環境で、男子に囲まれて生活していた。

 ぶちゃけ童貞だし、むさ苦しいことこの上なかったが、気軽で過ごしやすい環境だった。

 そんな俺が、勢いとは言えさっきまで女子の部屋で雪宮と一緒に、て……。



「ぅぉぉぉぉぉぉぉ……ぅゎぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」



 い、今更だとは思うけど、いきなり恥ずかしくなってきた!

 やべ、脳が煮えそう! このカレーのように!

 何言ってんだというツッコミは無しで。

 お、お、お、おちちゅ、落ち着け俺。もう過ぎたことだ。過ぎたことをとやかく考えても仕方ないだろうッ!

 そうだ、飯。飯を食おう。飯食って寝たら、全部忘れる! ……いや無理があるか。

 でも現実逃避しよう。うん、そうしよう。

 皿にライスと温めなおしたカレーをよそい、リビングへ向かう。

 と……ん、なんだ? 雪宮の部屋から声が聞こえるような。

 意外と薄いんだな、ここの壁。……なんか、ちょっといけないことをしてる気分。

 聞いちゃいけないとわかっていながらも、ムクムクと膨れ上がる好奇心には逆らえず。

 なんとなく、じっと壁の方を向いていた。

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