第57話 思い出のアルバム
夕飯を食い終え、クローゼットの奥にしまっていたアルバムを取り出す。
一冊しかない、俺の大切なアルバムだ。
しかもそのアルバムにも、十枚くらいしか入っていない。
さすがに驚いたのか、雪宮はポカンとしていた。
「……薄い……」
「言ったろ。俺の写真って、黒月と一緒に撮った写真しかないんだって」
「そ、そうだけど……なんか、ごめんなさい」
「謝るな。悲しくなる」
別に俺は気にしてない。
……気にしてないったら、気にしてない。
食後のコーヒーとココアを入れている間、雪宮がアルバムを眺めている。
「これが黒月さん?」
「ああ。俺の後ろにいる子だ」
「ということは、こっちが八ツ橋くん……」
じーーーー……。
ガン見してるな。そんなに黒月の昔の姿が気になってたのか。
気になるのもわかる。全然イメージと違うもんな。
今は明るい金髪だけど、昔は黒髪。
しかも前髪も長くて、カメラに撮られるのも嫌ってたっけ。
常に俯きがちで、涙目で、震えてて。
……そう考えると、なんであんなに陽キャっぽくなったんだ?
素朴な疑問を覚えつつ、入れたココアを雪宮の前に差し出す。
「あ、ありがとう」
「気にすんな。いつも俺が入れてもらってるからな」
たまには俺がやっても、罰は当たらんだろ。
雪宮はココアを一口飲み、またアルバムを凝視した。
……そんなに凝視することないと思うけど。
「ふーん……へぇ……」
「何かあったか?」
「時の流れは残酷だと思って」
「それ黒月の前で言うなよ?」
「あなたのことよ」
「ならいいか」
「……冗談よ?」
「知ってる」
さすがの俺でも、それが冗談ってくらいはわかるさ。
どんだけ雪宮と一緒にいると思ってるんだ。
……まあ、言うて一ヶ月くらいだけどさ。
「八ツ橋くんもそうだけど、黒月さんのこの黒髪、すごく綺麗ね。少し赤がかってるのかしら」
「あー、確かにそうだった気もする。光の具合で赤っぽくなってたっけ」
「いいわね。私の髪は真っ黒だから、重く見えちゃうのよ」
「そうか? お前の髪も綺麗だろ」
こういうのを無い物ねだりというのだろうか。
無い物でいうと、もっと下の方が……いややめておこう。これを言葉にすると最悪殺される。
コーヒーと一緒に言葉を飲み込む。
と、雪宮がぎょっとした目で俺を見ていた。
気のせいだろうか。若干頬が赤らんでるような?
「なんだ?」
「な、なんでもないわ。……あなたって、そういうところあるわよね」
「なんだよ。その意味深な言い方は」
「ふんっ」
機嫌悪くなった。なぜだ。
首を傾げて、アルバムに視線を落とす。
「うわ、懐かしいなこれ。黒月と家庭用プールに入った時のだ」
「みたいね。二人とも、すごく楽しそう」
「ああ、実際楽しかったな。俺はほぼ初のプールだったし、黒月もこの時ははしゃいでた気がする」
これ自体も、黒月の家にお呼ばれしたんだっけ。
「……いいわね、幼なじみって」
「雪宮にはいないのか?」
「そうね。いないわけじゃないけど、いると言ったらいないこともないわ」
「それいないのと同じだろ」
微妙なニュアンスでにごすな。あと顔背けるな。
「いいじゃない、私のことは。はい、アルバム。ありがとう」
「んにゃ、これくらいどーってことないさ」
雪宮からアルバムを受け取ってクローゼットにしまおうとすると、不意に一枚の写真が落ちた。
おかしい。アルバムの写真はちゃんとフィルターに入ってるから、落ちることはないんだけど。
写真はヒラヒラと舞って、雪宮の足元に落ちる。
「何してるのよ……ぇ……?」
「雪宮、どうした?」
写真を拾った雪宮の目が見開かれる。
なんだ? そんなヤバいもんが写ってたのか?
雪宮の横から写真を覗き込む。
そこに写っているのは、小さい頃の俺と黒月。そして、もう一人。
綺麗な横顔だけど、男の子だ。
けど……誰だろう、これ。知らない子だ。
てか、これいつ撮った写真だ? 全然覚えがないんだけど。
え、こわ。覚えのない写真があるとかこわ。
「雪宮、もういいか?」
「……ぇ。あ、はい」
雪宮から写真を受け取り、アルバムにしまう。
怖いけど、俺にとっては数少ない思い出の写真だ。覚えてないだけで、捨てるのはもったいない。
ま、もうしばらくは見ることないと思うけどな。
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